世界遺産NEWS 16/09/11:内戦激化で被害広がるイエメンのサナア

内戦が続くイエメンですが、このところ首都サナアや北部のサアダを中心にサウジアラビアの攻撃機による空爆が激化しています。

軍事施設だけでなく小学校や病院も攻撃を受けており、子供や老人・女性も犠牲になっているようです。

 

世界遺産の「サナア旧市街」も爆撃を受けており、8月25日には9世紀に建造された預言者シュアイビのモスクが破壊されました。

UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)のイリーナ・ ボコバ事務局長は9月3日に声明を発表し、こうした攻撃が建物だけでなくイエメンの歴史とアイデンティティをも傷つけていると非難し、すべてのグループに対して国際法に従って攻撃を即時停止するよう呼び掛けました。

内戦状態に陥っているイエメンの混乱を簡単に解説しましょう。

発端は中東で起こったアラブ人長期独裁政権の連鎖的崩壊、いわゆる「アラブの春」です。

 

2010年12月18日、チュニジアでひとりの若者が焼身自殺を図ると民衆が一斉に蜂起し、23年に及んだベン・アリ政権が倒れました(ジャスミン革命)。

翌年1月にはエジプトに飛び火して、30年のあいだ独裁政権を主導したムバラク政権が崩壊。

2月にはリビアで反政府デモが発生し、33年間政府を率いたカダフィ大佐が殺害されました。

4月にはシリアでもデモが起こり、アサド政権と反政府勢力が対立して今に至る内戦が勃発しました。

 

こうした中でイエメンでも2011年1月に反政府デモが発生し、33年間続いたサレハ政権が終焉を迎えました。

サレハ大統領が権限をハーディー副大統領に委譲して暫定政権が成立すると、翌年2月に大統領選挙が行われて正式にハーディー政権が発足しました。

 

これに対してイスラム教シーア派の一派であるザイド派の武装勢力フーシ派がハーディー政権に反発して武装蜂起。

フーシ派は同じシーア派のイラン、対する政権側はサウジアラビアをはじめとするスンニ派のアラブ諸国と欧米の支援を受けて対立を深めました。

 

2014年9月にフーシ派がイエメンの首都サナアを制圧。

翌年1月にハーディー大統領が辞任してサウジアラビアに逃れると、フーシ派によるシーア派政権が誕生しました。

フーシ派はサレハ元大統領に接近し、協力を取りつけることで勢力を広げました。

 

一方、アラブ諸国はサウジアラビアを中心にカタール、クウェート、バーレーン、UAE、ヨルダン、エジプト、スーダン、モロッコの9か国で連合軍を組織し、3月からイエメンに対する空爆を開始(決断の嵐作戦)。

のちには非アラブ国のトルコとパキスタン、アメリカやイギリスも加わり、アルカイダ系やISIL(イスラム国)系のテロ組織もフーシ派殲滅を宣言しました。

 

そしてハーディー氏は辞任を撤回して大統領に復帰し、サウジアラビアとアメリカの支援を受けて南部のアデンで暫定政権を発足させました。

こうしてフーシ派+サレハ元大統領+イラン、ハーディー大統領+サウジアラビア+アメリカという二大勢力を中心に、中立・日和見・テロ組織等々のさまざまな組織や部族が加わって、混迷を極めています。

サウジアラビアがハーディー大統領を支持するのは、宿敵イランの息の掛かった政権が隣にできることを避けるためです。

イランは民主的な革命(イラン・イスラム革命)によって欧米の傀儡王権を完全に排除していますが、同じように欧米の支援を受けて特権階級となったアラブ人の独裁政権や王族たちは、こうした民主革命の波が広がるのをなんとしても阻止しなければなりません。

一方、イランは「いつまで支配されている気なの?」と被支配層に呼び掛け、反独裁・反王権・反欧米の勢力を取り込み、影響力を強めようとしています。

内戦前はシーア派とスンニ派のイスラム教徒が同じモスクで礼拝していたように、宗教的対立は口実にすぎません。

 

こうしてイエメンはイランVSサウジアラビア&アメリカの代理戦争の場と化しましたが、アメリカの近代兵器を使用するサウジアラビアが優位に立っており、制空権を確保して空爆を行っています。

 

サウジアラビアは条約を批准していませんが、非人道的であるとして「クラスター弾に関する条約」で禁止されているクラスター爆弾(多数の小型爆弾を散布・放出する弾頭)も使っているようで、一部では化学兵器の使用を伝える報道もあったりします。

民間施設への攻撃を厭わず、多くの民間人の犠牲者を出していることから、国連やUNESCO、WHO(世界保健機関)、UNICEF(ユニセフ=国際連合児童基金)、国境なき医師団、国際人権NGOアムネスティなどの国際機関がサウジアラビアに対して非難声明を出していますが、そのかいもなくこの9月に入っても空爆は毎日のように続けられています。

 

国連の発表によると、2015年3月に空爆がはじまってから犠牲者は1万人を超え、人口の8割にあたる2,100万人が人道支援を必要としており、1,300万人に飢餓の危険が迫っているということです。

インフラについても8割が破壊され、大半の官公庁や学校・病院・薬局なども倒壊したか休業状態にあるようです。

世界遺産も「サナア旧市街」だけでなく「シバームの旧城壁都市」や「歴史都市ザビード」でも被害が出ています。

 

シリアやイラクも酷い状況ですが、イエメンもそれに劣らない惨状にさらされているようです。

 

 

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