世界遺産NEWS 20/01/16:ガラパゴスゾウガメを絶滅から救ったディエゴが繁殖引退へ
エクアドルの世界遺産「ガラパゴス諸島」に生息するガラパゴスゾウガメの一種、エスパニョーラゾウガメ。
主にエスパニョーラ島に生息する固有種で、1960年代にはわずか14頭の成体が確認されるのみとなっていました。
現在、繁殖プロジェクトが奏功して約2,000頭まで回復していますが、このプロジェクトに大きく貢献したのがオスのディエゴです。
ディエゴはサンタクルス島のガラパゴス繁殖センターで繁殖に勤しんでいましたが、今回その役割を終えてエスパニョーラ島に戻されることになりました。
■This playboy tortoise had so much sex he saved his entire species. Now he's going home(CNN。英語)
今回はこのニュースをお伝えします。
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ガラパゴス諸島は大陸から1,000kmも離れた諸島で、隔絶された環境の中で少ない種が多彩に進化したことで知られています。
一例が代名詞となっているゾウガメで、もともと「ガラパゴ」はスペイン語で大きなリクガメを意味します。
ガラパゴスゾウガメはガラパゴス諸島に住むリクガメの総称ですが、ひとつの特徴が背甲(甲羅)の形で、鞍型・ドーム型・中間型の3種に分類されます。
鞍型では首の上の背甲が大きく盛り上がっているのですが(下のロンサム・ジョージの写真参照)、これは陸上で首を上げてサボテンを食べるために進化したものと思われます。
ガラパゴス諸島には陸生の哺乳動物がいなかったためゾウガメは山も含めてあらゆる場所に進出し、それぞれの環境に適応して進化したと考えられています(ダーウィンの自然選択説/自然淘汰説)。
諸島はスペイン人宣教師によって1535年に発見され、水や食料を確保したり、船の修理や休憩を行う中継地として整備されました。
そんな中で食料として重宝されたのがゾウガメです。
ゾウガメは体長1mを超えるほど大きくて可食部分も多く、エサを与えなくても1年も生きつづけます。
おまけに捕まえやすく美味ということで「生きる缶詰」と呼ばれて10万~20万頭が犠牲になったといわれています。
現在、ガラパゴスゾウガメは15種ほどが確認されていますが、すでに3種が絶滅し、ほとんどがIUCN(国際自然保護連合)レッドリストの絶滅寸前種や絶滅危惧種に分類されています。
絶滅したゾウガメのひとつがピンタゾウガメです。
ピンタ島の固有種ですが、20世紀半ばに乱獲とヤギやブタの放牧による環境変化を受けて絶滅したと考えられていました。
しかし1971年に個体が再発見され、ロンサム・ジョージ(孤独のジョージ)と名づけられました。
近縁種との繁殖プロジェクトが進められましたがロンサム・ジョージはほとんど交尾をせず、2012年に死亡して絶滅種となりました。
エスパニョーラゾウガメはこのピンタゾウガメの近縁種です。
サボテンを食べる鞍型のゾウガメでエスパニョーラ島の固有種で絶滅寸前種ですが、1960年代にはオス2頭、メス12頭のわずか14頭(13頭とするメディアもあります)の成体が確認されるのみとなりました。
1960年代からサンタ・クルス島の繁殖センターで繁殖プロジェクトがスタート。
アメリカのサンディエゴ動物園で飼われていたオスの個体がエスパニョーラゾウガメであることが確認されると、1977年に繁殖センターに移送されました。
これがディエゴです。
繁殖は15頭で進められましたが、ディエゴは積極的に交尾を行い、メスは次々に卵を生みました。
現在エスパニョーラゾウガメは2,000頭まで回復しましたが、800頭はディエゴの子孫と考えられています。
なお、繁殖プロジェクトは1985年にガラパゴス管理局とガラパゴス国立公園局が共同で行うGTRI(ゾウガメ回復イニシアチブ)に引き継がれています。
気になるのは遺伝子の均一性から来るボトルネック効果です。
同じ親から生まれているため遺伝子の多様性が失われているわけですが、均一な集団は環境への対応力に欠け、病気や気候変動に弱いといわれています。
これについては他に2頭のオスがいること、もともとガラパゴス諸島では偶然たどり着いた少数から拡散していること、火山によってゾウガメが絶滅近くに追い込まれるケースも多くて近縁種で交雑するなど対応してきたことなどから問題ないとする考え方もあったりします。
ディエゴはすでに100歳をはるかに超えており、2,000頭まで増えたことからお役御免となり、エスパニョーラ島に帰されることになりました。
2020年3月に15頭の種ガメがエスパニョーラ島に戻される予定です。
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ディエゴを含めてオス3頭、メス12頭のわずか15頭から2,000頭へってすごいですね。
生まれたエスパニョーラゾウガメはエスパニョーラ島だけでなく、近縁種であるフェルナンディナゾウガメがほぼ絶滅してしまったフェルナンディナ島にも環境維持を目的に再導入されています。
そのフェルナンディナゾウガメですが、こちらは19世紀に絶滅したと考えられていましたが、2019年2月にメス1体が1世紀ぶりに再発見されています。
このメスはやはり繁殖センターに送られ、保護されています。
また、ロンサム・ジョージが死んで絶滅したピンタゾウガメですが、こちらはイサベラ島の一部の雑種がピンタゾウガメの遺伝子を引き継いでいることが確認されています。
純粋なピンタゾウガメが生息している可能性もあることから捜索が続いているようです。
ガラパゴスゾウガメにもさまざまな物語があるようです。
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