世界遺産NEWS 23/07/06:彦根城はプレリミナリー・アセスメントを活用、飛鳥・藤原は推薦延期へ
文化庁の文化審議会世界文化遺産部会は7月4日、世界文化遺産の推薦について立候補のあった「彦根城」と「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」に関して今後の方針を発表しました。
「彦根城」は今年2023年9月に導入されるプレリミナリー・アセスメントと呼ばれる事前評価制度を申請し、「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」については来年の推薦を見送ることになりました。
■世界遺産の候補推薦、今年度は見送り 彦根城は「事前評価」申請へ(朝日新聞DIGITAL)
今回はこのニュースをお伝えします。
なお、プレリミナリー・アセスメントについては本記事でも簡単に紹介しますが、詳細については最後にリンクを張った「世界遺産NEWS 23/02/02:導入迫る世界遺産のプレリミナリー・アセスメントとアップストリーム・プロセスの概要」を参照ください。
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現在、世界遺産の推薦枠は各国年1件に限られています。
この1件について、文化遺産は文化庁が毎年、自治体などから候補を募集しています。
そして応募された推薦書草案を審査し、例年7月に文化審議会の世界文化遺産部会が文化遺産としての推薦候補を選定しています。
最終的に、9月に世界遺産条約関係省庁連絡会議が自然遺産候補も含めた中から推薦物件を決定します。
決定した推薦物件について、基本的に同月中にUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)の世界遺産センターに暫定推薦書を送付し、翌年1月に内閣の承認を受けた後、2月1日までに正式な登録推薦書を世界遺産センターに送ります。
そして今年は「彦根城」と「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」が立候補していました。
これに対して世界文化遺産部会は以下のような意見と課題を発表しました。
文化庁の報道資料から抜粋しましょう。
■「彦根城」について
○意見
「彦根城」については、暫定一覧表記載から長期間が経過しており、世界遺産委員会の諮問機関であるイコモスによる世界遺産の価値に係る評価も多様化している中で、その顕著な普遍的価値について、イコモスとの対話を踏まえ更に検討を進める必要がある。
今年より、ユネスコにおいて事前評価制度が開始されることから、同制度を活用して顕著な普遍的価値の検討を進めることが有効であると考える。
このため、より物証に基づいた具体的な説明を加えるなど、顕著な普遍的価値の証明に係る課題に更に対応するとともに、上記事前評価制度を活用し、今後の方向性を検討すべきである。なお、イコモスの評価次第では、その指摘に応じて提案内容の見直し、あるいは推薦の可否の検討も視野に入れて取り組むべきである。
○課題
- 物証に基づいた具体的な記述を加え、「彦根城」が近世日本の統治体制を表わす城郭であることの説明をより深めること
- 近世城郭が約180存在した中で、主張する価値に照らし、なぜ「彦根城」がその代表となるのかについて、更に明確に説明すること
- 暫定一覧表記載が長期間を経ていることから、世界遺産委員会の諮問機関であるイコモスとの対話を通じて、顕著な普遍的価値を更に明確化すること
■「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」について
○意見
「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」については、世界遺産登録の要件となる資産の保護(文化財等指定)が進められているものの、必ずしも十分でない状況であり、引き続き取り組むべきである。
また、資産の管理・整備に係る関係省庁・関係自治体等による包括的な体制の構築、全体方針の策定、国際的な理解を得るための価値の説明の精査・充実等について更に取り組むべきである。
○課題
- 文化財の追加指定等、関係自治体において資産の保護を万全とするための取組を継続することが必要
- 関係省庁・関係自治体等による連携体制を構築した上で、緩衝地帯も含め、世界遺産として一体的に保護していくための幅広い共通認識の構築が必要
- 顕著な普遍的価値の更なる精査を行いつつ、その価値に紐づく構成資産の精査が必要
- 本資産の世界的価値について国際的な理解を得るため、海外の専門家との対話等を通じた検討及び説明ぶりの精査・充実が必要
- 構成資産が多様かつ複数あるため、その整備・活用にあたっては世界遺産としての包括的な方針を策定することが必要
結論として、「彦根城」については今年2023年9月に導入される事前評価制度、いわゆるプレリミナリー・アセスメントを利用することになりました。
一方、「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」は課題が多く、即座の解決も難しいことから、来年2月1日までの推薦は見送られました。
プレリミナリー・アセスメントは登録推薦書の提出前に行われる事前評価制度で、今年9月に導入されます。
2028年の世界遺産委員会から完全施行で、物件を推薦するためにはプレリミナリー・アセスメントを受けることが義務付けられますが、それまでは移行期間となっています。
言い換えると、2027年の世界遺産委員会、つまり2026年2月1日までの推薦に関しては従来通りでも問題ありません。
プレリミナリー・アセスメントでは諮問機関、文化遺産なら主にICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)、自然遺産ならIUCN(国際自然保護連合)が約1年をかけて調査を行い、具体的なガイダンスとアドバイス・勧告を含んだ「事前評価報告書(プレリミナリー・アセスメント・レポート)」を作成します。
完全施行後は世界遺産の推薦に際してこの事前評価報告書の提出が必須となり、最大5年という有効期間も定められています。
スケジュール的には以下のようになっています。
○プレリミナリー・アセスメント・フェーズ
- 9月15日まで(1年目):プレリミナリー・アセスメントの世界遺産センターへの要請期限
- 10月15日まで(1年目):世界遺産センターが要請を確認し、不備がなければ受理を締約国に通知し、諮問機関に要請を送達
- 10月~翌年9月(1~2年目):諮問機関による調査
- 10月1日まで(2年目):諮問機関は事前評価報告書を世界遺産センターに提出。その後、世界遺産センターは締約国に送達
- 締約国は事前評価報告書を受け取ってから12か月間は登録推薦書を提出することができない
- 事前評価報告書の有効期間は5年で、5年目の2月1日までに推薦しない場合は新たにプレリミナリー・アセスメントを受ける必要がある
「彦根城」はさっそくこの制度を利用し、9月15日までに要請を行うということです。
そうすると、2024年10月頃に事前評価報告書を受け取り、その後1年間の待機期間を経て、推薦は最短で2026年2月1日までとなります。
したがって、世界遺産登録は最短でその1年半後、翌年の2027年夏になります。
少なくとも4年もかかるうえに、事前評価報告書の内容が悪ければ推薦されないかもしれません。
一方、他の候補地が再来年の2025年2月1日までに従来通りの推薦を行った場合、2026年夏の世界遺産登録も可能です。
「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」が先に世界遺産になる可能性もあるわけです。
なんだかややこしい話になりましたね。
世界遺産の登録プロセスはこのプレリミナリー・アセスメントとアップストリーム・プロセスの導入で大きく変わりつつあります。
その詳細については以下の記事を参照してください。
※2024年9月9日追記
2024年9月9日、文化庁の文化審議会は2026年の世界遺産登録を目指して「飛鳥・藤原の宮都」を推薦候補に選定しました。
このため順調にいけば「飛鳥・藤原の宮都」は上に書いたように2025年に推薦され、2026年に世界遺産登録の可否が決まることになります。
詳細は以下の続報を参照ください。
※2024年10月15日追記
2024年10月9日、文化庁はICOMOSからプレリミナリー・アセスメントの事前評価報告書を受け取ったことを発表しました。
こちらも詳細は以下の続報をご覧ください。
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