世界遺産NEWS 16/06/04:2017年の世界遺産候補地
今回は来年2017年夏に開催される第41回世界遺産委員会で世界遺産リストへの登録を目指す世界遺産候補地を紹介しましょう。
その前に、簡単にこのリストの概要を解説しておきましょう。
まだ2016年の世界遺産委員会もはじまっていないのに、なぜ2017年の世界遺産候補地のリストが公表されているのでしょうか?
世界遺産に物件を登録するためには、登録を目指す年の前年2月1日までにUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)世界遺産センターに登録推薦書を送らなければなりません。
2017年の物件については2016年2月1日が〆切で、本リストはその時点で立候補の表明があった物件ということになります。
ただし、以前の世界遺産委員会で「情報照会」の決定を受けた物件(3年以内に再推薦した場合は再審議が可能)や、緊急的登録推薦(各国の暫定リストに記載されていて、明確に普遍的価値を持ち、危機的状況にある物件の例外的な緊急推薦)物件が入ってきたりすることがあるため、このリスト外から推薦されることもあったりします。
また、書類の不備等から審査に及ばない物件や、推薦を取り下げる物件も相当数出てきます。
第41回世界遺産委員会までの日程は下記のようになっています。
なお、UNESCOの諮問機関であるICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)は文化遺産、IUCN(国際自然保護連合)は自然遺産の調査・評価を担当しています。
■2016年
- 夏~:ICOMOS、IUCNが現地調査を含む調査を実施
- 冬:ICOMOSと推薦国で意見交換
■2017年
- 1~2月:ICOMOS、中間報告を伝達
- 4~5月:ICOMOS、IUCN、評価報告書を世界遺産センターに提出
- 6~7月:評価報告書を参考に世界遺産委員会で登録可否が決定
※追記
続報はこちら→世界遺産NEWS 17/05/22:2017年、世界遺産候補地の勧告結果
続続報はこちら→世界遺産NEWS 17/07/10:速報! 2017年新登録の世界遺産!!
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「宗像・沖ノ島と関連遺産群」の構成資産(新原・奴山古墳群はその一部)
注目物件をピックアップしてみましょう。
日本からは「宗像(むなかた)・沖ノ島(おきのしま)と関連遺産群」が推薦されています。
神宿る島・沖ノ島は人数制限を設けた現地大祭以外、いまだに立入禁止の聖域中の聖域。
この島は世界遺産に登録されてもなかなか見学することができそうにありませんが、福岡県宗像市の宗像大社なども構成資産となっています。
自治体が文化庁に提出した「世界遺産暫定一覧表記載資産 準備状況報告書」から構成資産と資産の概要を抜粋しましょう。
■「宗像・沖ノ島と関連遺産群」構成資産
- 沖ノ島(宗像大社沖津宮)
- 沖津宮遙拝所
- 宗像大社中津宮
- 宗像大社辺津宮
- 新原・奴山古墳群
- 小屋島
- 御門柱
- 天狗岩
■資産の概要
本資産は、海に生きた人々による聖なる島に対する信仰が、対外交流の展開の中で自然崇拝から発展してきた過程を古代から現在まで継続的に示す物証として、他に例を見ない顕著で普遍的な価値を有する信仰の資産である。構成資産は、沖ノ島(宗像大社沖津宮)と、大島の沖津宮遙拝所及び宗像大社中津宮、九州本島の宗像大社辺津宮、新原・奴山古墳群から成り※、古代から続く海との一体性をもった広大な信仰空間を構成している。4世紀後半、日本列島と大陸との対外交流の舞台となった海域に位置する沖ノ島において、航海の安全を願いおびただしい量の貴重な品々が捧げられ、自然崇拝を背景とした祭祀が行われるようになった。政治や社会、信仰など古代の国家や地域の発展に貢献した交流の航路の守り神として、沖ノ島の神に対する信仰は発展していった。沖ノ島の巨岩群においては、古代国家の成立期をも含む約500年という長期にわたる祭祀の変遷を伝える古代祭祀遺跡が残されている。また、沖ノ島祭祀を奉斎した氏族によって沖ノ島とその海域を遥かに望む台地上に築かれた新原・奴山古墳群は、海との一体性をもつ広大な信仰空間を形成し、海に生きた人々の信仰の発展を伝えている。さらに、沖ノ島に対する信仰は、宗像三女神を祀る宗像大社沖津宮・中津宮・辺津宮へと発展する。沖ノ島、大島、九州本土と島伝いに展開する信仰の場からなる宗像大社は、海との一体性をもった信仰空間を現代に受け継いでいる。
※後日、小屋島・御門柱・天狗岩が追加されています
世界遺産の初登録に挑戦するのはアフリカのアンゴラとエリトリアの2か国です。
世界遺産条約を批准していて世界遺産を有していない国が現在29か国あるのですが(第40回世界遺産委員会で2か国減る予定です)、減るといいですね。
一方、世界遺産の最多保有国は2016年6月現在イタリア(51件)、中国(48件)となっています。
今年7月の第40回世界遺産委員会ではイタリア0件、中国2件の登録見込みですから、中国が50件となって1件差に詰め寄ることになります。
このところ中国の世界遺産登録の伸びは世界一で、ついに1位に躍り出るところまで迫ってきました。
しかしながら2017年の推薦に関しては、イタリアがなんと4件の推薦(トランスナショナル・サイトとトランスバウンダリー・サイトを含む)。
対して中国は2件。
イタリアは必死の逃げを見せていますが、逃げ切ることができるでしょうか?
「カルパチア山地のブナ原生林とドイツの古代ブナ林」はウクライナ/スロバキア/ドイツ共通の世界遺産ですが、13か国に拡大しようとしています。
多数の国にまたがるトランスナショナル・サイトはいくつかありますが、これまでもっとも多くの国にまたがる世界遺産は「シュトゥルーヴェの測地弧」で、ウクライナ/エストニア/スウェーデン/ノルウェー/フィンランド/ベラルーシ/モルドバ/ラトビア/リトアニア/ロシアの10か国共通遺産となっています。
登録されれば新記録になりますね。
個人的に思い入れがあるのはカンボジアのサンボー・プレイ・クックです。
クメール人の王国・真臘の首都遺跡で、この国がやがてアンコール朝となって世界遺産「アンコール」を建設することになります。
この遺跡、密林の中に点在するとても神秘的な遺跡で、「アンコール」の壮大さ・精緻さとはまた違う、自然と一体化した美しさを楽しむことができます。
「アンコール」は本当にすばらしい遺跡群なのですが、実はその周辺にも苔むしたベンメリア、階段ピラミッド・コーケー、川の中にたたずむクバール・スピアン等々、類のない遺跡が点在しています。
サンボー・プレイ・クックは「アンコール」の拡大か、そうした他の遺跡と一緒に推薦するのかと思っていたのですが、どうやら単体での登録を目指すようですね。
今月末にアゼルバイジャンに行く予定で、シェキに行くかどうかとても迷っていました。
暫定リストに載っているのは知っていましたが、今回このリストに掲載されていることが決め手となって訪問を決意しました。
こういう先物買いも結構していたりします。
* * *
それでは2017年の世界遺産候補地43件(拡大5件含)のリストです。
内容は、文化遺産32件、自然遺産10件、複合遺産1件となっています。
順番は、文化遺産→自然遺産→複合遺産で、それぞれはヨーロッパ→アジア→オセアニア→北米→南米→アフリカ、さらに国別五十音順です。
登録基準については、文化遺産と自然遺産を分けて表記しました。
日本語名は私が適当に訳したものです。
勘違い等あるかもしれませんがご容赦ください。
正式な推薦名称は英語の表記になります。
名称や登録基準は今後変わる可能性があります。
★2016年に世界遺産登録を目指す物件一覧表
<文化遺産32件(変更3件含)>
■ハーンの宮殿のあるシェキ歴史地区
Historic Centre of Sheki with the Khan’s Palace
アゼルバイジャン、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)
■イングランドの湖水地方
The English Lake District
イギリス、文化遺産(ii)(v)(vi)
■20世紀の産業都市イヴレーア
Ivrea, industrial city of the 20th century
イタリア、文化遺産(ii)(iv)(vi)
■15~17世紀におけるベネチアの防衛施設
Venetian Works of Defence between 15th and 17th Centuries
イタリア/クロアチア/モンテネグロ共通、文化遺産(ii)(iii)(iv)
■メノルカ島のタラヨット
Talayotic Minorca
スペイン、文化遺産(iii)(iv)
■クヤータ - グリーンランドにおける亜北極の農業景観
Kujataa – a subarctic farming landscape in Greenland
デンマーク、文化遺産(v)
■更新世氷河時代の芸術作品が残る洞窟群
Caves with the oldest Ice Age art
ドイツ、文化遺産(i)(iii)
■ナウムブルク大聖堂とザーレ川・ウンシュトルト川の中世盛期の文化的景観
Naumburg Cathedral and the High Medieval Cultural Landscape of the Rivers Saale and Unstrut
ドイツ、文化遺産(i)(ii)(iv)
■ワイマール、デッサウ、ベルナウのバウハウスと関連遺産群
The Bauhaus and its sites in Weimar, Dessau and Bernau
※「ワイマールとデッサウのバウハウスとその関連遺産群(ドイツ、1996年、文化遺産(ii)(iv)(vi))」の拡大
ドイツ、文化遺産(ii)(iv)(vi)
■ドイツ中部のルターの遺跡群
Luther Sites in Central Germany
※「アイスレーベンとヴィッテンベルクにあるルターの記念建造物群(ドイツ、1996年、文化遺産(iv)(vi))」の拡大
ドイツ、文化遺産(iv)(vi)
■アフロディシアス
Aphrodisias
トルコ、文化遺産(ii)(iii)(iv)(vi)
■タプタプアテア
Taputapuatea
フランス、文化遺産、(iii)(iv)(vi)
■ヨーロッパ都市ストラスブールのグラン・ディル、ノイシュタット
Strasbourg : de la Grande-île a la Neustadt, une scène urbaine européenne
※「ストラスブールのグラン・ディル(フランス、1988年、文化遺産(i)(ii)(iv))」の拡大
フランス、文化遺産(i)(ii)(iv)
■タルノフスキェ・グルィの鉛・銀・亜鉛鉱山と地下水管理システム
Tarnowskie Góry Lead-Silver-Zinc Mine and its Underground Water Management System
ポーランド、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)
■オルヘイ・ヴェクの考古的景観
Orheiul Vechi Archaeological Landscape
モルドバ、文化遺産(v)
■古代プスコフの建造物群
Monuments of Ancient Pskov
ロシア、文化遺産(ii)(iv)
■スヴィヤズスク島の被昇天大聖堂
The Assumption Cathedral of the town-island of Sviyazhsk
ロシア、文化遺産(ii)(iv)
■伝統的商業港ホール・ドバイ
Khor Dubai, a Traditional Merchants’ Harbour
アラブ首長国連邦、文化遺産(ii)(iii)(vi)
■古都アーマダバード
Historic City of Ahmadabad
インド、文化遺産(ii)(v)(vi)
■交易の時代:ジャカルタ旧市街[旧名バタヴィア]と4つの島嶼部[オンルス、ケロル、クチピル、ビダダリ]
Age of Trade: Old Town of Jakarta (formerly Old Batavia) and 4 Outlaying Islands (Onrust, Kelor, Kecipir and Bidadari)
インドネシア、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)
■古都ヤズド
Historic City of Yazd
イラン、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)
■古代都市カルハット
Ancient City of Qalhat
オマーン、文化遺産(iii)(v)(vi)
■ソウルの城壁、漢陽都城
Hanyangdoseong, the Seoul City Wall
韓国、文化遺産(iii)(iv)(v)
■古代イーシャナプラの文化的景観を代表するサンボー・プレイ・クック考古遺跡
Sambor Prei Kuk Archaeological Site representing the Cultural Landscape of Ancient Ishanapura
カンボジア、文化遺産(ii)(iii)(vi)
■歴史的万国租界、鼓浪嶼(ころうしょ)
Kulangsu: a historic international settlement
中国、文化遺産(ii)(iii)(iv)
■宗像・沖ノ島と関連遺産群
Sacred Island of Okinoshima and Associated Sites in the Munakata Region
日本、文化遺産(ii)(iii)(vi)
■ディルムン古墳群
Dilmun Burial Mounds
バーレーン、文化遺産(iii)(iv)
■レヴァント地方における建築言語の起源と進化、1865~1925年にかけてのアス・サルト折衷建築
As-Salt Eclectic Architecture (1865-1925), Origins and Evolution of an Architectural Language in the Levant
ヨルダン、文化遺産(ii)(iii)
■ヴァロンゴ・ワーフ考古遺跡
Valongo Wharf Archaeological Site
ブラジル、文化遺産(iii)(vi)
■ムバンザ・コンゴ歴史地区
Centre historique de Mbanza Kongo
アンゴラ、文化遺産(iii)(v)(vi)
■アフリカの近代都市アスマラ
Asmara: Africa’s Modernist City
エリトリア、文化遺産(ii)(iii)(iv)
■コマニの文化的景観
Khomani Cultural Landscape
南アフリカ、文化遺産(iii)(iv)(v)(vi)
<自然遺産10件(変更2件含)>
■カルパチア山地とヨーロッパ他地域のブナ原生林
Primeval Beech Forests of the Carpathians and Other Regions of Europe
※「カルパチア山地のブナ原生林とドイツの古代ブナ林(ウクライナ/スロバキア/ドイツ共通、2007年、2011年拡大、自然遺産(ix))」の拡大
アルバニア/イタリア/ウクライナ/オーストリア/クロアチア/スペイン/スロバキア/スロベニア/ドイツ/ブルガリア/ベルギー/ポーランド/ルーマニア、自然遺産(ix)
■シーラ国立公園
Sila National Park
イタリア、自然遺産(viii)(ix)(x)
■アラスバーラン生物圏保存地域
Arasbaran Biosphere Reserve
イラン、自然遺産(viii)(ix)(x)
■ビターカニカ保全地域
Bhitarkanika Conservation Area
インド、自然遺産(vii)(ix)(x)
■青海フフシル
Qinghai Hoh Xil
中国、自然遺産(vii)(x)
■ダウリアの景観群
Landscapes of Dauria
モンゴル/ロシア共通、自然遺産(ix)(x)
■ロス・アレルセス国立公園
Los Alerces National Park
アルゼンチン、自然遺産(vii)(x)
■モール国立公園
Mole National Park
ガーナ、自然遺産(vii)(ix)(x)
■ザクマ国立公園
Parc National de Zakouma
チャド、自然遺産(ix)(x)
■W=アルリ=ペンジャリ国立公園複合体
Complexe W – Arly – Pendjari
※「ニジェールのW国立公園(ニジェール、1996年、自然遺産(ix)(x))」の拡大
ニジェール/ブルキナファソ/ベナン、自然遺産(ix)(x)
<複合遺産1件>
■メソアメリカの固有生息地、テワカン-クイカトラン渓谷
Tehuacán-Cuicatlán Valley: originary habitat of Mesoamerica
メキシコ、文化遺産(iii)(iv)(vi)、自然遺産(x)
2017年初夏にICOMOS、IUCNの勧告結果が出そろったら速報します。
お楽しみに!
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