世界遺産NEWS 20/05/12:イエメンのサナア旧市街とソコトラ諸島で戦闘
5月上旬、サウジアラビアが主導するアラブ連合による空爆でイエメンの世界遺産「サナア旧市街」の歴史的建造物3棟が倒壊したということです。
また、同国の島嶼部の世界遺産「ソコトラ諸島」でも戦闘が起きているようです。
■Saudi raids destroy Yemen World Heritage sites(Middle East Monitor)
今回はこのニュースをお伝えします。
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2014年からイエメンは内戦状態に陥っています。
現在、人口3,000万人の80%が支援を必要としているとされ、国連(国際連合)は「世界最悪の人道危機」とさえ断じています。
簡単に解説すると、2014年にイスラム教シーア派のフーシ派がイエメンの首都サナアを制圧して政権を奪取しました。
これに対して一時は国外に逃れていたハーディー大統領が南部の港湾都市アデンを押さえて暫定政権を成立させました。
このふたつの勢力を中心にイエメン国内にはアルカイダ系やISIL(イスラム国)系などテロ組織も含めてさまざまな勢力が台頭し、内戦状態に陥りました。
2015年、サウジアラビアを中心としたスンニ派諸国がアラブ連合軍を展開してイエメンに空爆を行いました。
この際に世界遺産「サナア旧市街」も被害を受けています。
これに対してフーシ派も弾道ミサイルやドローンを使ってサウジアラビアの空軍基地などに攻撃を行いました。
この内戦は大局的にはイランやシリアといったシーア派諸国の支援を受けたフーシ派と、サウジアラビアを中心としたスンニ派諸国の支援を受けた暫定政権の争いで、イランとサウジアラビアの代理戦争ともいわれます。
一見、宗教戦争のように見えますが、実情はまったく異なります。
サウジアラビアが恐れているのは欧米の傀儡政権や長期独裁政権を打ち破った革命の輸出です。
サウジアラビアは「サウード家のアラビア」という名前の通り、欧米主導で生まれたサウード家による長期独裁政権ですから、中東で唯一欧米の支配を民主革命で破ったイランや、隣国で長期独裁のサレハ政権を倒したイエメンはなんとしても否定しなければなりません。
この辺りは最後にリンクを張った過去記事や外部記事を参照してください。
2020年に入ってもフーシ派と暫定政権の対立構造は変わっておらず、アラブ連合による介入も続いています。
ただ、新型コロナウイルスの拡大を受けて国連が3月下旬に停戦を呼び掛けており、連合軍は戦闘の停止を受け入れました。
4月24日には1か月の延長が発表されています。
しかしながら5月上旬、アラブ連合軍はサナアを空爆し、旧市街の3棟の建物が倒壊した模様です。
建物はもともと4月の洪水を受けて損傷していたようで、修復を受ける前に爆撃を受けてしまいました。
この洪水は4月中旬のもので、雨季の雨が鉄砲水となってサナアを襲い、数十棟が被害を受けました。
洪水に対してUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)は4月下旬に懸念を表明し、資金援助を含む支援を発表していました。
さらに悪いことにフーシ派は5月6日、サナアで初となる新型コロナウイルスの感染者を確認したことを発表しました。
当局は周辺を封鎖し、近郊のモスクに閉鎖を命じたということです。
イエメンは衛生状態も治療体制も悪く、マスクはもちろん手を洗うための清潔な水や石鹸の確保さえ難しいことからパンデミックが懸念されています。
一方でフーシ派は5月上旬に軍事徴用を行っているとの情報もあり、戦闘の恐れも高まっているようです。
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ソコトラ島はアラビア半島の南350~400kmほどに浮かぶ島で、周囲の島々とともに「ソコトラ諸島」として世界遺産リストに掲載されています。
上の動画にも出てくるリュウケツジュ(竜血樹)をはじめ数多くの固有種が生息することで知られ、「インド洋のガラパゴス諸島」との異名を持っています。
ソコトラ島はフーシ派の勢力が弱い地域です。
2015年からアラブ連合の1国であるUAE(アラブ首長国連邦)がソコトラ島の反フーシ派を支援し、翌年には軍事基地を設置。
2018年には空港を奪取してサウジアラビア軍を上陸させています。
しかしながら現在、ハーディー暫定政権と、暫定政権から2017年に分派した南部暫定評議会が対立しています。
2019年11月に両者は和解に合意しましたが一本化は遅々として進まず、南部暫定評議会は4月下旬に自治を宣言しています。
もともと南部暫定評議会の主張はイエメンからの分離独立ですから、この路線に戻ったことを意味します。
ソコトラ県当局は南部暫定評議会の自治宣言を拒否し、知事はハーディー暫定政権の支持を表明しています。
これを受けたものと思われますが、4月末にソコトラ県の県都ハディブを巡ってハディブの南20kmほどの山岳地帯で戦闘が勃発しました。
未確認ですが、ハディブ周辺の山岳地帯の多くが世界遺産の資産となっていることから世界遺産の中で戦闘が行われたのではないかと思われます。
UAE軍は昨年撤退していますが、南部暫定評議会を支援しています。
サウジアラビアは現在も軍を展開しており、両者の戦闘を阻止するために間に入ろうとしましたが、戦闘を受けて撤退したようです。
両軍の被害や環境への影響も心配ですが、UAEはリュウケツジュを伐採して輸出しているとの報道もあり、この点でも被害が懸念されます。
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サナアは洪水・戦闘・新型コロナウイルスの三重苦に直面しています。
ソコトラ島の状況を見てもわかるようにフーシ派のみならずハーディー暫定政権や南部暫定評議会、その他の多くの勢力が覇を競っており、背後にはアメリカやサウジアラビア、イラン、UAE、各種テロ組織の思惑もあり、問題はあまりに複雑です。
新型コロナウイルスの影響もあって報道も減ってきていますが、せめて停戦が守られ、国連の支援が続くことを願います。
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