世界遺産NEWS 16/08/16:文化庁に四国遍路の提案書を提出
8月8日、愛媛・香川・高知・徳島の四国4県の知事らが文化庁を訪問し、「四国八十八箇所霊場と遍路道」を日本の世界遺産暫定リストに推薦するよう提案書を提出しました。
四国遍路に関する提案書の提出はこれで3度目となります。
まずは四国遍路の解説をしておきましょう。
その昔、四国の地は日本の中心とされていた近畿~中国地方からは少々外れていましたが、海の向こうの聖域として尊崇されていました。
多くの偉人が四国にわたって修行を行ったわけですが、のちの弘法大師・空海もそのひとりでした。
774年、香川県善通寺市の屏風ヶ浦に生まれますが、才あって京の都(長岡京)に上京し、役人として大いに活躍しました。
しかし、そこで仏の道に感化され、官職を投げ打って四国に戻り、厳しい修行に入ります。
このとき開創したと伝えられるのが88か所の霊場です。
悟りを開いたとされる場所が高知県室戸市の御厨人窟(みくろど)で、修行中に明星(金星)が口に飛び込んで成道したと伝えられています。
また、この洞窟で空と海ばかりを見つめていたことから「空海」の法名を得たとも言われます。
その後、空海は唐の長安に渡って修行を行い、帰国後に真言宗を確立します。
長安の遺跡は世界遺産「シルクロード:長安-天山回廊の交易路網(カザフスタン/キルギス/中国共通)」、真言宗の総本山である高野山の金剛峰寺は「紀伊山地の霊場と参詣道」、京都の拠点であり根本道場である東寺(教王護国寺)は「古都京都の文化財[京都市、宇治市、大津市]」に登録されています。
88か所の霊場は真言宗を中心に僧の修行場となったわけですが、江戸時代の僧・真念が一定しなかった88か所を特定し、礼所(巡礼地)に番号を振って順番を定め、遍路道と呼ばれる巡礼路を確立しました。
これを記した『四国遍路道指南』がベストセラーになり、「お遍路さん」「お四国さん」などと呼ばれて全国的に親しまれるようになりました。
巡礼路ですが、一般的には発心(阿波:徳島)→修行(土佐:高知)→菩提(伊予:愛媛)→涅槃(讃岐:香川)の順番で1,400kmを超えるルートを巡ります。
これを「順打ち」と呼ぶのですが、悟りに順番は関係ないともされていて、逆に回る「逆打ち」や順番にこだわらない「乱れ打ち」、巡礼を何回かに分ける「切り打ち」、1国ずつ回る「一国参り」などの方法もあったりします。
巡礼がひとつの文化であるのはもちろんですが、地域の人々が巡礼者をもてなす「お接待」や、現地に足を運べない人が札所の砂を踏んで代わりとする「お砂踏み」などの周辺文化もよく根付いています。
世界遺産にはサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路やベツレヘムの聖誕教会と巡礼路をはじめ、数々の巡礼路や巡礼地が登録されています。
こうした海外の巡礼路の場合、そのほとんどは信者が宗教ゆかりの聖地に至ることを目的としています。
ところが四国遍路の場合、真言宗のみならずさまざまな宗教・宗派の方々が歩いているだけでなく、修行や供養・修養・救い・癒し・挑戦等々、その目的も目的地もバラバラです。
宗教的に非常に柔軟で、自分の心との対面に重きを置いた日本特有の文化と言えるでしょう。
* * *
21世紀に入ると1,000年を超えるこの価値ある遺産を見直し適切に保全しようという声が立ち上がり、四国遍路の世界遺産登録が模索されるようになりました。
現在でも四国に世界遺産はないのですが、いつしか各県にとって世界遺産の保有は悲願となり、四国遍路は各県&四国の半数を超える市町村のバックアップの下、オール四国で取り組まれるようになりました。
当面の目標は、四国遍路の暫定リストへの登載です。
世界遺産登録を目指す物件は、正式に推薦される前に各国の暫定リストに記載されていなければなりません(緊急的登録推薦という例外はあります)。
暫定リストも世界遺産リストと同様に、政府がUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)世界遺産センターに届け出るのですが、一定の条件をクリアする必要があります。
2007年、2008年に4県が暫定リストへの登載を求めて「四国八十八箇所霊場と遍路道」の共同提案書を提出しましたが、文化財保護法の指定が十分ではないなどの理由により記載には至りませんでした。
しかしながら2014年には開創1,200年記念を迎えて大いに盛り上がり、翌2015年には「四国遍路 ~回遊型巡礼路と独自の巡礼文化~」の名前で文化庁の日本遺産に登録されました。
そしてこの8月8日、暫定リスト登載に向けての三度目の挑戦ということで、20万人を超える署名とともに文化庁に共同提案書を提出しました。
受け取った文化庁の宮田亮平長官は「熱意は十分受け止めた」と回答したということです。
日本の暫定リストには現在、下記9件が登録されています。
- 武家の古都・鎌倉(文化遺産、神奈川)
- 彦根城(文化遺産、滋賀)
- 飛鳥・藤原 -古代日本の宮都と遺跡群(文化遺産、奈良)
- 長崎の教会群とキリスト教関連遺産(文化遺産、長崎・熊本)
- 北海道・北東北の縄文遺跡群(文化遺産、北海道・青森・秋田・岩手)
- 宗像・沖ノ島と関連遺産群(文化遺産、福岡)
- 金を中心とする佐渡鉱山の遺産群(文化遺産、新潟)
- 百舌鳥・古市古墳群(文化遺産、大阪)
- 平泉 -仏国土[浄土]を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群(文化遺産、岩手)→拡大
世界遺産委員会への推薦枠は各国年2件までで、2件の場合、1件は自然遺産か文化的景観でなければなりません(複数国によるトランスナショナル・サイトやトランスバウンダリー・サイトは主導する国の推薦枠を使用する)。
つまり、文化遺産は実質年1件のみと考えることができます。
暫定リストに多数の文化遺産が掲載されているため、毎年1件の推薦枠を争っているような状態です。
暫定リスト記載、推薦枠獲得、ICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)の調査&評価、世界遺産委員会と、世界遺産登録まで数々の関門が控えています。
しかしながら、日本人の心や信仰の仕方に大きく関係する四国遍路に特別の価値があるのは間違いないでしょう。
ここからどのようにドラマを展開して顕著な普遍的価値を証明していくのか、非常に楽しみです。
[関連サイト]
UNESCO遺産事業リスト集 1.日本の遺産リスト(日本遺産のリストあり)