世界遺産NEWS 14/06/28:2015年の世界遺産候補地
2014年、世界遺産総数はついに1,000件を超えました。
世界遺産もずいぶん増えましたね。
でも来年、再来年とすでに世界遺産登録についてさまざまな動きが表面化しています。
少し気が早いですが、2015年にドイツのボンで開催される第39回世界遺産委員会で登録を目指す48件のリストを紹介しましょう。
[追記]
以下、続報です。
世界遺産NEWS 15/05/25:2015年、世界遺産候補地の勧告結果
世界遺産NEWS 15/07/07:2015年、新登録の世界遺産リスト
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その前にちょっと解説を。
世界遺産に物件を登録するためには、登録を目指す年の前年2月1日までにUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)世界遺産センターに登録推薦書を送らなければなりません。
2015年の物件については2014年2月1日が〆切で、UNESCOが公表している本リストはその時点で立候補の表明があった物件ということになります。
ただし、例年緊急登録物件や以前の世界遺産委員会で情報照会の決定を受けて再審査を受ける物件が出てきたりするためこのリスト外から推薦されることもありますし、書類の不備から審査に及ばない物件や推薦を取り下げる物件も相当数出てきます。
そして2014年の夏から秋にかけて、文化遺産についてはICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)、自然遺産についてはIUCN(国際自然保護連合)、複合遺産は両組織が現地視察を含めた調査を行い、2015年春に報告書を発表します。
その報告書を参考に、初夏に行われる世界遺産委員会で世界遺産リストへの記載の可否が決定します。
* * *
個人的に注目している世界遺産をピックアップしてみましょう。
私が訪ねたことのある物件は5か所です。
まずは日本の候補地、「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」。
この物件、九州と山口県を中心に8県11市にまたがる28件の構成資産からなっています。
同じ場所にあるわけではない一連の物件をまとめて登録しようという「シリアル・ノミネーション」による推薦です。
これまで世界文化遺産の登録は文化庁の文化審議会を中心に進めていましたが、この物件は内閣官房の有識者会議が主導しています。
その理由が「稼働中の工場」の取り扱い。
構成資産である橋野高炉跡及び関連施設、長崎造船所の一部、三池炭鉱の三池港、旧官営八幡製鐵所は現在も操業を続けています。
世界遺産に登録するためには国内法で保護されている必要があるのですが、日本の場合、文化遺産については主に文化財保護法がその役割を担っています。
ところが稼働中の工場は保護を目的とする文化財ではないため対象外。
このままでは世界遺産に登録できないことから、内閣官房が主導して条例などをうまく組み合わせた新しい枠組みでの登録を目指しています。
この部分でも注目です。
続いて、「縮小」を目指す珍しい世界遺産「バグラティ大聖堂とゲラティ修道院」。
世界遺産リストに登録された物件の拡大は珍しいことではありませんが、縮小はあまり例がありません。
実はこの世界遺産、バグラティ大聖堂の再建計画がその本来の姿を変え、普遍的価値を損なうという理由で危機遺産リストに掲載されています。
今回の縮小申請は、バグラティ大聖堂をいっそ世界遺産から外してしまおうというものです。
そして、初の世界遺産登録を目指すシンガポールの「シンガポール植物園」。
イギリス統治時代の1859年に設立された歴史ある植物園で、東京ドーム13個分という大きさを誇ります。
マレーシアから分離独立した1965年前後、シンガポールは高度成長のまっただ中にありましたが、リー・クアン・ユー首相を中心に緑化を促進するガーデン・シティ計画を押し進めました。
その中心的な役割を担ったのがこの植物園です。
植物園としての学術的な価値に加えて、熱帯地方の植民地に建造された珍しい植物園であり、シンガポール成立に大きな役割を果たしたということで政治的な価値も持っているわけです。
ちなみに、ジャマイカの物件も登録されればジャマイカ初の世界遺産になります。
このところ増えているのがワインやブドウに関する文化的景観です。
「ワイン」「ブドウ」という名前のつく世界遺産は6件あり、2014年も「オリーブとワインの土地パレスチナ ~南エルサレム、バティールの文化的景観(パレスチナ)」「ピエモンテのブドウ園景観:ランゲ・ロエロとモンフェッラート(イタリア)」が世界遺産に登録されました。
2015年は3件、スペインのリオハ、フランスのブルゴーニュ、同国のシャンパーニュがエントリーしています(登録名はリストにて)。
お酒も大好きな私、3つともよくいただいております。
個人的に、「待ってました!」と思ったのがトルコの「エフェソス」です。
エフェソスは高校世界史の教科書にも登場する古代都市で、ギリシア、ヘレニズム、ローマ、東ローマ時代に全盛期を迎えました。
イスラム勢力の攻撃や港の沈降を受けて廃墟になりましたが、その廃墟ぶりが非常に美しいことで知られています。
実際、地中海沿岸の空の青さとマッチした遺跡の白がなんとも美しく、とても感動したことを覚えています。
私がはじめて地中海を目にしたのもトルコのエフェソスの町からだったのですよね。
この10年で17件というすさまじい勢いで世界遺産を増やしている中国が2015年も2件の物件をエントリー(日本は全18件、この10年で6件)。
登録数第1位のイタリアもほぼ毎年世界遺産を登録しているとはいえ、この10年で11件。
現在イタリアは50件、中国は2位の47件なので、いずれ逆転するかもしれませんね。
* * *
それでは2015年の世界遺産候補地全48件(拡大・縮小・修正7件含)のリストです。
内容は、文化遺産37件、自然遺産8件、複合遺産3件となっています。
日本語名は私が適当に訳したものです。
勘違い等あるかもしれませんが、ご容赦ください。
正式な推薦名称は英語の表記になります。
★2015年に世界遺産登録を目指す物件一覧表
<文化遺産37件(縮小1件、拡大2件含)>
■北欧におけるヴァイキング時代の遺跡群
Viking Age Sites in Northern Europe
アイスランド/デンマーク/ドイツ/ノルウェイ/ラトビア、文化遺産(iii)(iv)
■ユダヤ再興の象徴、ベイト・シェアリムの墓地遺跡
Bet She’arim Necropolis - A landmark of Jewish Renewal
イスラエル、文化遺産(ii)(iii)(vi)
■フォース・ブリッジ
The Forth Bridge
イギリス、文化遺産(i)(ii)(iv)
■パレルモのアラブ=ノルマン様式の建造物群及びチェファルとモンレアーレの大聖堂
Arab-Norman Palermo and the Cathedral Churches of Cefalu and Monreale
イタリア、文化遺産(ii)(iv)
■バフチェサライの町にあるクリミア・ハン国の首都の歴史的景観
Historic environment of the Crimean Khans’ capital in the city of Bagcesaray
ウクライナ、文化遺産(iii)(v)(vi)
■ハル・イン・チロルの造幣局
Hall in Tirol - The Mint
オーストリア、文化遺産(i)(ii)(iv)
■ゲラティ修道院
※「バグラティ大聖堂とゲラティ修道院」の縮小
Gelati Monastery
[Reduction of “Bagrati Cathedral and Gelati Monastery”]
ジョージア、文化遺産(iv)
■北スペインにおけるサンティアゴの巡礼路
※「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」の拡大
Chemins de Saint-Jacques du nord de l’Espagne
[extension of "Way of St. James"]
スペイン、文化遺産(ii)(iv)(vi)
■ラ・リオハとリオハ・アラべサのワインとブドウ畑の文化的景観
La Rioja and Rioja Alavesa Wine and Vineyard Cultural Landscape
スペイン、文化遺産(ii)(iii)(v)(vi)
■鉱業に関する文化的景観、エルツとクルスノホリ
Mining Cultural Landscape Erzgebirge/Krusnohori
チェコ/ドイツ、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)
■モラヴィア人居住区、クリスチャンフェルド
Christiansfeld a Moravian Settlement
デンマーク、文化遺産(iii)(iv)
■シェラン島北部のパーフォース狩猟風景
The parforce hunting landscape in North Zealand
デンマーク、文化遺産(ii)
■チリハウスのあるシュパイヘルシュダッドとコントールハウス地区
Speicherstadt and Kontorhaus District with Chilehaus
ドイツ、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)
■ナウムブルク大聖堂と、ザーレ川とウンシュトルト川の景観 -中世盛期の勢力圏
The Naumburg Cathedral and the landscape of the rivers Saale and Unstrut - territories of power in the High Middle Ages
ドイツ、文化遺産(iv)(v)
■エフェソス
Ephesus
トルコ、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(vi)
■ディヤルバクル城塞とヘヴセル庭園の文化的景観
Diyarbakir Fortress and Hevsel Gardens Cultural Landscape
トルコ、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(v)
■リューカン-ノトデン産業遺産地区
Rjukan - Notodden Industrial Heritage Site
ノルウェイ、文化遺産(ii)(iv)
■ブルゴーニュのブドウ区画、クリマ
Les climats du vignoble de Bourgogne
フランス、文化遺産(iii)(v)
■シャンパーニュ地方のシャトーやメゾンのカーヴ
Coteaux, Maisons et Caves de Champagne
フランス、文化遺産(iii)(iv)(vi)
■トゥルグ・ジウの記念碑群
Ensemble monumental de Targu Jiu
ルーマニア、文化遺産(i)(ii)
■デリーの帝国首都群
Delhi’s Imperial Capital Cities
インド、文化遺産(iv)
■ムンバイのヴィクトリア様式とアールデコ様式の建造物群
Victorian and Art Deco Ensemble of Mumbai
インド、文化遺産(ii)(iv)
■寺院建築の進化 -アイホーレ~バダミ~パッタダカル
※「パッタダカルの建造物群」の拡大
Evolution of Temple Architecture - Aihole-Badami-Pattadakal
[extension of “Group of Monuments at Pattadakal”]
インド、文化遺産(iii)(iv)
■スーサ
Susa
イラン、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)
■百済歴史地区
Baekje Historic Areas
韓国、文化遺産(ii)(iii)(iv)
■サウジアラビアのアイル地区にあるロックアート
Rock Art in the Hail Region of Saudi Arabia
サウジアラビア、文化遺産(i)(ii)(iii)(v)
■シンガポール植物園
Singapore Botanic Gardens
シンガポール、文化遺産(ii)(iv)
■土司遺跡群
Tusi Sites
中国、文化遺産(ii)(iii)(vi)
■明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域
Sites of Japan’s Meiji Industrial Revolution: Kyushu-Yamaguchi and Related Areas
日本、文化遺産(ii)(iii)(iv)
■グレート・ブルカン・カルドゥン山と周辺の聖なる景観
Great Burkhan Khaldun Mountain and its surrounding sacred landscape
モンゴル、文化遺産(iii)(iv)(v)(vi)
■ヨルダン川対岸の洗礼地、ベタニア[マグタス]
Baptism Site “Bethany Beyond the Jordan” (Al-Maghtas)
ヨルダン、文化遺産(iii)(iv)(vi)
■サン・アントニオ・ミッションズ
San Antonio Missions
アメリカ、文化遺産(ii)(iii)(iv)
■サルマにあるサン・アントニオの金の丘
San Antonio del Cerro de Oro de Zaruma
エクアドル、文化遺産(ii)(iii)(iv)
■アメリカのルネサンス様式水利施設群、テンブレケ神父の水道橋
Aqueduct of Padre Tembleque, Renaissance Hydraulic Complex in America
メキシコ、文化遺産(i)(ii)(iv)(v)(vi)
■フライ・ベントスの文化・産業的景観
Fray Bentos Cultural-Industrial Landscape
ウルグアイ、文化遺産(ii)(iv)(vi)
■東ウガンダのニェロと周辺の採取狩猟に関する幾何学的ロークアート遺跡群
Nyero and other hunter-gatherer geometric rock art sites in eastern Uganda
ウガンダ、文化遺産(iii)(vi)
■ティムリカ・オヒンガの文化的景観
Thimlich Ohinga Cultural Landscape
ケニア、文化遺産(iii)(iv)
<自然遺産8件(拡大・修正4件含)>
■西天山
Western Tien-Shan
ウズベキスタン/カザフスタン/キルギス、自然遺産(viii)(x)
■コミ原生林
※「コミ原生林」の登録範囲と登録基準の修正
Virgin Komi Forest
[modification of “Virgin Komi Forest”]
ロシア、自然遺産(vii)(ix) + (viii)(x)
■ケーンクラチャン森林群[KKFC]
Kaeng Krachan Forest Complex (KKFC)
タイ、自然遺産(x)
■新疆アルタイ山地
※「アルタイのゴールデン・マウンテン」の中国領への拡大
Xinjiang Altai Mountains
[extension of “Golden Mountains of Altai”]
中国、自然遺産(x)
■フォンニャ-ケバン国立公園
※「フォンニャ-ケバン国立公園」の拡大と登録基準の変更
Phong Nha - Ke Bang National Park
[renomination and extension of “Phong Nha-Ke Bang National Park”]
ベトナム、自然遺産(viii) + (ix)(x)
■ダウリアの景観
Landscapes of Dauria
モンゴル/ロシア、自然遺産(ix)(x)
■サンガネブ海洋国立公園とドンゴナーブ湾 -ムカワル島海洋国立公園
Sanganeb Marine National Park and Dungonab Bay - Mukkawar Island Marine National Park
スーダン、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x)
■ケープ植物区保護地域群[CFRPA]
※「ケープ植物区保護地域群」の拡大
Cape Floral Region Protected Areas (CFRPA)
[extension of “Cape Floral Region Protected Areas”
南アフリカ、自然遺産(ix)(x)
<複合遺産3件>
■南イラクのアフワール:生物多様性保護区とメソポタミア都市群の残存する景観
The Ahwar of Southern Iraq: refuge of biodiversity and the relict landscape of the Mesopotamian Cities
イラク、複合遺産(iii)(v)(ix)(x)
■ブルー・アンド・ジョン・クロウ山地
Blue and John Crow Mountains
ジャマイカ、複合遺産(iii)(vi)(ix)(x)
■エネディ山塊:文化及び自然景観
Massif de l’Ennedi : paysage naturel et culturel
チャド、複合遺産(iii)(vii)(ix)
2015年春になったらICOMOS、IUCNの勧告状況を報告します。
お楽しみに!
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