世界遺産NEWS 18/12/11:クイーンズランドの熱波とグレートバリアリーフの再生計画
オーストラリア北東部を熱波が襲い、世界遺産「クイーンズランドの湿潤熱帯地域」の古代の森や「グレートバリアリーフ」のサンゴ礁が危機を迎えています。
11月下旬、クイーンズランド州を各地の過去最高気温を更新する記録的な熱波が襲うと130以上の山火事が発生し、住民8,000人以上に避難命令が出されました。
グレートバリアリーフは2015年・2016年の大規模な白化から立ち直っていませんが、こうした熱波は白化現象を促すものとして心配されています。
これに対して11月下旬、オーストラリアの大学チームはサンゴの卵と精子を採取して人工的に育成する再生プロジェクトを始動させています。
■Queensland fire: Thousands of Australians told to flee homes as threat level raised to 'catastrophic'(INDEPENDENT。英語)
■Biggest coral reseeding project launches on Great Barrier Reef(News24。英語)
今回はこのニュースをお伝えします。
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先月11月、オーストラリア北東部クイーンズランド州を州首相が「破滅的」と語る熱波が襲い、各地で記録的な高温を観測しました。
ケアンズの11月は平均最高気温が31度、最低が23度です。
ところが26日に42度という過去最高気温を記録したと思ったら、翌日27日には43度でさらに更新。
同州のプロサーパインでは44.9度、マウント・スチュワートでは45.2度と、いずれも過去にない数字を叩き出し、コウモリが空から降ってくるという怪現象も観察されたようです。
しかも雨が少なかったことから山火事が多発し、130以上もの火災が発生しました。
州首相は「破滅的」との声明を発表し、3,200人以上の消防士、322台の消防車、28機の飛行機を投入して対応しました。
29日には40以上の学校が休校し、20,000人以上・8,000戸以上の家屋が危険にさらされる中で、グレースメアの住民約8,000人に避難命令が出されました。
火事は2週間にわたって燃え広がりましたが幸いにも12月上旬になると雨が降りはじめ、現在は小康状態にあるようです。
ただ、夏本番は12~1月であるため、今後の天気が心配されています。
また、WWF(世界自然保護基金)は急減していた有袋類のキタフサオネズミカンガルーが火事によって深刻な被害を受けた可能性を懸念しています。
このカンガルーは過去30年で7割近く減り、生息数は最大2,500匹と見積もられており、増えている山火事もひとつの原因としています。
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クイーンズランドの沖合い250kmほどに全長2,300km以上にわたって延びているのが地球最大のサンゴ礁、グレートバリアリーフです。
グレートバリアリーフは20世紀後半からサンゴの白化が頻繁に見られるようになり、2011年ほどから世界遺産委員会もたびたび危機遺産リスト入りを警告して抜本的な対策を求めてきました。
白化とは、サンゴが白くなって死んでしまう現象です。
サンゴ礁を形成するポリプと呼ばれる動物は、体内に光合成を行う褐虫藻を共生させて栄養を得ています。
この褐虫藻とポリプ自身が作る色素がサンゴの色を生み出しているわけですが、ポリプは水温30度を超えると褐虫藻を体内から吐き出して死んでしまうため、色が失われてしまいます。
2015年と2016年、2年連続で記録的なエルニーニョ現象が発生してオーストラリア近海の海水温が上昇し、史上最悪の白化現象が発生しました。
これによりグレートバリアリーフの3割のサンゴが死滅したといわれています。
回復には10年が必要とされ、これ以上のダメージは不可逆的なものになりかねないと懸念されています。
いまのところ今年の海水温はこの2年の同月を下回っていますが、予断は許さない状況です。
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11月下旬、オーストラリアの複数の大学・研究者からなる研究チームが「幼生再生プロジェクト "Larval Restoration Project"」を発表しました。
年に1度、夏の大潮の日に行われるサンゴの産卵に合わせて数百万の卵と精子を採取して人工的に幼生を育て、ダメージを受けているグレートバリアリーフのサンゴ礁に戻す計画です。
最初は数百平方mの修復からはじめ、将来的には数百平方kmに拡大していく予定ということです。
また、今年10月下旬、オニヒトデを駆除する潜水ドローン「レンジャーボット "RangerBot"」が完成し、グレートバリアリーフで稼働をはじめました。
オニヒトデはサンゴを補食するヒトデで、気候変動でサンゴ礁が減っているのに反してオニヒトデは増殖を続けており、グレートバリアリーフでも深刻な被害を与えています。
これまではダイバーが駆除を行っていましたが、人間に可能な潜水時間は短く、危険な地形やサメなどがいる地域には近づけないなど限界があったため、ロボットの必要性は以前から叫ばれていました。
今回のレンジャーボットはクイーンズランド工科大学などによる10年以上にわたる研究の成果だということです。
レンジャーボットは3つのカメラを持つドローンで、稼働時間は最大8時間を誇ります。
海上からタブレットで操作を行いますが、訓練が不要であるほど簡単で、オニヒトデを発見したらアームを延ばして毒物や酸性物質の注射を行います。
現在5台のロボットが完成しており、いくつかの試験や訓練を経て本格的な稼働を開始するということです。
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山火事はオーストラリアのクイーンズランドだけでなく、アメリカのカリフォルニアやポルトガルなどでも記録的な規模で起こっています。
これらは気候変動による影響と考えられていますから、一時的なものではなさそうです。
前々回の記事でも紹介しましたが、UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)の世界遺産センターが昨年発表した "Impacts of Climate Change on World Heritage Coral Reefs"(世界遺産のサンゴ礁における気候変動の影響)や、2013年に発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書でも、なんらかの対策が採られなければサンゴ礁は消滅する可能性が高いとされています。
ちょうどいまポーランド・カトヴィツェでCOP24(気候変動枠組条約第24回締約国会議)が開催されています。
今回の会議が2020年のパリ協定履行のための実行プログラムの採択期限なので非常に重要です。
どのような結論が出るのか、こちらも注目してみてください。
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