世界遺産NEWS 16/05/31:米大統領初の広島訪問&演説全訳

5月27日、オバマ大統領が広島市の平和記念公園を訪れました。

アメリカの現職大統領がこの地を訪れるのは史上はじめてとなります。

今回はこの訪問の概要と演説の全訳を紹介します。

特に演説はかなり踏み込んだ内容になっており、アメリカ大統領として非常に意義深いものになったと思います。

ぜひご一読を!

 

* * *

 

1945年8月6日8時15分17秒、B-29爆撃機エノラ・ゲイが原子爆弾リトル・ボーイを投下しました。

光速の放射線と3,000度に達する熱線、音速を超える爆風が広島を襲撃し、爆心地近くの物質は瞬時に蒸発。

半径500m内の人間は即死し、1.2km内の人間もその日のうちに息を引き取りました。

 

一帯には黒く炭化した遺体が散乱し、皮膚を引きずったたくさんの人々が亡霊のように街を歩いていたといいます。

犠牲者は子供や老人・病人等も含めて推定12~15万。

いまなお後遺症に苦しむ被爆者や、二世・三世の被爆者も存在します。

爆心地からおよそ150m離れた当時の広島県産業奨励館は、衝撃をほぼ真上から受けたため建物の中心部分は破壊を免れました。

そして1996年、史上はじめて実戦使用された核兵器の被害の記憶を留めるものとして "Hiroshima Peace Memorial (Genbaku Dome)(広島平和記念碑[原爆ドーム])の名で世界遺産に登録されました。

 

しかしながらアメリカは、この建物の登録に最後まで反対していました。

同年の第20回世界遺産委員会の場において以下のような主張をしています。

 

「原爆ドームの推薦には歴史的な視点が欠けていることを危惧している。第二次世界大戦でなぜ原子爆弾が使用されたのかについて、先行する歴史的な出来事が広島の悲劇を理解する鍵になる。1945年という時代に至るすべての出来事を精査することが、適切な歴史理解に必要であるはずだ。アメリカは、戦争に関する物件の登録が本会議の趣旨から外れていることを確信しており、世界遺産委員会に戦争に関する物件の世界遺産リストへの登録の適切性を審議することを要望する」

 

そして中国も、日本の侵略を否定する人たちに原爆ドームが利用されることを懸念して登録に反対し、世界遺産委員会では棄権に回っています。

結局、世界遺産委員会では21か国中19か国が賛成に回り、2/3以上の賛成をもって登録が可決されました。

広島市では毎年8月6日に、広島平和記念式典を執り行っています。

その目的は原爆死没者の慰霊と同時に、原爆ドームの世界遺産登録と同様、忌まわしい戦争の記憶を風化させず、世界の恒久平和を祈念することにあります。

そのため戦争責任等に関わらず、日本や海外のさまざまな政治家や文化人が訪れているのですが、20世紀中にアメリカの政府代表が出席することはありませんでした。

 

そんななか、2010年にジョン・ルース駐日大使がアメリカ大使としてはじめて式典に参列。

2015年にはキャロライン・ケネディ駐日大使と共にローズ・ゴットメラー国務次官が出席し、政府高官の初参列となりました。

アメリカでは「原爆投下は正義である」と考える風潮がいまなお支配的ですから、大使や高官が出席するだけで騒ぎになるわけです。

 

このような状態ですから、アメリカの現職大統領が広島を訪れるということが世界中に大きなインパクトをもって伝えられました。

そしてオバマ大統領は広島が願う平和に対して17分にわたる演説を行いました。

それは被害者がぼくたちとなんら変わらぬ普通の人間であり、戦争はそんな人々を踏みにじるものであること、そして人には人を傷つける力があり、それを抑制することこそ人類の選択であることを宣言するものでした。

 

この選択が実行に移されることを強く願います。

<オバマ大統領 広島演説 全訳>

 

71年前の雲ひとつない明るい朝、空から死が舞い降りて世界が一変しました。

閃光と炎の壁が都市を破壊し、人類は自らを滅ぼす手段を手に入れたことを証明したのです。

 

なぜ私たちはこの場所を、広島を訪れるのでしょうか?

私たちはそれほど遠くない昔に解き放たれた恐ろしい力を熟慮するために来るのです。

10万人を超える日本人の男性や女性・子供たち・数千人の朝鮮の方々・アメリカ人捕虜十数人の死を悼むために来るのです。

彼らの魂が私たちの心に語り掛けるのです。

私たちが何者で、何者になるのか――

これを考察するよう私たちの心に問い掛けるのです。

 

広島を切り離すのは戦争の事実とは異なります。

過去の遺物は暴力的な紛争が人類のもっとも初期の段階から起こっていたことを示しています。

硬い石から刃を、木から槍を作ることを学んだ私たちの祖先は、こうした道具を狩猟に使うだけでなく、同じ人類に対しても使用したのです。

 

すべての大陸において、文明の歴史は食糧不足や富の渇望・国家主義の熱情や宗教的熱意といったものに突き動かされた戦争に満ちています。

大国が興っては滅び去り、人々は従属しては解放されました。

それぞれの時期に罪なき人々が苦しみ、数え切れない犠牲者を出し、そして彼らの名前は時を経て忘れ去られていきました。

 

広島と長崎で残酷な終結を迎えた世界大戦は、もっとも豊かでもっとも強力な国々によって争われました。

彼らの文明は世界でもっとも偉大な都市や見事な芸術をもたらしました。

思想家たちは正義・調和・真実に関する知見を発達させました。

しかしながら戦争は部族間で争われるもっとも単純な紛争と同じように、支配あるいは征服したいという本能によって突き動かされ、その使い古されたパターンが新しい能力によって抑制なしに増幅されてしまいました。

 

わずか数年の間に約6,000万人が亡くなりました。

私たちと変わらない男性や女性や子供たちが撃たれ、殴られ、行進し、爆撃され、投獄され、飢え、ガスを投げ込まれて死んでいったのです。

 

勇気やヒーロー物語を記録する記念碑や、筆舌に尽くしがたい悪行を呼び覚ます墓や収容所をはじめ、世界にはこの戦争を記憶に留めるたくさんのサイトが存在します。

しかし、空に立ち上るキノコ雲のイメージの中で、私たちはもっとも明確に人間の核にある矛盾を思い起こすのです。

私たちを私たちたらしめているまさにその輝き、私たちの思考力・想像力・言語・道具製造力・私たちを自然と分かち自然を意のままにする能力といったものこそが、私たちに比類のない破壊の能力を授けているのです。

 

物質的な進歩あるいは社会的な改革によって、私たちはどんなにしばしばこの事実を見失ってきたでしょうか?

崇高な大義名分によって、私たちはどんなに簡単に暴力を正当化してきたでしょうか?

 

すべての偉大な宗教は愛と平和と正義への道を約束していますが、いずれの宗教も、その信仰が殺しのライセンスになるという批判を免れません。

国家というものは、犠牲と協力のもとに人々を結びつけ、すばらしい功績を伴って興ります。

しかし、その同じ物語があまりにしばしば異なる人々を抑圧し、非人道的な行いをしてきたのです。

 

科学によって私たちは海を越えて交信し、雲の上を飛び、病気を治し、宇宙を理解することができるようになりました。

しかし、そうした発見はそれまで以上に効率的な殺戮装置の発明をも可能にしました。

現在起こっている戦争が、広島が、この事実を知らしめています。

人間性に同等の進歩がなければ、テクノロジーの進歩が私たちを破滅に追い込むことになるかもしれません。

核分裂をもたらした科学革命には、同様に道徳革命が求められるのです。

 

だからこそ、私たちはこの地を訪れるのです。

私たちはここに、この街の中心に立ち、そして爆弾が落ちたその瞬間を心に思い描こうと努めます。

私たちは子供たちが何を目にして恐怖したのか感じようと努めます。

私たちは声なき叫びを聞くのです。

私たちはあの一連の恐ろしい戦争やそれ以前の戦争で、あるいは今後の戦争で殺される罪なき人々を思い浮かべるのです。

ただの言葉ではこうした苦しみに声を与えることはできません。

私たちには歴史を直視し、こうした苦しみの再発を避けるために何をすべきなのか問う責任があるのです。

 

いつの日か、目撃した "Hibaku-sha"(被爆者)の声が届かなくなる日が来るでしょう。

しかし、1945年8月6日朝の記憶を薄れさせてはなりません。

その記憶によって慢心を防ぎ、道徳的な想像力をかきたてて、私たちは変わることができるのです。

 

そしてあの運命の日以来、私たちは私たちに希望をもたらす選択を行ってきました。

アメリカと日本は同盟だけでなく、友情を築き上げ、戦争によってもたらされたものよりもはるかに多くのものを築いてきました。

ヨーロッパの国々は戦場を通商と民主主義の絆に変える連合を組みました。

抑圧された人々・国々は自由を勝ち取りました。

国際社会は戦争を回避し、核兵器を制限・縮小し、最終的には廃絶するための組織と条約を設立しました。

しかし世界中に見られる国家間の攻撃的な行動やテロ・腐敗・残虐行為・抑圧は、私たちの願いがいまだ成就されていないことを表しています。

 

人間の悪をなす能力を根絶することは、私たちにはできないかもしれません。

だからこそ、私たちが築いてきた国々や同盟は私たち自身を守る手段を所有していなければなりません。

私の国のように核兵器を備蓄する国々は、恐怖の論理を逃れ、核なき世界を追求する勇気を持たなければなりません。

 

私が生きている間に、この目標は実現されないかもしれません。

しかし、根気強い努力によって悲劇の可能性を低減させ、核廃棄への道筋を示し、新たな国への拡散を防ぎ、致死的な物質を狂信者の手から守ることはできるでしょう。

 

それでも十分ではありません。

私たちはもっとも単純なライフルや樽爆弾でさえ恐るべき暴力が起こせることを世界中で目撃しています。

私たちは外交を通じて紛争を防ぐため、あるいは開始された紛争を終結させるために、戦争そのものに対する考え方を改めなければなりません。

相互の関係を推進することが暴力的な競走ではなく平和的な協力をもたらすのだと考え、私たちの破壊の能力によってではなく、築き上げるものによって国家を定義づけるのです。

 

そしておそらくそれ以上に、私たちは同じ人類の仲間として私たちの関係を再構築しなければなりません。

これこそが、人類を人類たらしめているものなのです。

私たちは遺伝子のコードに縛られて過去の過ちを繰り返しているわけではありません。

 

私たちは学ぶことができます。

私たちは選ぶことができます。

私たちは子供たちに違う物語を、同じ人間性を描き出すような、戦争を身近でないものとし残虐性を受け入れがたくするような物語を、言って聞かせることができるのです。

 

私たちはこうした物語を "Hibaku-sha" に見ることができます。

原子爆弾を落とした爆撃機のパイロットを許した女性は、本当に憎むべきは戦争そのものであることを知っていました。

この地で亡くなったアメリカ人の家族を探していた男性は、彼らの死が自分の家族の死と同様であることを確信していたのです。

 

私の国の物語は、「すべての人間は平等に創造され、生命・自由・幸福追求を含む奪われることのない明確な権利を創造主によって保証されている」というシンプルな言葉からはじまりました。

この理想を実現するのは、国内であっても同じ国民であってもけっして簡単なことではありません。

しかし、この物語に真摯であり続けることは努力に値します。

追い求め、大陸を越え海を越えて広げられるべき理想なのです。

すべての人の毀損されぬ価値、すべての命が貴重であるという主張、私たちはひとつの人類家族の一員なのであるという根本的で不可欠な考え――

これらこそ、私たち皆で伝えていくべき物語なのです。

 

それゆえに、私たちは広島を訪れるのです。

愛する人たちのことを思うがためなのです。

子供たちの朝の最初の笑顔、テーブル越しに感じる伴侶との柔らかな触れ合い、親の抱擁の安らい――

私たちはこうしたことを思い浮かべ、71年前に同じ大切な瞬間がここで交わされていたことを知ることができるのです。

 

彼らは私たちと同じです。

思うに、普通の人はこれを理解しています。

もはや戦争を望んでいませんし、科学の驚異は生活を奪うのではなく、発展させることにこそ使われるべきであると望んでいます。

国家が、指導者たちがこの道を選択し、このシンプルな知恵を反映させるとき、広島の教訓は成し遂げられるのです。

 

この地で世界は永遠に変わってしまいました。

しかし今日、この街の子供たちは平和な日々を送っています。

なんと尊いことなのでしょう。

守り、すべての子供たちに広げる価値のあることです。

 

広島と長崎が核戦争の夜明けとして知られるのでなく、私たちの道徳の目覚めとして記憶される未来――

それこそが、私たちの選択する未来なのです。

 


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