世界遺産NEWS 18/11/03:2019年、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」を再推薦へ
11月2日、菅義偉官房長官は2020年の世界遺産登録を目指して自然遺産候補地「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」を推薦する決定を下したことを発表しました。
■「奄美・沖縄」を世界遺産に再推薦へ 最短で20年登録(朝日新聞DIGITAL)
推薦枠を争っていた文化遺産候補地「北海道・北東北の縄文遺跡群」は再来年以降の推薦に先送りされ、関係者からは落胆の声が上がっています。
■縄文遺跡群の世界遺産推薦見送り 北東北にじむ落胆(河北新報ONLINE NEWS)
今回はこのニュースをお伝えします。
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最初に世界遺産の審議上限と推薦枠について解説しておきましょう。
これまで世界遺産委員会は登録の審議物件の上限を年45件としており、推薦も各国年2件まで(2件の場合、1件は自然遺産か文化的景観)に制限していました。
しかし2020年の審議から上限は35件に減らされ、推薦も各国年1件に絞られます。
推薦は前年に行われるので2019年の推薦分から年1件しか推薦できないことになるわけです。
さらに、35件を超えて推薦された場合、世界遺産の数が少ない国の物件や複数国で推薦するトランスナショナル・サイトやトランスバウンダリー・サイト、自然遺産や複合遺産を優先して審議するとしています。
こうした取り組みはすでに無形文化遺産で行われており、たとえば今月末から12月頭に登録が決まる「来訪神:仮面・仮装の神々」は年間50件の審議上限を超えたため審議が1年延期されています。
では、日本はどのように推薦物件を決定しているのでしょうか?
推薦物件の決定は原則、以下のスケジュールで決定されます。
○世界遺産の推薦スケジュール
- 7月:文化審議会が立候補地の中から文化遺産候補地を決定
- 9月:世界遺産条約関係省庁連絡会議が推薦物件を決定
- 9月末まで:必要に応じ世界遺産センターに暫定推薦書を提出
- 翌年1月:内閣が推薦物件を閣議決定
- 翌年2月1日まで:世界遺産センターに推薦書を提出
- 翌年夏~:諮問機関が現地調査
- 翌々年春:諮問機関が評価報告書・勧告を発表
- 翌々年夏:世界遺産委員会が登録の可否を決定
これまでは文化遺産・自然遺産それぞれ1件ずつ推薦できたため、文化遺産は文化庁、自然遺産は環境省や林野庁が主導し、内閣や外務省等の協力の下で推薦物件を決定していました。
特に文化遺産には多くの候補地があり、1件の推薦枠を巡って毎年熾烈な争いがあることはよく知られています。
文化遺産の候補地は上のスケジュールのように毎年7月に開催される文化審議会で決定されるのですが、今年は「北海道・北東北の縄文遺跡群」に決まりました。
しかし9月になっても世界遺産条約関係省庁連絡会議は行われず、推薦地も決定しませんでした。
暫定推薦書は9月末までに送らなければなりませんから、この時期に決まっていない時点で縄文遺跡群の推薦は難しかったのかもしれません(暫定推薦書の提出は義務ではありませんが、世界遺産センターから書類上のアドバイスを受けることができるため文化遺産は毎回送っています)。
一方、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」は環境省や林野庁が早くから出していた5件の候補地のひとつで、他の4件はすでに登録に成功していることから「最後の候補地」とも言われます。
2017年に推薦されましたが、自然遺産の調査・評価を行っているIUCN(国際自然保護連合)から下から2番目の評価である「登録延期」の勧告を受け、登録が難しいという判断から今年6月に推薦を取り下げていました(詳細は下のリンク「世界遺産NEWS 18/06/06:『奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島』推薦取り下げを決定」参照)。
このような状況での今回の決定です。
菅官房長官はこの決定の理由として、「いずれの遺産もそれぞれ固有の価値があり、甲乙つけがたい面がありますが、自然遺産の候補案件は優先的に審査対象にされること、諮問機関から既に評価が発表されている案件であると、こうしたことを踏まえ、奄美・沖縄に決定した次第であります」と述べています。
「優先的に審査」とは年間の審議上限35件を超えた場合のことを示し、「評価が発表」とは、前回の勧告でIUCNは絶滅危惧種や固有種を含む生物多様性についてはその顕著な普遍的価値を認めていることを示すと思われます。
この物件はもともと10ある登録基準の(ix)生態系と(x)生物多様性を満たすものとして推薦されていました。
しかし、生態系についての価値は勧告で否定されたため、環境省や林野庁はすでに生物多様性に焦点を絞る方針を発表しており、IUCNに指摘を受けていた飛び地の解消やノネコをはじめとする侵略的外来種(IAS)の対策等を進めています。
懸念されていた沖縄島北部訓練場返還地についても今年6月にやんばる国立公園に編入しており、世界遺産の構成資産に含まれる予定です。
こうした準備が順調に進んでおり、より登録の可能性が高いということで今回の決定に至ったようです。
一方、この決定を聞いた「北海道・北東北の縄文遺跡群」の地元からは落胆の声が上がっています。
青森県知事で世界遺産登録推進本部長の三村申吾氏は「引き続き4道県および関係市町の一層の連携のもと、1年でも早い登録実現に向け取り組んでいく」、岩手県の達増知事は「大変残念に思っている。今後は、いっそうの普及啓発に取り組みながら、来年度のユネスコへの推薦と、早期の登録実現に向け取り組んでいきたい」とコメントしています。
「北海道・北東北の縄文遺跡群」については世界やアジアの中での位置づけなどいくつかの課題も指摘されていたため、こうした点を修正しつつ、再来年2020年の推薦を目指すことになりそうです。
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近年、世界遺産登録が難化していると言われますが、それ以前に国内の推薦枠を勝ち取ることが難しくなっています。
文化遺産の推薦物件は毎年7月に文化庁の文化審議会が決めていますが、「北海道・北東北の縄文遺跡群」は2013年から連続して立候補しており、今年2018年にようやくその枠を勝ち取りました。
しかしながら上のような結果ですから、結局6年連続の推薦見送りとなりました。
最終決定を下すのは内閣で、内閣は登録される可能性の高い物件から推薦するという方針を明らかにしていますからこの点は理解できます。
ただ、おそらく内閣は文化庁や環境省・林野庁と連絡を取り合って決めたのでしょうけれど、その過程がよくわかりませんし、最初に示したスケジュールとも異なるという点で、もう少し皆が納得のいく発表の仕方はなかったのかという気持ちは残ります。
2017年1月に推薦が発表された際も唐突でしたから世界遺産条約関係省庁連絡会議とはなんなのかという疑問も残りますし、国内の推薦プロセスをもう少し明確化・透明化してほしいところです。
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※いずれもさらに関連過去記事へのリンクあり
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