世界遺産NEWS 15/07/04:第39回世界遺産委員会開幕&ボン宣言採択

6月28日、ドイツのボンで第39回世界遺産委員会がはじまりました。

7月8日まで開催されているこの委員会の概要はAll Aboutの記事で紹介する予定ですが(こちらの世界遺産NEWで告知します)、いろいろ大きな動きがありましたので速報的にお知らせします。

まず、開幕からISIL(いわゆるイスラム国)に対する強い非難が寄せられました。

 

ISILは今年に入って文化遺産の破壊行為を強めています。

2月にイラク第二の博物館であるモスル博物館の彫刻やレリーフを鈍器で破壊し、3月にはアッシリアの古都ニルムド遺跡をブルドーザーでなぎ倒し、続いて世界遺産「ハトラ」を爆破しました。

5月20日にはシリアの世界遺産「パルミラの遺跡」を支配下に収め、遺跡周辺に爆弾を仕掛けたとの報道もありました。

 

議長国であるドイツのメルケル首相はビデオ・メッセージの中でこうした破壊を「戦争犯罪」と呼んで強く非難し、UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)のイリーナ・ボコバ事務局長もこうした行為を「文化洗浄」と呼び、拡大する破壊行為に懸念を表明しました。

 

ところが世界遺産委員会が開催されているこの7月3日に、ISILはパルミラの象徴である「アラート神のライオン像」を鈍器で破壊する映像を配信しました。

高さ約3m、重さ15tに及ぶ石灰岩製の石像は紀元前1世紀の製造で1977年に発見されたもの。

世界遺産委員会に対するあてつけなのでしょうか?

 

これに対してイリーナ・ボコバ事務局長は以下のような声明を出しました。

 

「こうした破壊は過激派の無知と野蛮を示すもので、地元のコミュニティやシリアの人々の意思を無視するものです。……私は何度でも訴えます。すべての宗教のリーダーが、知性ある人々が、若者が、宗教の歪曲や過激派の誤った主張に対して立ち上がることを」

 

この「無知」こそUNESCOが撲滅しようとしている対象です。

UNESCOはふたつの世界大戦の反省から生まれた組織で、国際連合教育科学文化機関の名の通り、教育・科学・文化を普及させて戦争を防ぐことこそその目的なのですから。

 

ところが21世紀に入り、タリバンに爆破されたアフガニスタンの「バーミヤン渓谷の文化的景観と考古遺跡群」を皮切りに、マリの「トンブクトゥ」や「アスキア墳墓」、シリアの「古代都市アレッポ」や「クラック・デ・シュバリエとカラット・サラディン」、イラクの「ハトラ」、イエメンの「シバームの旧城壁都市」や「サナア旧市街」などが破壊されてしまいました。

破壊行為を防ぐどころか加速しているようにも感じられます。

 

こうした危機に際し、1945年にUNESCOが設立されて70周年を迎えるこの2015年の世界遺産委員会で、核となる価値観と指針を見直すために「ボン宣言」が採択されました。

 

このボン宣言で、正義と自由と平和のための文化と教育が人間の尊厳に不可欠であり、すべての国の責務であることを再確認しています。

そしてこの立場から世界各地で起こっている破壊行為を非難し、すべての組織に破壊の停止を要求し、全世界に協調を呼び掛けています。

同時に、戦争や内戦で破壊された世界遺産はもちろん、4月25日の地震で多くの建物が倒壊したネパールの「カトマンズの谷」といった自然災害による損壊に対しても、迅速に再建・修復することを確認しました。

 

下の動画はボン宣言採択直後の委員会の様子です。

世界各地の破壊の様子を写真を掲げながら、その野蛮性を "war crime(戦争犯罪)" と断じ、"single human family(ひとつの人類家族)" として協調を求めています。

わかりやすい英語とフランス語なので、3分すぎほどからはじまるイリーナ・ボコバ事務局長("Director-General" という机上札を掲げた女性)の言葉だけでもぜひご覧ください。

 

ボン宣言のPDFはこちらから手に入れることができます。

The Bonn Declaration on World Heritage(英語版)

Declaration de Bonn sur le patrimoine mondial(フランス語版)

 

第39回世界遺産委員会では危機遺産リストの更新も行われましたが、上に挙げたイラクの「ハトラ」、イエメンの「シバームの旧城壁都市」「サナア旧市街」が新たに危機遺産となりました。

先述した「バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群」や「トンブクトゥ」「アスキア墳墓」「古代都市アレッポ」「クラック・デ・シュバリエとカラット・サラディン」などはすでに危機遺産リスト入りしています。

 

残念なニュースばかりではありません。

 

コロンビアの「ロス・カティオス国立公園」が危機遺産リストから外されました。

この世界遺産は木材の不法伐採や動物の密漁・不法滞在などが深刻化したことから2009年にコロンビア政府自ら危機遺産リストへの記載を申請した物件です。

UNESCOをはじめとする国際協力と当局の努力によりそうした不法行為が著しく減ったことからリストからの削除が決まりました。

危機遺産に対する施策としてとてもよい例であるとして、会場から拍手が巻き起こりました。

 

また、2012年にイスラム過激派組織アンサル・ディーンによって破壊されたマリの「トンブクトゥ」ですが、修復の大半を終えて7月にも竣工する見通しだということです。

来年の世界遺産委員会では危機遺産リストから削除されるかもしれませんね。

 

修復に関して、世界遺産活動は毎年すばらしい成果を挙げています。

今後はボン宣言を中心に、破壊活動に対しても積極的な活動を展開していくことでしょう。

 

 

[追記]

第39回世界遺産委員会で新たに24件の世界遺産が誕生しました。

以下にリストを掲載しました。

 

世界遺産NEWS 15/07/07:2015年、新登録の世界遺産リスト

 

 

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『朝日新聞 世界の扉』記事執筆。『Fine』自然遺産特集執筆。『地球の歩き方 MOOK 世界のビーチBEST100』『ノジュール』に旅のスペシャリスト・達人として参加。『PEN』でアフリカの世界遺産執筆。『MONOQLO』世界遺産特集取材協力。『女性セブン』で日本の世界遺産を解説。エクスナレッジ『聖地建築巡礼 世界遺産から現代建築まで、73の聖地を巡る旅』、洋泉社ムック『負の世界遺産』執筆。RKBラジオ、FM TOKYOで世界遺産特集出演。その他企業・大学広報誌等。

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