世界遺産NEWS 16/05/24:長崎の教会群、2資産を外して再推薦へ
2月に世界遺産への推薦を取り下げた「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」ですが、再推薦に際して推薦内容を精査している長崎世界遺産学術委員会は、14の構成資産のうち2件を除外する意向を発表しました。
除外されるのは日野江城跡と田平天主堂で、今後自治体の関係者と協議して了承を得るということです。
世界遺産登録を主導している長崎県・熊本県は2018年の世界遺産登録を目指してすでに文化庁に推薦書の素案を提出していますが、今後これを改訂する予定です。
現在世界遺産リストへの推薦枠は各国2件で、2件の場合、1件は自然遺産か文化的景観でなくてはならないとされています(複数国によるトランスナショナル・サイト/トランスバウンダリー・サイトの場合、登録を主導する1か国の枠を使用)。
したがって文化遺産の推薦に関しては実質1件のみとなっています。
日本の推薦物件は7月前後に開催される文化庁文化審議会で決まるのですが、今年は以下の4件が立候補しています。
- 北海道・北東北の縄文遺跡群(北海道、青森、秋田、岩手)
- 金を中心とする佐渡鉱山の遺産群(新潟)
- 百舌鳥(もず)・古市(ふるいち)古墳群(大阪)
- 長崎の教会群とキリスト教関連遺産(長崎、熊本)
これら4件はここ数年、毎年推薦枠を争っていて、世界遺産になることよりも日本で推薦枠を勝ち取ることの方が難しいのではないかとさえ思える状況です。
他の候補地も「今年こそは!」という思いでしょうし、頭の痛いところですね。
* * *
もともと「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」は「キリスト教の伝達と繁栄」「キリスト教の禁止と鎖国」「開国とキリスト教の解禁」という3時代450年以上に及ぶ日本のキリスト教信仰の歴史を示すものとして推薦されました。
しかしながら1月に、文化遺産推薦物件の調査・評価を行っているICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)から「禁教・潜伏に重点を置くべき」という強い指摘を受けました。
キリスト教の伝達・繁栄に関する世界遺産は相当数ありますが、禁教・潜伏に関する文化遺産は世界的にきわめて貴重で顕著な普遍的価値を有するという判断なのでしょう。
登録が難しいと判断した政府は2月に推薦を取り下げました。
そして長崎世界遺産学術委員会が推薦書を再検討した結果、禁教・潜伏に関連性が薄い2件の除外を決めました。
日野江城跡は禁教以前のキリシタン大名・有馬氏の居城の跡、田平天主堂は1918年と大正年間に入ってから建てられていますから、たしかに禁教時代との関連性は薄いと言えるかもしれません。
もっとも、構成資産となっている教会建築はいずれもキリスト教解禁後に建てられたものですから、これをどのように禁教・潜伏と結び付けて説明するのか、登録の可否はそのストーリーにかかってきそうです。
<構成資産>
■城跡
- 原城跡(南島原市)
■歴史的景観
- 平戸の聖地と集落[春日集落と安満岳](平戸市)
- 平戸の聖地と集落[中江ノ島](平戸市)
- 天草の崎津集落(天草市)
■教会建築
- 大浦天主堂と関連施設(長崎市)
- 出津教会堂と関連遺跡(長崎市)
- 大野教会堂(長崎市)
- 黒島天主堂(佐世保市)
- 旧野首教会堂と関連遺跡(小値賀町)
- 頭ケ島天主堂(新上五島町)
- 旧五輪教会堂(五島市)
- 江上天主堂(五島市)
今後の予定ですが、以下のようになっています。
■2016年
- 7月前後:文化庁文化審議会で日本の文化遺産推薦物件が決定
- 9月:暫定推薦書をUNESCO世界遺産センターへ提出
■2017年
- 2月1日まで:推薦書をUNESCO世界遺産センターへ提出
- 夏:ICOMOSが現地調査を含む調査を実施
- 冬:ICOMOSと日本で意見交換
■2018年
- 1~2月:ICOMOS中間報告
- 4~5月:ICOMOS評価報告書を提出
- 6~7月:第42回世界遺産委員会で世界遺産リストへの登録可否が決定
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