世界遺産NEWS 18/07/19:文化審議会「北海道・北東北の縄文遺跡群」を世界遺産に推薦へ
7月19日、文化庁の文化審議会・世界文化遺産部会が開催され、2020年の第44回世界遺産委員会に推薦する文化遺産候補地を「北海道・北東北の縄文遺跡群」に決定しました。
ただ、2020年の世界遺産委員会から各国の推薦上限が年1件に絞られるため(現在2件)、同じく来年の推薦を目指している自然遺産候補地の「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」とバッティングする可能性があります。
このため9月に開催される世界遺産条約関係省庁連絡会議までに調整が行われ、どちらかが選ばれるものと見られます。
今回はこのニュースをお伝えします。
* * *
世界文化遺産の登録を主導する文化庁は、世界遺産暫定リスト記載の物件の中から毎年推薦の立候補地を募集しています。
ただ、推薦には上限があり、各国年2件までで、2件の場合1件は自然遺産か文化的景観でなくてはならないとされていました(複数国による共同推薦であるトランスバウンダリー・サイトを除く)。
このため毎年7月に文化庁・文化審議会は世界文化遺産部会を開催して立候補のあった物件の中から1件を選定しています。
2012年以降の立候補地を並べてみましょう。
■日本の文化遺産の推薦枠争い
※「★」が選定された物件
○2012年の審議物件
- 富岡製糸場と絹産業遺産群(群馬)★
- 長崎の教会群とキリスト教関連遺産(長崎、熊本)
○2013年の審議物件
- 北海道・北東北の縄文遺跡群(北海道、青森、秋田、岩手)
- 百舌鳥(もず)・古市(ふるいち)古墳群(大阪)
- 九州・山口の近代化産業遺産群(岩手、静岡、山口、福岡、熊本、佐賀、長崎、鹿児島)★
- 長崎の教会群とキリスト教関連遺産(長崎、熊本)
○2014年の審議物件
- 北海道・北東北の縄文遺跡群(北海道、青森、秋田、岩手)
- 金を中心とする佐渡鉱山の遺産群(新潟)
- 百舌鳥・古市古墳群(大阪)
- 宗像(むなかた)・沖ノ島と関連遺産群(福岡)
- 長崎の教会群とキリスト教関連遺産(長崎、熊本)★
○2015年の審議物件
- 北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群(北海道、青森、秋田、岩手)
- 金を中心とする佐渡鉱山の遺産群(新潟)
- 百舌鳥・古市古墳群(大阪)
- 宗像・沖ノ島と関連遺産群(福岡)★
○2016年の審議物件
- 北海道・北東北の縄文遺跡群(北海道、青森、秋田、岩手)
- 金を中心とする佐渡鉱山の遺産群(新潟)
- 百舌鳥・古市古墳群(大阪)
- 長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産(長崎、熊本)★
○2017年の審議物件
- 北海道・北東北の縄文遺跡群(北海道・青森・秋田・岩手)
- 金を中心とする佐渡鉱山の遺産群(新潟)
- 百舌鳥・古市古墳群(大阪)★
○2018年の審議物件
- 北海道・北東北の縄文遺跡群(北海道・青森・秋田・岩手)★
- 金を中心とする佐渡鉱山の遺産群(新潟)
今年は上の2件が立候補していましたが、世界文化遺産部会は「北海道・北東北の縄文遺跡群」を選定しました。
同候補地は2013年から5年連続で落選しているので、待望の結果です。
関係者のみなさん、おめでとうございます!
選定の理由として、「顕著な普遍的価値が認められ得ると考えられ、かつ推薦内容の検討状況が現時点で相対的に進んでおり、また推薦後の審査・評価を推薦内容の見直しに反映させる余地が大きい」としています。
佐渡鉱山についても「昨年度からの進捗が見られ、今後、関係自治体が推薦書案の準備を更に進めていくことにより、『北海道・北東北の縄文遺跡群』に次ぐ案件として、有力な推薦候補案件となり得る」と評価しています。
といっても、まだ正式な決定ではなく、大きな壁が立ちはだかっています。
実は、2020年の世界遺産委員会から新登録物件の審議件数の上限が現在の45件から35件に削減され、各国の推薦件数も年1件に絞られます。
推薦は世界遺産委員会の前年2月1日が〆切なので、2019年の推薦分から影響を受けることになります。
これまで文化遺産1件、自然遺産1件の推薦が認められていましたから、文化遺産は文化庁、自然遺産は環境省と林野庁がそれぞれ別に候補地を決めれば問題ありませんでした。
しかし1件となる来年の推薦から、両者がバッティングした場合は調整が必要になるわけです。
そして6月、今年の世界遺産登録を目指していた自然遺産候補地「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」が推薦取り下げとなりました。
環境省は来年の推薦を目指しているということですから、どちらかを選ぶことになりそうです。
推薦物件は9月の世界遺産条約関係省庁連絡会議で決定され、1月に内閣の閣議了解を経て、2月1日までに推薦書が送られます。
ということで、9月まで決定が持ち越されそうです。
■今後のスケジュール
○2018年
- 9月:世界遺産条約関係省庁連絡会議で日本の推薦物件を正式決定
- 9月末日まで:暫定推薦書をUNESCO世界遺産センターへ提出
○2019年
- 1月:内閣にて推薦を閣議了解
- 2月1日まで:正式な登録推薦書をUNESCO世界遺産センターへ提出
- 夏~冬:文化遺産はICOMOS、自然遺産はIUCNが現地調査を含む専門調査を実施
○2020年
- 4~5月:ICOMOS、IUCNが評価報告書を世界遺産センターへ提出、勧告の発表
- 6~7月:第44回世界遺産委員会で世界遺産リストへの登録の可否が決定
* * *
文化遺産候補地「北海道・北東北の縄文遺跡群」の内容を推薦書の原案から抜粋して紹介しましょう。
2016年のものなので、その後若干変更されています。
<「北海道・北東北の縄文遺跡群」資産概要>
■概要
北海道・北東北の縄文遺跡群は、紀元前13,000年頃から約1万年間にわたり、日本列島で成立・発展した縄文文化を具体的に示す日本を代表する18(※17に変更)の考古学的遺跡群である。これらは、土器の使用開始による縄文文化の初期の様相を示す遺跡、成熟した社会や生活を具体的に物語る集落遺跡、環境や生業活動の内容を詳細に示す貝塚、祭祀や精神的な活動の拠点となった環状列石や周堤墓、有機質遺物が良好な状態で埋蔵されている低湿地遺跡などで構成し、縄文文化の顕著な遺構・遺物をすべて含んでいる。さらに、海岸部と内陸部の丘陵地帯、湖沼、河川流域などに立地し、多様な環境への適応の変遷と自然との共生の典型的な姿を示す。
■登録基準との合致
評価基準(ⅲ):狩猟・採集・漁労を生業の基盤に定住を達成し、成熟した縄文文化へと発展を遂げた先史文化の様相を伝承する無二の存在
- 縄文時代と同時期の世界の他地域とは異なり、本格的な農耕と牧畜を選択せず、狩猟、採集、漁労を生業の基盤とし定住を達成
- 世界最古の一つの土器や漆工芸、日本独特の編組技術、縄文時代以降に影響を与えた竪穴建物構造、北海道・北東北の地で成立した大型竪穴建物、貯蔵穴の発達、土偶の出現や記念物の活発な構築は、物質的、精神的に成熟した縄文文化の発展を示す
- 堀(濠)や防御施設のない協調的、開放的な社会の継続的な形成は、社会的に成熟した縄文文化の発展を示す
評価基準(ⅴ):約1万年間もの長期にわたり、気候変動や環境変化に適応し持続可能な定住を実現した、自然と共生した人類と環境との関わり、土地利用の形態を示す顕著な見本
- 完新世の温暖湿潤の気候のもと、世界的にも希な生物多様性に恵まれた生態系に適応し、約1万年間もの長期にわたって持続可能な定住を実現
- ブナを中心とする落葉広葉樹が広がる自然環境に、クリやクルミ、ウルシなどの有用植物で構成する縄文里山と呼ばれる人為的生態系を成立させ生業を維持
- 人間が自然を大きく改変し特定の作物の収量を確保する農耕や牧畜を生業とする定住とは異なり、縄文里山の成立による持続可能で自然資源の巧みな利用による定住を実現
■構成資産
- 大船遺跡(北海道函館市)
- 垣ノ島遺跡(北海道函館市)
- キウス周堤墓群(北海道千歳市)
- 北黄金貝塚(北海道伊達市)
- 入江貝塚(北海道洞爺湖町)
- 高砂貝塚(北海道洞爺湖町)
- 三内丸山遺跡(青森県青森市)
- 小牧野遺跡(青森県青森市)
- 大森勝山遺跡(青森県弘前市)
- 是川石器時代遺跡(青森県八戸市)
- 亀ヶ岡石器時代遺跡(青森県つがる市)
- 田小屋野貝塚(青森県つがる市)
- 大平山元遺跡(青森県外ヶ浜町)
- 二ツ森貝塚(青森県七戸町)
- 御所野遺跡(岩手県一戸町)
- 大湯環状列石(秋田県鹿角市)
- 伊勢堂岱遺跡(秋田県北秋田市)
* * *
個人的にはかなり好きな遺跡群です。
1万年前をはるかに超える古代文化であり、本格的な農耕や牧畜を行わずに定住生活を勝ち取った点も特筆すべきものですし、何より環状列石や縄文土器・土偶などのユニークで力強いデザインがたまりません。
そして、やはり「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の推薦取り下げが響いてきましたね。
最終的な結論は9月の世界遺産条約関係省庁連絡会議で出る予定です。
進展があったらまた報告します。
[関連記事]
世界遺産NEWS 18/11/03:2019年、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」を再推薦へ(続報)
世界遺産NEWS 19/08/01:文化審議会、再度「北海道・北東北の縄文遺跡群」を世界遺産推薦へ(続々報)
世界遺産NEWS 18/06/06:「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」推薦取り下げを決定
世界遺産NEWS 17/07/31:文化庁文化審議会、「百舌鳥・古市古墳群」の推薦を決定(前年。さらに過去の関連記事へリンクあり)