世界遺産NEWS 17/11/25:ロード・ハウ島でネズミ根絶計画
オーストラリアの世界遺産「ロード・ハウ諸島」の主島であるロード・ハウ島で外来種であるネズミの根絶計画が進められており、2018年内にも空中から毒入りエサの散布を行う予定です。
この計画に反対の声をあげる住民や学者もおり、議論が活発化しているようです。
■Lord Howe tree lobster officially back from dead as island pushes ahead with poison program(ABC News)
今回はこのニュースをお伝えします。
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上の動画はご覧いただけましたか?
オーストラリアの世界遺産「ロード・ハウ諸島」の構成資産のひとつであるボールズ・ピラミッドです。
映画にでも出てきそうなすごい形をしていますね。
約640万年前の噴火によって誕生した小さな島で、18世紀後半に発見されるとボール中尉の名前と三角形の形状からその名が付きました。
周辺に大きな島は存在せず、大陸から600km、ロード・ハウ島まででも25km離れた孤島で、断崖の高さは562mもありますが、大きさは全長1,100m×幅300mにすぎません(周辺に小さな岩礁はあります)。
2001年、生態系の調査に訪れた生物学者が絶滅したと思われていたロードハウナナフシを約100年ぶりに発見しました。
ミステリアスな島でのミステリアスな昆虫のミステリアスな再発見ということで大騒ぎになりました(この虫は↓の動画に登場します)。
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もともとロードハウナナフシはロード・ハウ島で発見された固有種です。
19世紀には珍しいものではなかったようで、島民はこのナナフシを捕まえては釣りエサとして使っていたようです。
しかし、20世紀に入ってその数は激減してしまいます。
原因はネズミです。
1918年、一隻の船が難破した結果、船にいたクマネズミが島に侵入してしまいました。
ネズミは急速に繁殖すると、固有種である鳥類5種と昆虫13種を絶滅に追い込みました。
ロードハウナナフシも同様で、目撃例がないことから1925年に絶滅ということになりました。
1960年代に先のボールズ・ピラミッドがロック・クライマーに注目され、その形とシチュエーションから憧れの地となりました。
すると、1964年に断崖を登ったクライマーがロードハウナナフシの死体を発見し、再発見の期待が高まりました。
しかし、いくつかの死体は発見されたものの生きている個体は見つからず、1982年には登山、1986年には一般人の島への立ち入りが禁止されました。
2001年、生態系の調査に訪れた生物学者がついにロードハウナナフシを再発見しました。
見つかったのは灌木の下に隠れていた24匹のコロニーで、これがすべてでした。
2003年にはチームのメンバーが島に戻り、DNA採取のために雌雄2対を持ち帰りました。
検査の結果、ボールズ・ピラミッドで発見されたロードハウナナフシはロード・ハウ島で絶滅したものと99%以上同じ遺伝子で、同種であることが確認されました。
そして持ち帰った2対をもとに繁殖プロジェクトが始動し、現在は1,000匹を超えているということです。
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ロードハウナナフシが絶滅を免れたのはよかったのですが、多くの鳥や昆虫たちの天敵となっているネズミをなんとかしなければなりません。
そこで参考にされたのが同国の世界遺産「マッコーリー島」の事例です。
マッコーリー島も観光客の立ち入りが禁止されている孤島ですが、19世紀頃から人間が持ち込んだネズミやネコ、ウサギが繁殖して多くの種を絶滅に導きました。
特にウサギの被害が大きく、1970年代には15万羽まで増え、草を食べ尽くして土壌が剥き出しになるなど植生を変えるほどだったといいます。
1985年からネコとウサギの駆除が開始され、2000年までにネコは姿を消しました。
しかし、ネコがいなくなるとウサギが急速に回復をはじめ、2000年代はじめにはまた13万羽まで増えてしまいました。
2008年、オーストラリア政府はネズミとウサギを根絶するために毒入りのエサをヘリコプターから散布し、致死性のウイルスを罹患したウサギを放ち、訓練を受けたイヌを使って巣を探し出すなどといった方法を駆使して駆除を進めました。
この結果、2014年までにネズミは姿を消し、ウサギをほぼ絶滅に追い込むことに成功しています。
この例を踏襲して、ロード・ハウ島でも2018年に毒入りエサの空中散布が計画されています。
ただ、マッコーリー島では毒によって一般の動物が予想以上に多く死んでおり、将来的な毒の影響も予想できないことから、計画に反対する住民や学者も少なくありません。
計画を推進している学者もそうした事実は認めていますが、それでもネズミの被害拡大が懸念される現状を放置するよりもよいと指摘しており、議論が活発化しています。
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日本でもアメリカザリガニやブルーギル、セイヨウタンポポといった馴染みのものからアライグマ、ヒアリ、セアカゴケグモまで、さまざまな外来種が問題になっています。
世界遺産でも「小笠原諸島」のグリーンアノールをはじめ、外来種が問題になっていない自然遺産は存在しないと言えるでしょう。
つい先日も「白神山地」でもともと生息していなかったニホンジカが20頭も撮影され、ブナ林の食害が懸念されているとの報道もありました(ニホンジカは国内外来種とは言えないかもしれませんが)。
ぼくはいま東南アジアにいるのですが、こちらでもっとも愛されている魚はおそらくティラピアです。
臭みもクセもなくてたしかに美味しい魚なのですが、原産地はアフリカです。
そしてティラピアは養殖されているだけでなく、いまやメコン川でもチャオプラヤ川でもトンレサップ湖でも普通に獲れる魚になっています。
外来種が東南アジアの食卓を変えている現実はちょっと怖い気もしますが、考えてみたらイネや小麦、ジャガイモ、スイカなどの帰化植物や栽培種ももともとは海外の種なんですよね。
野生に根付いているか否かを問わなければ日本の野菜の90%以上は海外の種であるようです。
さまざまなことを考えさせられます。
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