世界遺産NEWS 16/09/02:長崎の教会群、名称変更を決定
世界遺産を目指している「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」ですが、9月1日に長崎市で関係自治体を中心に世界遺産登録推進会議を開催し、その名称を「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」に変更することを決定しました。
(↑は決定前の動画です)
「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」は2016年の世界遺産登録を目指し、2015年にUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)へ登録推薦書を提出していました。
ところが文化遺産の調査・評価を行っているUNESCOの諮問機関ICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)は中間報告で「禁教・潜伏」に重点を置くべきであるという強い指摘を行いました。
キリスト教の伝達・繁栄に関する世界遺産はすでにたくさんありますが、禁教・潜伏に関する文化遺産は世界的にきわめて貴重であり、ここにこそ顕著な普遍的価値があると判断されたためと見られます。
この報告を受けて登録が厳しいと判断した日本政府は今年2月に推薦を取り下げました。
そして7月に開催された文化庁の文化審議会で、2018年の世界遺産委員会へ再度推薦することを決定しました。
長崎県・熊本県をはじめとする関係自治体は指摘に沿って構成資産の見直しを行い、禁教・潜伏に関連性が薄い日野江城跡と田平天主堂を除外。
さらにそのコンセプトをいっそう明確化するために「潜伏キリシタン」の文字を入れ、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」に名称変更することを決定しました。
これに伴い、推薦書の内容についても全体を貫くストーリーのテーマを禁教・潜伏にシフトし、それぞれの構成資産の解説もテーマに沿った形で書き換えられることになります。
そして9月末までにUNESCO世界遺産センターに暫定推薦書を提出してアドバイスを受けたのち、来年2月1日までに正式な推薦書を同センターに提出する予定です。
■「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」構成資産
※天草市のみ熊本県
- 原城跡(南島原市)
- 平戸の聖地と集落[春日集落と安満岳](平戸市)
- 平戸の聖地と集落[中江ノ島](平戸市)
- 天草の崎津集落(天草市)
- 大浦天主堂と関連施設(長崎市)
- 出津教会堂と関連遺跡(長崎市)
- 大野教会堂(長崎市)
- 黒島天主堂(佐世保市)
- 旧野首教会堂と関連遺跡(小値賀町)
- 頭ケ島天主堂(新上五島町)
- 旧五輪教会堂(五島市)
- 江上天主堂(五島市)
■今後のスケジュール
○2016年
- 9月末まで:暫定推薦書をUNESCO世界遺産センターへ提出
○2017年
- 2月1日まで:正式な推薦書をUNESCO世界遺産センターへ提出
- 夏:ICOMOSが現地調査を含む調査を実施
- 冬:ICOMOSと日本で意見交換
○2018年
- 1~2月:ICOMOSが中間報告を伝達
- 4~5月:ICOMOSが評価報告書を世界遺産センターへ提出
- 6~7月:第42回世界遺産委員会で世界遺産リストへの登録の可否が決定
* * *
長崎・熊本の「禁教・潜伏」に関する映画で、ぼくが公開を待ち望んでいる作品を紹介しましょう。
年末全米公開予定、遠藤周作原作、マーティン・スコセッシ監督 "Silence"(沈黙)です。
ぼくは文学・哲学が大好きなのですが、日本でもっとも好きな作家のひとりが遠藤周作です。
なかでも江戸時代のキリスト教徒を描いた『沈黙』や『侍』はとても思い入れのある作品です。
あらすじです。
17世紀の江戸時代、島原の乱を経て幕府は禁教の徹底化を図ります。
長崎県五島列島でも厳しい取り締まりが行われ、多くのキリスト教徒が処刑され、あるいはキリスト教を捨てることになりました。
そんな地にひとりのポルトガル人司祭が潜伏します。
彼は隠れキリシタンたちの歓迎を受けるものの、やがて幕府に発見されて捕らえられてしまいます。
数々の拷問に耐えて見せたものの、役人たちは「おまえが転べば(キリスト教を捨てれば)、おまえの信者たちを解放しよう」と取り引きを持ちかけます。
神のために他者を犠牲にするか、神を、自己を犠牲にして他者を救うか、はたしてその選択は?――
遠藤周作がキリスト教を題材にした作品をたくさん残しているのは有名です。
代表作といえる『海と毒薬』『沈黙』『侍』『深い河』などはいずれもそうですし、『キリストの誕生』『イエスの生涯』『死海のほとり』の三部作はまさにそのものです。
しかしながら遠藤周作の語るキリスト教は一般に考えられているキリスト教像よりはるかに深いもので、おそらくみなさんが想像しているキリスト教とは少々異なるものだと思います。
上に挙げた小説群を読むと仏教や神道のような汎神的・アニミズム的な香りさえ感じるのではないでしょうか(これが嫌われてノーベル文学賞を逃した、なんて噂もあったりします)。
当然です。
遠藤周作にとってキリスト教はモチーフにすぎず、宗教をきっかけに彼の思考は「宗教とは何か?」「神とは何か?」、それらから翻ってみるに「人とは何か?」といった普遍的・哲学的なテーマへと深度を深めていくからです。
そういう意味で、巨匠スコセッシがこの小説をどう捉えどう描くのか、それに対して世界はどのような評価を下すのか、遠藤周作を生んだ日本の反応はどうか、この辺りがとても気になります。
『タクシードライバー』や『ニューヨーク・ニューヨーク』『ディパーテッド』などで知られるスコセッシですが、『沈黙』はその中でも最長となる195分の大作になると見られています。
アメリカでは2016年期待の映画の2位にランキングされたり、予告編もできていないのにアカデミー賞の噂まで飛び出すなど、大いに期待されているようです。
主演はアンドリュー・ガーフィールド、アダム・ドライバー、リーアム・ニーソンで、浅野忠信、窪塚洋介、加瀬亮、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈らが脇を固めています。
すでに5月に台湾でクランクアップしており、今秋あるいは年末の全米公開予定です。
日本での公開はそれ以降と見られますが、本当に楽しみです!
みなさんもこの機会に禁教・潜伏に対する知識を深めてみてはいかがでしょうか。
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