世界遺産NEWS 19/08/24:アマゾンで観測史上最大の火災群が延焼中
ブラジル・アマゾンのあちらこちらで火災が発生しています。
同国における火災発生件数は昨年同時期の1.83倍、その大半がアマゾン川流域で、延焼スピードは毎分サッカーフィールド1.5個分に及ぶといいます。
火災の煙はブラジル国土の半分を覆い、火災現場から3,000kmも離れたサンパウロの空を「昼間なのに夜のよう」と言われるほどに染め上げています。
■Amazon burning: Brazil reports record forest fires(Reuters。英語)
■Brazil's Amazon rainforest is burning at a record rate, research center says(CNN。英語)
特に被害が深刻なのが約4万件の火災が集中している北西部のアマゾナス州で、州政府は非常事態を宣言しています。
ここには世界遺産「中央アマゾン保全地域群」が広がっていますから心配ですね。
今回はこのニュースをお伝えします。
* * *
アマゾン熱帯雨林の概要を紹介しておきましょう。
アマゾン川流域には世界最大の熱帯雨林が広がっており、世界の熱帯雨林の1/2~2/3を占めています。
総面積は6,700億haと日本の陸地面積378億haの約18倍に及びます。
この地域で植物が排出する酸素量や吸着する二酸化炭素量は世界の20%を超えており、それゆえ「地球の肺」の異名を持っています。
アマゾンが本格的に開拓されるのは1970年代からで、飼料や燃料にしたり油を採るために大豆やヤシの栽培がはじまりました。
森を焼いたその跡に種をまく「焼畑(やきはた)」が行われているのですが、一度使われた畑は痩せて使いものにならないためウシの放牧を行う牧草地に転用され、近隣の森を焼いて新しい畑を作ります。
こうした開墾の70~80%は違法といわれています。
大豆価格の高騰や高速道路の開通を受けて開発規模は急拡大し、多くの森が失われました。
熱帯雨林は本来湿っていて火事が起こりにくいのですが、焼畑の残り火や燃えやすい林が広がることで火災も多発するようになりました。
すでにアマゾン熱帯雨林の10~20%が失われており、一説によると消失面積は777億haと日本の国土の2倍に及びます。
諸説ありますが、これが20~50%になると臨界点を越え、サバナ(雨季にのみ雨が降って草原が広がる半砂漠地帯)化が一気に進むと考えられています。
というのは、森が二酸化炭素とともに水を陸地に吸着しているのですが、緑が失われることで水が海に流れ出すため雨が減り、乾燥化が進みます。
森は温度調節の機能も果たしているため森の消滅と乾燥化はさらなる温暖化をもたらします。
そして温暖化と乾燥化のため雨はさらに減少し、サバナが拡大を続けます。
それでなくても気候変動によってアマゾン流域の気温は上がり、降水量が減っています。
二酸化炭素量が地球規模で増えることが気候変動を後押しすると考えられているため、二重・三重にアマゾンの温暖化・乾燥化を促すことになるわけです。
2007年、WWF(世界自然保護基金)は「2030年までにアマゾンの熱帯雨林の最大60%が失われる」と警告しています。
ブラジル政府の努力で2010年前後に森林破壊のペースは緩和されましたが、2015年(一説では2013年)から再び加速に転じています。
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さて、今回の火災です。
8月中旬、INPE(ブラジル国立宇宙研究所)は人工衛星の画像を解析した結果、2019年に入って8月20日までにブラジル全土で72,843件の火災が発生したと発表しました。
2013年に観測をはじめて以来、最大の数字で、昨年同時期の39,759件に比べて約83%も増加しています。
8月15日以降の1週間だけで新規に9,507件の火災を発見していますが、アマゾンの乾季は7~10月なので火災はさらに増える見込みです。
こうした火災の大半がアマゾン川流域で発生しており、流域周辺の州では軒並み伸び率が高く、アマゾン最大の都市マナウスのあるアマゾナス州で81%増、その北のロライマ州で141%増、南のアクレ州やロンドニア州は138%増、115%増と2倍を超えています。
特に世界遺産「中央アマゾン保全地域群」が広がるアマゾナス州に約4万件もの火災が集中しており、非常事態宣言が発せられています。
火災の煙はブラジルの半分を覆い、約3,000kmも離れた南部沿岸の都市サンパウロにも到達し、住民が「夜のように暗い」と語るほどで、航空便の路線変更も行われています。
こうした火災の原因については焼畑など人為的なものが主であるとしています。
しかし、こうした発表に対し、ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領は「大げさだ」と一蹴しています。
極右政党から出馬して当選し、2019年1月に就任したボルソナロ大統領は過激な公約で知られており、アマゾンの農業・鉱山開発、2020年から履行が予定されている温暖化防止のためのパリ協定からの離脱を明言しています。
ボルソナロ大統領は7月、INPEの森林火災急増の発表に対し、ウソで煽って政権を批判しているとして所長を解任してしまいました。
さらにWWFやグリーンピースが、政府が森を焼いて牧草地を確保することを奨励したことが原因のひとつであると非難したことに対し、彼らが騒ぎを大きくするために放火しているのではないかと反発しています。
こうした言動に対する反響もあって8月21日、Twitterではハッシュタグ「#PrayforAmazonas(アマゾナスに祈りを)」が世界トレンド1位になりました。
フランスのマクロン大統領は「国際的危機」と評し、8月24~26日に開催されるG7サミットの議題にすべきであると主張しています。
ボルソナロ大統領はこれを内政干渉であると切って捨てています。
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来年2020年より履行がはじまるパリ協定には以下ふたつの目標があります。
- 世界の気温上昇を産業革命以前の2度以下に保ち、1.5度に抑える努力を行う
- 温室効果ガス排出量を減少に転じ、21世紀後半には排出量と吸収量を均衡させる
しかし、アメリカが離脱したうえアマゾンの大半を有するブラジルまで脱退するとなると目標の達成は困難と言われています。
それどころかボルソナロ大統領はトランプ大統領と協力してアマゾンの開発計画を進めるとまで言っています。
今後の動向が非常に気になります。
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