世界遺産NEWS 13/09/28:「明治日本の産業革命遺産」、世界遺産へ推薦決定

6月11日の記事「日本の世界遺産、2015年推薦枠争い」で紹介したように、2015年の世界遺産登録を目指して日本の世界遺産暫定リスト記載の下記4件が文化遺産推薦枠1件を争っていました。

  • 長崎の教会群とキリスト教関連遺産(長崎、熊本)
  • 北海道・北東北の縄文遺跡群(北海道、青森、秋田、岩手)
  • 百舌鳥・古市古墳群(大阪)
  • 九州・山口の近代化産業遺産群(岩手、静岡、山口、福岡、熊本、佐賀、長崎、鹿児島)
三池炭鉱万田坑
構成資産のひとつである三池炭鉱万田坑

このうち教会群、縄文遺跡群、百舌鳥・古市古墳群を統括する文化庁は「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の推薦を推進。

これに対して「九州・山口の近代化産業遺産群」は内閣官房が推す形になっていました。

 

9月17日、外務省において世界遺産条約関係省庁連絡会議が開催され、2件の推薦物件を精査。

結果、「九州・山口の近代化産業遺産群」が「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域 "Sites of Japan Meiji Industrial Revolution (Kyushu, Yamaguchi and related area)"」の名で推薦されることに決定しました。

 

これまで世界文化遺産については主に文化庁の文化審議会が推薦物件を検討する形をとってきました。

しかし「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」を主導しているのは内閣官房の有識者会議。

これは「稼働中の工場」というこれまでの日本の世界遺産にはなかった新しい価値観を組み込んだことに原因があります。

 

世界遺産に物件を登録するためには、推薦物件が各国の国内法で守られている必要があります。

日本の場合、文化遺産については文化財保護法、自然遺産については自然公園法がその役割を担っています。

たとえば奈良の正倉院はもともと宮内庁の管理下にあり、文部科学省や文化庁が管轄する文化財保護法の対象外にありました。

しかし1997年、世界遺産「古都奈良の文化財」の一部として登録するために文化財保護法による国宝に指定され、翌年世界遺産となりました。

 

ところが「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」の構成資産である橋野高炉跡及び関連施設、長崎造船所の一部、三池炭鉱の三池港、旧官営八幡製鐵所は現在も操業を続けている「稼働中の工場」です。

工場の目的は経済活動にあり、保護を目的とする文化財ではないため、文化財保護法による指定を受けることができません。

これまでの方法では世界遺産登録ができないことから内閣官房が主導して新しい枠組みを模索してきたというわけなのです。

 

世界を見回すと稼働中の世界遺産は少なくありません。

「ビスカヤ橋(スペイン)」「リドー運河(カナダ)」「トカイ・ワイン産地の歴史的文化的景観(ハンガリー)」「リュウゼツラン景観と古代テキーラ産業施設群(メキシコ)」のように産業遺産では珍しいことではありません。

「バルセロナのカタルーニャ音楽堂とサン・パウ病院(スペイン)」のサン・パウ病院は2009年まで実際に診療を行っていましたし、「シドニー・オペラハウス(オーストラリア)」などは現役バリバリです。

こうした国々では条例などを利用して上手に保護しています。

 

「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」が目指すのも文化財保護法と「最も適当な法律に基づく手法+協議会の枠組みによる保全」(内閣官房報道資料より)を組み合わせた保護体制。

条例等を上手に組み合わせて世界遺産登録を目指していくようです。

 

今後のスケジュールですが、以下のようになっています。

  • 2013/09/30まで……暫定版推薦書をUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)世界遺産センターに提出
  • 2014/02/01まで……正式な推薦書提出
  • 2014/夏~秋……ICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)現地調査
  • 2015/春……ICOMOSによる報告書・勧告発表
  • 2015/夏……第39回世界遺産委員会にて世界遺産登録の可否が決定
旧クラバー住宅
1863年に建築された貿易商トーマス・クラバーの私邸、旧クラバー住宅

「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」の概要については報道資料を抜粋しておきましょう。

 

■本遺産群の資産の範囲

19 世紀後半より20 世紀初頭にかけて、日本国は半世紀で産業国家に変貌した。

推薦資産は明治期の重工業(製鉄・製鋼、造船、石炭産業)における急速な産業化の道程を時間軸に沿って証言する産業遺産群(現役産業施設を含む)により構成されている。

推薦資産を構成する資産は九州・山口地区を中心に、全国八県十一市に立地し、地理的に分散をしているが、群として資産全体で世界遺産価値を有し、一つの範囲を構成している(いわゆるシリアル・ノミネーションとして登録を目指す)。

 

■世界史的意義

重工業(製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業)は、日本経済の屋台骨を支える基幹産業である。

幕末から明治後期にかけて、日本は工業立国の経済的基盤を築き、奇跡とも呼ばれる急速な産業化を果たした。

20 世紀初頭には、非西欧地域において、他に先駆け、最初の産業国家として国家の質を変革した。

アメリカ軍東インド艦隊の江戸湾来航以降、徳川幕府が開国の方針に改めた後、僅か半世紀で、重工業の急速な産業化を進め、国家の質を変革し、産業国家の礎を築いたことは、技術、産業、社会経済に関わる世界の歴史的発展段階において、極めて、歴史的価値、技術的価値、文化的価値の高い特筆すべき類稀な事象である。

 

■構成資産

  • 1~5:萩の産業遺産群(山口県萩市)
  • 6:旧集成館(鹿児島県鹿児島市)
  • 7:寺山炭窯跡(鹿児島県鹿児島市)
  • 8:関吉の疎水溝(鹿児島県鹿児島市)
  • 9:三重津海軍所跡(佐賀県佐賀市)
  • 10:韮山反射炉(静岡県伊豆の国市)
  • 11:橋野高炉跡及び関連遺跡(岩手県釜石市)
  • 12:小菅修船場跡(長崎県長崎市)
  • 13:長崎造船所第三船渠(長崎県長崎市)
  • 14:長崎造船所旧木型場(長崎県長崎市)
  • 15:長崎造船所、ジャイアント・カンチレバークレーン(長崎県長崎市)
  • 16:長崎造船所占勝閣(長崎県長崎市)
  • 17:高島炭坑(長崎県長崎市)
  • 18:端島炭坑(長崎県長崎市)
  • 19:旧グラバー住宅(長崎県長崎市)
  • 20:三池炭鉱宮原坑(福岡県大牟田市)
  • 21:三池炭鉱万田坑(福岡県大牟田市、熊本県荒尾市)
  • 22:三池炭鉱専用鉄道敷跡(福岡県大牟田市、熊本県荒尾市)
  • 23:三池港(福岡県大牟田市)
  • 24:三角西(旧)港(熊本県宇城市)
  • 25:八幡製鐵所旧本事務所(福岡県北九州市)
  • 26:八幡製鐵所修繕工場(福岡県北九州市)
  • 27:八幡製鐵所旧鍛冶工場(福岡県北九州市)
  • 28:八幡製鐵所、遠賀川水源地ポンプ室(福岡県中間市)

 

詳細は以下のPDFを参照ください。

稼働資産を含む産業遺産に関する有識者会議(第3回)の開催について(平成25 年8 月20 日、内閣官房地域活性化統合事務局)

 

なお、軍艦島について韓国から植民地時代の強制徴用の象徴であるとして撤回を求める動きがあるようです。

また、軍艦島を調査した長崎市の専門家委員会は数十年の間に崩壊する可能性を指摘しました。

この辺りの動きも気になるところですね。

 

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