世界遺産NEWS 16/12/24:日本がUNESCO分担金の支払いへ

12月21日、政府はこれまで支払いを停止していたUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)の今年の分担金約38.5億円を支払ったことを明らかにしました。

分担金は例年4~5月に支払っていますが、今年は「世界の記憶(ユネスコ記憶遺産、世界記録遺産)」の問題等があってこれまで支払いを留保していました。

 

今回はこのニュースをお伝えします。

なお、これまでの過程の詳細については最後にリンクした過去記事を参照ください。

 

* * *

 

日本はUNESCOに加盟しているわけですが、加盟国は分担金を支払うことになっています。

分担金の額は予算に対する分担率で定められており、国連分担金の分担率と同率で、各国の経済規模等を勘案して3年ごとに改定されています。

 

2016~18年の日本の分担率は9.680%、金額にすると38.5億円で、アメリカの22.000%に次ぐ世界第2位となっています。

しかしながらアメリカは2011年のパレスチナUNESCO加盟以降支払っていないので、実質的には世界第1位であるわけです。

 

日本は例年4~5月に分担金を支払っていますが、2016年は留保していました。

その理由は世界の記憶の問題にあります。

 

世界の記憶は世界遺産、無形文化遺産と並ぶUNESCO三大遺産事業のひとつです。

新たな物件を登録するために2年に一度IAC(国際諮問委員会)が開催されているのですが、2015年の第12回IACで「南京虐殺のドキュメント "Documents of Nanjing Massacre"」が登録されました。

 

政府はUNESCOに真正性(ホンモノであること)の確認や登録プロセスの公開等を求め、中国政府にも共同での調査・研究を提案したのですが、いずれも受け入れられずに登録が決まりました。

世界の記憶の目的はデータの保存・公開・活用であるにもかかわらず、いまだに「南京虐殺のドキュメント」の詳細が公開されていないことも不信をあおりました。

 

さらに、2017年のIACに向けて9か国15の市民団体と博物館等が「慰安婦の声 Voices of the ‘Comfort Women'」を推薦しています。

こちらに対しても真正性の証明や登録プロセスの公開を求める必要があるわけです。

 

こうしたことから政府は馳文科相や松野文科相がイリーナ・ ボコバ事務局長と会談するなどして制度改革を求めており、拠出留保もひとつの政治戦略として採用されました。

 

そして報道によると、岸田外相は12月22日、分担金約38.5億円を今週はじめに支払ったことを明らかにしたということです。

理由として世界の記憶に対する制度改革の進展をあげたようですが、UNESCO内での影響力低下や対日批判を恐れたためと分析する報道機関も少なくありません。

 

特にここ数年、分担率第3位で7.921%を誇る中国が存在感を強めており、遺産事業の登録数を見ても世界遺産第2位、無形文化遺産第1位、世界の記憶第10位と、力の入れようがわかります。

拠出留保によってUNESCO内でプレゼンスを失うと制度改革にマイナスで、かえって中国等を利するとの判断なのでしょう。

 

ただ、来年の第13回IACについてはこれまでの登録プロセスで行うと思われます。

せめてどのように判断しているのか、その内容だけでも公開してもらいたいところです。

 

 

[関連記事]

世界遺産NEWS 17/05/09:日本、UNESCO分担金の支払いを再び留保(続報)

世界遺産NEWS 16/10/14:日本、UNESCO分担金の支払いを留保(前回の関連記事)

世界遺産NEWS 16/10/06:世界の記憶と慰安婦文書を巡る対立

世界遺産NEWS 15/12/10:UNESCO分担金停止と朝鮮通信使

UNESCO遺産事業リスト集 3.世界の記憶(ユネスコ記憶遺産/世界記録遺産)リスト

  


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