世界遺産NEWS 17/06/26:世界遺産のサンゴ礁、今世紀中に全滅の危機
UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)世界遺産センターは6月23日、気候変動がサンゴ礁を特徴とする世界遺産に与える影響を評価した "Impacts of Climate Change on World Heritage Coral Reefs"(世界遺産のサンゴ礁における気候変動の影響)なる報告書を発表しました。
- Assessment: World Heritage coral reefs likely to disappear by 2100 unless CO2 emissions drastically reduce(UNESCO公式サイトより)
報告書によると、二酸化炭素の排出量を減らす抜本的な対策が行われない場合、2100年までにサンゴ礁の大部分が消滅する恐れが高いということです。
今回はこの報告書の概要を紹介しましょう。
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UNESCOが発表した "Impacts of Climate Change on World Heritage Coral Reefs" はサンゴ礁を特徴とする以下29件の世界遺産について気候変動が与える影響評価を記した報告書です。
○サンゴ礁を特徴とする世界遺産29件
- グレート・バリア・リーフ(オーストラリア)
- ロード・ハウ諸島(オーストラリア)
- ニンガルー・コースト(オーストラリア)
- 西オーストラリアのシャーク湾(オーストラリア)
- ベリーズ・バリア・リーフ保護区(ベリーズ)
- ブラジルの大西洋諸島:フェルナンド・デ・ノローニャとロカス環礁保護区群(ブラジル)
- マルペロの動植物保護区(コロンビア)
- ココ島国立公園(コスタリカ)
- グアナカステ保全地域(コスタリカ)
- ガラパゴス諸島(エクアドル)
- ニューカレドニアのラグーン:リーフの多様性と関連の生態系(フランス)
- コモド国立公園(インドネシア)
- ウジュン・クロン国立公園(インドネシア)
- 小笠原諸島(日本)
- フェニックス諸島保護地域(キリバス)
- カリフォルニア湾の島々と保護地域群(メキシコ)
- レビジャヒヘド諸島(メキシコ)
- シアン・カアン(メキシコ)
- 南ラグーンのロックアイランド群(パラオ)
- コイバ国立公園とその海洋保護特別地帯(パナマ)
- トゥバタハ岩礁海中公園(フィリピン)
- アルダブラ環礁(セーシェル)
- 東レンネル(ソロモン諸島)
- イシマンガリソ湿地公園(南アフリカ)
- サンガニブ海洋国立公園とドングナブ湾-ムカクル島海洋国立公園(スーダン)
- エバーグレーズ国立公園(アメリカ)
- パパハナウモクアケア(アメリカ)
- ハロン湾(ベトナム)
- ソコトラ諸島(イエメン)
サンゴ礁は海底の総面積の0.1%足らずを占めるにすぎませんが、それだけで1/4もの魚種を養うほど生物多様性に富んでおり、熱帯雨林に匹敵することから「海の熱帯雨林」と呼ばれています。
経済効果は1兆ドル以上と見積もられていますが、現在サンゴ礁は世界的に重大な危機に直面しています。
2014~17年の3年間に史上最大レベルのエルニーニョ現象(ペルー沖、赤道付近の海水温が上昇する現象。下降する場合はラニーニャ現象)が起こりましたが、この影響から29件の世界遺産のうち21件で深刻な白化現象が観察されています。
たとえばオーストラリアの世界遺産「グレート・バリア・リーフ」では2016年のたった1年間で浅瀬に生息するサンゴの30%近くが死滅し、リーフ北側のサンゴ礁のほとんどで白化が見られたと伝えられています。
サンゴ礁を構成するサンゴはポリプと呼ばれる個体からなる動物で、ポリプは体内に光合成を行う褐虫藻を共生させて栄養を得ています。
25~28度でポリプの活動はもっとも活発化するのですが、30度を超えると褐虫藻を体内から吐き出して白く変色してしまいます。
これが白化現象で、褐虫藻が戻らなければポリプはやがて栄養不足で死滅してしまいます。
地球規模の白化現象は巨大なエルニーニョ現象が観察された1983年にはじめて観測されました。
1988~89年に強いエルニーニョ&ラニーニャ現象が起こるとふたたび広範囲の白化現象が現れ、2010年にも同様の現象が見られました。
そして2014年6月に起こったエルニーニョ現象はラニーニャ現象と交替しながら2017年5月まで約3年にわたって継続し、史上最大レベルの規模に発展しました。
このように少なくとも1983年以降の30年以上にわたって世界のサンゴ礁は危機的な状況にあり、今後も続くものと思われます。
このエルニーニョ現象の原因と考えられているのが気候変動です。
2013年に発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書によると、世界の地上の平均気温は1880~2012年の間に0.85度上昇し、海面から水深75m層の平均水温も10年間で0.11度の割合で上がりつづけています。
NOAA(アメリカ海洋大気庁)とNASA(アメリカ航空宇宙局)は2016年を1880年の観測開始以来、もっとも暑い1年と結論づけていますが、2014~17年の3年間の平均気温も史上最高レベルで、海水温も高かったようです。
これがエルニーニョ現象を頻発させる原因となっているようです。
気候変動の影響はこれだけに留まりません。
IPCC第5次評価報告書によると、現在大気中の二酸化炭素濃度は過去80万年で最高値となっていますが、海がこの二酸化炭素を吸収することで酸性化が進み、これもサンゴの死滅・溶解の原因となります。
さらに、台風やサイクロンといった災害の大型化や海水面の上昇による海底環境の変化もサンゴのストレスに直結しています。
NOAAは1985年以降、人工衛星を使って海水面の温度を調査していますが、その温度分布を分析した結果、29件のうち半数の世界遺産で海水温の上昇による深刻な被害を受けており、1985~2013年の間に白化の被害が倍増したようです。
のみならず、2014年からの3年間にこれらのサンゴ礁の72%が被害を受け、これまでにない規模の白化が進んでいる可能性が高いということです。
なんの対策もなされなかった場合、IPCC第5次評価報告書では2100年までに地球の平均気温の4.3度の上昇を見込んでいます。
この結果、2040年までに29件のうち25件で白化がさらに倍増し、2100年までにサンゴ礁の大部分が消滅すると見られています(ただし、ここでいう消滅は現在存在するサンゴ礁で、海水温が上がった分、より寒冷地でサンゴ礁が造成されることになります)。
2015年12月にCOP21(国際連合気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択されたパリ協定は19世紀後半の工業化以降の気温上昇を2度以下、できれば1.5度に抑えることを目標としていますが、サンゴにとっては2度の上昇が致命的なものになりかねないと警鐘を鳴らす科学者もいます。
仮にパリ協定の基準が達成されたとしても、現在400ppmを超えている二酸化炭素濃度が350ppm以下にならなければサンゴ礁は回復しないとする研究もあり、いますぐ排出制限を行っても2022年までは回復に転じることはないとしています。
しかも回復基調に転じてから回復までに15~25年はかかるということで、その間の環境悪化も懸念されます。
さらにはアメリカのトランプ大統領が6月上旬にそのパリ協定からの離脱を表明していますから、先行きはまったく不透明です。
世界規模の気候変動についてはまだまだわからないことがたくさんあります。
しかし、サンゴ礁の消滅までそれほど猶予がないという点については間違いなさそうです。
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