世界遺産NEWS 16/06/10:ビャウォヴィエジャの原生林、一部伐採へ
ベラルーシ、ポーランドにまたがる世界遺産「ビャウォヴィエジャの森」は、15世紀頃からポーランド王やロシア皇帝の狩猟地として保護されていたおかげで豊かな森林が手つかずのまま残されています。
ヨーロッパの森林は11~13世紀の大開墾時代以来ほとんど伐採されているため、この森は「ヨーロッパ最後の原生林」なんて言われてもいます。
ここには数多くの動植物が暮らしているわけですが、特徴的なのがヨーロッパバイソンです。
かつてはヨーロッパに広く生息していたヨーロッパバイソンですが、乱獲や森林伐採などによって急速にその数を減らし、20世紀はじめには野生種についてはほぼ絶滅してしまいました。
その後、自然公園や動物園に50数頭残っていた個体を人工的に繁殖させて各地に再導入され、現在では数千頭にまで回復しました。
ビャウォヴィエジャの森はその重要な生息地でもあるのです。
ポーランド政府は5月下旬、ビャウォヴィエジャの森の180,000立法mに及ぶエリアの森林を伐採する決定を下しました。
当面、伐採は世界遺産登録範囲の周辺に限られるようですが、影響が懸念されています。
伐採の原因はヤツバキクイムシです。
この甲虫、体長は4~5mmほどしかないのですが、木の幹に穴を開けて樹皮の下に卵を産み付けて寄生します。
大量発生すると樹木を食い荒らし、一帯を枯れ木だらけにしてしまうということで、害虫として扱われています。
今回の決定はヤツバキクイムシの被害拡大を防ぎ、倒木等による被害から観光客を守ることを目的としています。
しかしながらこれにWWF(世界自然保護基金)やグリーンピースなどの環境保護団体のポーランド支部が反対を表明し、キャンペーンを展開しています。
こうした団体によると、ヤツバキクイムシの大量発生はこれまでも定期的に起こっており、原生林はそうした脅威に対応可能で、今回についても深刻な被害を与えることはないとしています。
一方で、人間が手を加えることはこれまで1万年の間になかったことで、生態系に不可逆的な影響を与えかねないと主張しています。
この主張はよく理解できます。
しかし、キクイムシの大量発生が人の手によるものだとしたらどうでしょう?
実はキクイムシの被害は北アメリカでも大問題になっています。
アメリカからカナダに至るロッキー山脈の周辺で20世紀末から森林の消滅が激増しているのですが、この原因がアメリカマツノキクイムシです。
特にブリティッシュ・コロンビア州では半数のマツが死滅する可能性があるといわれています。
アメリカマツノキクイムシの大量発生は気候変動の影響と考えられています。
気温の上昇によって木々のストレスが増して抵抗力が弱っているところに、逆に気温上昇で生息域を広げたキクイムシが簡単に樹木を侵食し、森を荒野へと変えているというのです。
そして森林の減少がさらなる気温上昇と地下水脈・河川の変化を促し、森林の消滅に拍車をかけています。
思い出されるのはアメリカの世界遺産「イエローストーン国立公園」とオーストラリアの「タスマニア原生地域」を襲った山火事です。
1988年にイエローストーンを襲った山火事は総面積の4割を焼き尽くしましたが、自然は当たり前のように回復をはじめました。
ある種の植物は火事によってより高く太く成長し、またある種の植物は火事を契機に繁殖をはじめました。
植物たちは山火事をも織り込んで生きていたのですね。
一方、タスマニアでは今年1月に80件もの森林火災が発生し、世界遺産の多くの森を焼き払いました。
もともと湿度が高く雨が多いタスマニアでは火事は頻発するものではありませんから、これほどの火事が起こったのは史上はじめてのことかもしれません。
このため植物たちがイエローストーンのように超回復することもなさそうで、被害がとても心配されています。
こうした異常な火事はエルニーニョ現象によってもたらされたのですが、そのエルニーニョ現象は気候変動の結果と見られています。
そして気候変動は人間の産業活動による気温上昇が主因と考えられているわけです。
こうなると、北アメリカのキクイムシの大発生やタスマニアの山火事は人災と考えることもできそうです。
「ビャウォヴィエジャの森」におけるヤツバキクイムシ被害の原因はよくわかりませんが、自然のものなのか、人間によるものなのか、簡単に答えられそうにはありません。
UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)やIUCN(国際自然保護連合)もこの問題を注視しており、6月中に調査団を派遣するということです。
その結果と今度の動きが気になります。
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