世界遺産NEWS 18/12/26:クラカタウの噴火による津波で400人以上の犠牲者
12月22日、インドネシアのスンダ海峡で津波が発生し、ジャワ島西部の海岸を襲いました。
これまでに約430人の犠牲者が確認されていますが、行方不明者も100人を超えており、連絡がとれていない村などもあることからさらなる増加が予想されています。
この津波において、巨大な地震が観測されていないことからアナク・クラカタウ島の噴火が原因と見られています。
クラカタウの火山群は6世紀にジャワ島のカラタン文明を滅ぼし、19世紀には35,000人を超える犠牲者を出す大津波を引き起こしています。
そしてアナク・クラカタウ島やジャワ島西部の沿岸部の一部はインドネシアの世界遺産「ウジュン・クロン国立公園」の構成資産でもあります。
今回はこのニュースをお伝えします。
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12月22日21時30分(日本時間同23時30分)、インドネシア・ジャワ島西部の沿岸部を津波が襲いました。
その直前に大きな地震は観測されておらず、夜で潮の引きも観察しにくかったことから津波は予想されておらず、突如として襲来したようです。
上の動画の中にライブ会場の様子が映っていますが、演奏しているのはセブンティーンという現地で人気のロックバンドでした。
当日は野外ライブを行っていましたが、スタッフが「突然、壁のような津波が押し寄せた」と語るようにいきなり津波に巻き込まれ、リードボーカル以外のメンバーと多くのスタッフ・観客が犠牲になってしまいました。
これまでに429人の犠牲者が確認されていますが、行方不明者も100人を超えており、ケガ人は約1,500人に及んでいます。
なかには連絡のとれない村などもあるようで、被害の全容解明にはまだ時間がかかりそうです。
津波の原因ですが、このところ活発化していたアナク・クラカタウ島の噴火に伴う地滑りが原因と見られています。
前日にも大きな噴火が観察されており、上の動画に収められています。
この噴火によって山体の一部が崩落し、その地滑りによって津波が発生したようです。
↓の動画のアニメーションがわかりやすいと思います。
アナク・クラカタウは日常的に噴火していることからこのような津波の予測の難しさが指摘されています。
今回の津波は高さ約90cmで(入江などはより高くなる傾向があります)、噴火後20分でジャワ島西部に到達したと考えられていますが、噴火と地滑りの規模を正確に予想して10分程度で警報を出すのは簡単ではなさそうです。
インドネシアはこれまでにも多くの地震や津波・噴火の様子が報道されていますが、クラカタウの火山群は古代より非常に活動が活発だったことで知られています。
特に大きな災害が535年と1883年の大噴火です。
これらとまったく関係ないニュースですが、先月、アメリカ・ハーバード大学の考古学や中世史の専門家らが「人類史上最悪の年は536年だった」とする研究結果を発表しています。
この年、世界が黒い雲で覆われ、平均気温が大幅に下がり、ヨーロッパでは「毎日が日食のようだった」と記録され、中国では「夏に雪が降った」と記されています。
536年前後に世界的に火山活動が活発化しており、南極やアイスランドで巨大な噴火があったようですが、アジアでも前年535年にクラカタウが破局的な噴火を起こしていました。
これにより当時ジャワ島で栄えていたカラタン文明が滅亡しただけでなく、ヨーロッパでも気候変動が伝えられており、その後のビザンツ帝国(東ローマ帝国)やマヤ文明の衰退、ペストの流行、民族大移動等と結びつけて考える学者もいるようです。
1883年の大噴火はラカタ島という島で起こりました。
8月26~27日に大噴火が起こるとその噴煙は上空80kmに達してジャワ島は夜のように暗くなり、火山弾が30km以上離れたスマトラ島南西部に降り注ぎ、爆発音は4,800km離れたロドリゲス島まで届いたといいます。
そして火山に伴って巨大な津波が発生し、オランダ当局の発表によると36,417人、当局が把握できなかった死者を含めると一説では12万人に及ぶとされる犠牲者を出しました。
これによりラカタ島の北半分は吹き飛んで消滅し、ジャワ島西部のマングローブ林は根こそぎ奪い去られました。
この火山の影響は世界中で観測されており、噴煙は5年間にわたって地球を覆いつづけ、平均気温は1.2度も低下したといわれます。
ヨーロッパでは異常な色の夕焼けが発生し、それがムンクの『叫び』の背景色に影響を与えたとする研究もあったりします。
吹き飛んだ島の跡ではその後も噴火が起こっており、1927年には海中から新たな島が誕生しました。
これが「クラカタウの子」を意味するアナク・クラカタウ島で、今回噴火を起こした島になるわけです。
この島、現在標高は1,000mに達しますが、わずか100年足らずでこの標高まで成長したことになります。
世界遺産「ウジュン・クロン国立公園」はアナク・クラカタウ島を含むクラカタウ諸島と、ジャワ島西部のウジュン・クロン半島、パナイタン島、ホンジェ山を構成資産としています。
特にウジュン・クロン半島では1883年の津波と降り積もる火山灰によってマングローブ林をはじめ多くの森が消滅してしまいましたが、その後、森は驚異的な回復力を発揮し、数十年~100年をかけて完全に再生されています。
現在、一帯は「スンダランド」と呼ばれる生物多様性ホットスポットの一部を構成しており、1991年にはその多様性と絶滅危惧種の多さ、自然景観の美しさから世界遺産リストに登録されています。
大きな視点から見れば火山や津波は生命のように代謝を繰り返す地球の活動の一部であるわけですが、ひとりの人間にとってはいとも簡単に命を奪う自然の驚異でもあるわけです。
犠牲者ができる限り少ないことを祈ると同時に、こうした津波を予測する研究に期待したいと思います。
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