世界遺産NEWS 16/02/28:来訪神行事8件を無形文化遺産に推薦決定
文化庁の文化審議会は2月17日、2017年の無形文化遺産委員会(政府間委員会)に推薦する物件を「来訪神:仮面・仮装の神々」にする旨を発表しました。
下は2009年にUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)無形文化遺産に登録された「甑島(こしきじま)のトシドン」の紹介映像です。
「来訪神:仮面・仮装の神々」はこの「甑島のトシドン」に新たに7件を加えて拡大するものです。
※追記
本件について、世界各国からの推薦件数が委員会の1年の審査上限50件を超えたため、世界第2位の保有数を誇る日本の本物件の審議延期が申し渡されました。ということで、本件の審議は2018年末に行われる予定です。
実は、7件のひとつである「男鹿(おが)のナハマゲ」は2011年に無形文化遺産委員会にかけられましたが、「甑島のトシドン」と似ていることから情報照会という判定を受け、登録に至りませんでした。
トシドンもナマハゲも家庭を訪れて人々を戒める神様であることからこれらを「来訪神」とし、同様の物件をまとめて推薦することになりました。
文化審議会の報道資料「来訪神行事の提案概要」「国指定重要無形民俗文化財である来訪神行事」からその内容を抜粋しましょう。
<来訪神:仮面・仮装の神々>
■内容
仮面・仮装の異形の姿をした者が、「来訪神」として、年の初めや季節の変わり目などに家々を訪れ、子供や怠け者を戒めたり、人々に幸や福をもたらしたりする行事
■構成
- 甑島のトシドン(鹿児島県薩摩川内市)
下甑島に伝承される来訪神の行事。大みそかの夜、長い鼻に大きな口のついた面を被り、藁蓑などをまとってトシドンが子供のいる家々を訪れ、大声で子供を脅かしたり、よい子になるよう諭したりし、最後に年餅と呼ばれる餅を子供に与えて去っていく。
- 男鹿のナマハゲ(秋田県男鹿市)
男鹿半島一帯に伝承される来訪神の行事。大みそかの夜、鬼のような面や藁蓑などを身につけたナマハゲが家々を訪れ、怠け者や泣く子などを戒める。家の主人から酒食のもてなしを受けた後、次の家へ向かう。
- 能登のアマメハギ(石川県輪島市・能登町)
能登地方に伝承される来訪神の行事。正月や節分に、天狗面や男・女の面などの仮面をつけたアマメハギ(輪島市・能登町)やメンサマ(輪島市)が家々を訪れ、怠け者を戒めたり、おはらいをして回る。
- 宮古島のパーントゥ(沖縄県宮古島市)
宮古島の島尻と野原に伝承される来訪神の行事。島尻では、旧暦9月に、面とつる草を身につけ、全身に泥を塗ったパーントゥが集落に現れ、悪霊をはらうといって泥をつけて回る。野原では、旧暦12月に、面をつけた子供や草を体に巻いた女性たちが集落を回って厄払いをする。
- 遊佐(ゆざ)の小正月行事アマハゲ(山形県遊佐町)
遊佐町の女鹿・滝ノ浦・鳥崎に伝承される来訪神の行事。正月の夜に、鬼のような面や藁蓑を身につけたアマハゲが家々を訪れ、子供や嫁などを威嚇したり、年寄りには肩をたたき、腰をもんだりする。各家は酒食でもてなしたり、餅を渡したりする。
- 米川(よねかわ)の水かぶり(宮城県登米市)
登米市の米川に伝承される、来訪神行事の要素をもつ初午の火伏の行事。顔に墨を塗り、藁製の装束を身にまとった異装の若者や厄年の男性が家々をまわり、火伏を祈願して水をかける。
- 見島(みしま)のカセドリ(佐賀県佐賀市)
佐賀市蓮池町の見島に伝承される来訪神の行事。旧暦1月14日の夜(現在は2月の第2土曜日に固定)、笠を被り、蓑を付けたカセドリが家々を回る。玄関口から上がり込むと体をかがめ、先端を割った青竹を床に打ちつけて鳴らす。
- 吉浜(よしはま)のスネカ(岩手県大船渡市)
大船渡市三陸町の吉浜に伝承される来訪神の行事。小正月(1月15日)の夜に、奇怪な面やアワビの殻をつけ、俵を背負ったスネカが家々を訪れ、怠け者や泣く子などを戒める。スネカは、家人と問答した後、餅をもらうと退散する。
■提案要旨
- 「来訪神:仮面・仮装の神々」は、正月など年の節目を迎えるに当たり、仮面や蓑笠などを身につけて来訪神に扮した者が家々を訪れ、子供や怠け者を戒めたり、災厄をはらったりし、人々に幸や福をもたらす行事である
- 来訪神行事は、伝承されている各地域において、時代を超え、世代から世代へと受け継がれてきた年中行事であり、それぞれの地域コミュニティでは、来訪神行事を通じて地域の結びつきや、世代を超えた人々の対話と交流が深められている
- 「来訪神:仮面・仮装の神々」のユネスコ無形文化遺産代表一覧表への記載は、地域の人々の絆としての役割を果たしている無形文化遺産の保護・伝承の事例として、国際社会における無形文化遺産の保護の取組に大きく貢献するものである
現在、無形文化遺産の推薦は各国1件に限られています。
これでその枠を使うということです。
今後の予定は以下のようになっています。
■2016年
3月:無形文化遺産保護条約関係省庁連絡会議において審議
3月中:UNESCOに提案書を提出
■2017年
10月頃:事前審査の勧告発表
11~12月:無形文化遺産委員会で登録の可否が決定
なお、2016年11月28日~12月2日にエチオピアのアディスアベバで開催される第11回無形文化遺産委員会には「山・鉾・屋台行事」が推薦されています。
こちらは2009年に登録された「京都祇園祭の山鉾行事」「日立風流物」の拡大で、以下33件が構成資産となっています。
<山・鉾・屋台行事>
- 八戸三社大祭の山車行事(青森県八戸市)
- 角館祭りのやま行事(秋田県仙北市)
- 土崎神明社祭の曳山行事(秋田県秋田市)
- 花輪祭の屋台行事(秋田県鹿角市)
- 新庄まつりの山車行事(山形県新庄市)
- 日立風流物(茨城県日立市)
- 烏山の山あげ行事(栃木県那須烏山市)
- 鹿沼今宮神社祭の屋台行事(栃木県鹿沼市)
- 秩父祭の屋台行事と神楽(埼玉県秩父市)
- 川越氷川祭の山車行事(埼玉県川越市)
- 佐原の山車行事(千葉県香取市)
- 高岡御車山祭の御車山行事(富山県高岡市)
- 魚津のタテモン行事(富山県魚津市)
- 城端神明宮祭の曳山行事(富山県南砺市)
- 青柏祭の曳山行事(石川県七尾市)
- 高山祭の屋台行事(岐阜県高山市)
- 古川祭の起し太鼓・屋台行事(岐阜県飛騨市)
- 大垣祭のやま行事(岐阜県大垣市)
- 尾張津島天王祭の車楽舟行事(愛知県津島市・愛西市)
- 知立の山車文楽とからくり(愛知県知立市)
- 犬山祭の車山行事(愛知県犬山市)
- 亀崎潮干祭の山車行事(愛知県半田市)
- 須成祭の車楽舟行事と神葭流し(愛知県蟹江町)
- 鳥出神社の鯨船行事(三重県四日市市)
- 上野天神祭のダンジリ行事(三重県伊賀市)
- 桑名石取祭の祭車行事(三重県桑名市)
- 長浜曳山祭の曳山行事(滋賀県長浜市)
- 京都祇園祭の山鉾行事(京都府京都市)
- 博多祇園山笠行事(福岡県福岡市)
- 戸畑祇園大山笠行事(福岡県北九州市)
- 唐津くんちの曳山行事(佐賀県唐津市)
- 八代妙見祭の神幸行事(熊本県八代市)
- 日田祇園の曳山行事(大分県日田市)
ちなみに、2017年の世界遺産・ユネスコ記憶遺産推薦物件は以下となっています。
■世界遺産
- 宗像・沖ノ島と関連遺産群
※推薦は2件まで、文化遺産は文化的景観を除き1件まで
■ユネスコ記憶遺産(世界の記憶)
- 上野三碑
- 杉原リスト -1940年、杉原千畝が避難民救済のため人道主義・博愛精神に基づき大量発給した日本通過ビザ発給の記録
※他国との共同推薦を除き2件までで、審査は2年に1度
ユネスコ記憶遺産について、日本のNPO法人・朝鮮通信使縁地連絡協議会と韓国の釜山文化財団が「朝鮮通信使に関する記録 17~19世紀の日韓間の平和構築と文化交流の歴史」を、「新しい歴史教科書をつくる会」が通州事件の資料を推薦する旨を発表しています。
朝鮮通信使については共同推薦なので問題ありませんが、通州事件については各国の推薦枠を超えることになるため、難しいのではないかと思われます。
というのは、ユネスコ記憶遺産は民間での推薦が可能ですが、推薦枠を超えた場合はUNESCO国内委員会に差し戻されるためです。
UNESCO国内委員会は決定している2件を優先するとしています。
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