世界遺産NEWS 17/12/03:ハイール地方で8,000年前の最古のイヌの岩絵発見か
古代からイヌは人間のパートナーとして活躍し、文明の発展に大きく寄与したと考えられています。
しかし、いつ頃家畜化されたのかについては考古学的な証拠が残りにくいこともあって定かではありません。
家畜化されたイヌの明確かつ最古の証拠と言われる岩絵がサウジアラビアの世界遺産「サウジアラビアのハイール地方のロックアート」で発見されています。
今年10月、この岩絵に関する論文が発表され、およそ9,000~8,000年前のものという結果が示されています。
■Perros atados con correas en unas escenas de caza de más de 8.000 años de antigüedad(NATIONAL GEOGRAPHIC)
今回はこのニュースをお伝えします。
* * *
いったいイヌはいつから人間と共に生活をしていたのでしょうか?
イヌというのは一般的にイエイヌと呼ばれる家畜種のことを示すのですが、イエイヌがオオカミから分化していることは遺伝子の研究によって明らかにされています。
いつ両者が遺伝学的な分化を迎えたかについては、10万年以上前から1万数千年前まで諸説あって定かではありません。
イヌのような骨は中東からヨーロッパに点在する4万~1万年前の遺跡から出土していますが、それが野生のオオカミのものなのか、飼育されたイエイヌのものなのかは判断が難しく、特定には至っていません。
ただ、発掘された骨の数や、アゴや牙の大きさなどから1万5千年ほど前に家畜化されたとする説が一般的であるようです。
イヌが家畜化された経緯もよくわかっていません。
ただ、オオカミの子供が比較的簡単に人に懐くことから、人の食べ残しなどをあさるために人に近づくようになったオオカミが次第に人と親しくなっていったと考えられています。
経緯はともかく、イヌは文明の発展に大きく寄与したようです。
たとえば、イヌがいることで他の動物に対する警戒を緩めることができるようになり、その労力を他に傾けたり、夜間熟睡できるようになりました。
また、イヌの家畜化の成功を他の動物に応用して牧畜が発明されただけでなく、イヌが家畜を統率するなど牧畜の発展にも大いに貢献しました。
食糧危機の際には食肉としても使われましたし、人間同士が争うようになると村の警戒や戦闘にも使用されました。
そしてこうしたイヌの家畜化を直接的に示す最古の証拠と見られているのが、世界遺産「サウジアラビアのハイール地方のロックアート」に登録されているジュッバとシュワイミスの岩絵群です。
上の動画を見ていただけるとわかるように、イヌが人間と一緒に狩りをしている様子が描かれています。
狩りの対象は主にガゼルやアイベックス、ウマといった草食動物で、ライオンやヒョウが描かれたものもあったりします。
イヌはイスラエル・パレスチナ地方に生息するカナーン・ドッグのような姿で、ハイエナやオオカミとはハッキリ区別されて描かれています。
一部のイヌについては人間とヒモのようなものでつながれており、訓練中あるいはイヌに役割分担があったのではないかと考えられています。
イヌが描かれた岩絵はジュッバで193点、シュワイミスで156点も発見されています。
こうしたことから、これらは野生のオオカミをたまたま育てたというようなものではなく、家畜化されたものと言えそうです。
岩絵が描かれた年代ですが、今回発表された論文によると、周囲の遺跡から発掘された動物の骨などから9,000~8,000年前と推定されています。
サウジアラビアではこれまで6,000~5,000年前のイヌの骨は出土していましたが、それより数千年も古いことになります。
また、家畜であるウシやヒツジ、ヤギについては7,000~6,000年前の骨や岩絵が見つかっていますが、それ以前にイヌが家畜化されていたことの証拠にもなりそうです。
ただ、岩絵から直接年代を特定したものではないことなどから、まだまだ研究の余地はあるということです。
いやー、おもしろいですね。
世界の岩絵群のいずれにも言えることですが、そこには芸術的な価値があるのみならず、年代を特定することで人類の生活様式や自然環境の変遷まで確認することができるのですね。
世界遺産「サウジアラビアのハイール地方のロックアート」の岩絵の歴史は1万年に及ぶと言われていますから、まだまださまざまなことを明らかにしてくれそうです。
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イヌつながりのニュースをもうひとつ。
コスタリカ/パナマ共通の世界遺産「タラマンカ地方-ラ・アミスター保護区群/ラ・アミスター国立公園」に登録されているラス・タブラス保護区で新種のイヌが発見されたということです。
こちらはイヌといってもヤブイヌあるいはブッシュドッグと呼ばれる種で(上の写真)、中南米の森林やサバンナのやぶの中に生息していることからこの名が付いています。
発見は昨年5月に遡りますが、今年9月にヤブイヌの新種であることが発表されました。
体長は最大70cm・10kgほどで、どこかとぼけたかわいらしい顔をしていますが、ネズミやウサギのような動物を常食しており、南米のヤブイヌの中にはシカを組織的に襲うものもいるということです。
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