ルートで選ぶ世界遺産4:インドのゴールデン・トライアングル
インド旅行の定番といえば、デリー、ジャイプール、アグラの3都市を巡るいわゆる「ゴールデン・トライアングル」の旅。
この3都市を起点に10件もの世界遺産が訪問可能だ。
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■テーマ:インドのゴールデン・トライアングル
■ルート:デリー→ジャイプール→アグラ→デリー
■世界遺産:10か所(遺産の種類、拠点)
- デリーのクトゥブ・ミナールとその建造物群(文化遺産、デリー)
- デリーのフマユーン廟(文化遺産、デリー)
- レッド・フォートの建造物群(文化遺産、デリー)
- ジャイプールにあるジャンタール・マンタール(文化遺産、ジャイプール)
- ラジャスタンの丘陵要塞群(文化遺産、ジャイプール他)
- ジャイプール市、ラジャスタン(文化遺産、ジャイプール)
- タージ・マハル(文化遺産、アグラ)
- アグラ城塞(文化遺産、アグラ)
- ファテープル・シークリー(文化遺産、アグラ)
- ケオラデオ国立公園(自然遺産、アグラ)
上の10件のうち、2~9の8件は1526~1858年に栄えたムガル帝国あるいは同時代の地方勢力の遺産だ。
2と7が廟、3と5と8は城や砦、4は天体観測所、6と9は都市遺跡となっている。
建造物としてとてもバラエティに富んでいる。
ムガル帝国はデカン高原全域を支配したインド史上最大の帝国。
インダス文明以降5,000年以上の歴史を誇るインド史の集大成ともいえる超大国だ。
「ムガル」は「モンゴル」から来た言葉で、創始者バーブルはモンゴル帝国を築いたチンギス・ハーンやティムールの子孫。
またムガル帝国はイスラム教国であり、現在のパキスタンやイランの一部をも版図に収めた。
もちろんインドにはヒンドゥー教やジャイナ教、仏教も伝わっている。
ムガル帝国はモンゴル、ペルシア、アラブ、インドの多様な文化を混ぜ合わせ、史上稀に見る美しい芸術文化を生み出した。
その頂点がフマユーン廟でありタージ・マハルなのだ。
このルート、世界遺産以外にも見所は無数にある。
たとえばジャイプール近郊にはチャンド・バオリといった一級の観光地がある。
世界遺産ではなくても激しくオススメだ。
それに、これらの観光地でなくてもインドの街には果てしない魅力がある。
たとえば、いずれの都市でも旧市街など歴史的な街並みにはいまだに野良ウシが歩いている。
東京ではゴミ収集の日にカラスがゴミをついばむ姿を見かけるが、インドだとこれがウシになる。
これを見るだけでもインドを訪ねる価値があるだろう。
* * *
ルートの詳細を見てみよう。
まずはインドの首都デリーの世界遺産だ。
デリーは12世紀に繁栄がはじまる都市。
1206年にアイバクが建てた奴隷王朝の首都になると、ハルジー朝、トゥグルク朝、サイイド朝、ロディー朝と、1526年まで5王朝がデリーを首都としてインド北部を制圧した。
いわゆるデリー=スルタン朝だ。
「デリーのクトゥブ・ミナールとその建造物群」はそのアイバクが建設したモスクとミナレット(礼拝の呼び掛けを行う塔)。
クトゥブ・ミナールはミナレットの名称で、高さ72.5mを誇るこの塔は、世界でもっとも高いミナレットで、インドでもっとも高い石造建築といわれる。
隣接するクワト・アル・イスラム・モスクはヒンドゥー寺院を改築したものと考えられており、そのためヒンドゥー建築とイスラム建築が融合した不思議なデザインをしている。
おもしろいのが敷地内に立つ「デリーの鉄柱(チャンドラヴァルマンの柱)」だ。
5世紀に建てられた鉄製の柱だが、1,500年以上も錆びない理由はいまもって謎とされており、「オーパーツ」として有名になった。
「デリーのフマユーン廟」はムガル帝国第2代皇帝フマユーンの死後、王妃ハージ・ベグムが夫のために建築した墓廟。
タージ・マハルが亡き妻に贈ったものであるのと反対だ。
インド初となる本格的なイスラム建築で、白大理石の巨大なドーム、天の川を模したチャハルバーグ(四分庭園)、エントランスを飾るイーワーンなど、華麗で壮大なその姿はタージ・マハルのモデルとなった。
1857年、セポイの反乱でこの廟に避難していた第17代皇帝バハドゥル・シャー2世がイギリス軍によって逮捕された。
翌年皇帝を退位すると、ムガル帝国は滅亡した。
「レッド・フォートの建造物群」のレッド・フォートは第5代皇帝シャー・ジャハーンがアグラからデリーに遷都して、1648年に建築した城塞。
高さ10~20mに及ぶ赤砂岩でできた巨大な城壁がグルリ取り囲んでいることからこの名がついた。
巨大な城門ラホール門、白大理石によるモーティ・マスジド(真珠のモスク)、壁一面に描かれたアラベスクが美しいシーシュ・マハル(鏡の間)など見所は多数。
近くにはシャー・ジャハーンが建てたインド最大のモスク=ジャマー・マスジド(金曜モスク)があるので、こちらもお忘れなく。
インドの南西約250kmにある都市がジャイプールだ。
世界遺産「ジャイプール市、ラジャスタン」はシティ・パレスを中心とした都市遺産で、1,000近い小窓と真っ赤なファサードが美しいハワー・マハル(風の宮殿)はよく知られている。
「ジャイプールにあるジャンタール・マンタール」は18世紀にジャイ・シン2世が造った天体観測所で、日時、星の高度や方角、日食・月食の周期等を観測するための装置が20ほど立ち並んでいる。
世界遺産「ラジャスタンの丘陵要塞群」はラージプート族の築いた6城砦を登録した物件だが、その構成資産にジャイプールのアンベール城が含まれている。
イスラム式の城砦建築がベースだが、ヒンドゥー建築の影響を受けているだけでなく、ガネーシャ像が刻まれていたりと、他にない特徴を示している。
ジャイプールは非常に見所が多い街。
特にオススメしたいのが近郊のチャンド・バオリだ。
小さな階段を積み重ねたフラクタル図形が美しい大階段井戸で、9世紀の建築ながら、ミニマルなデザインがとても未来的だ。
グーグル検索結果はこちら→チャンド・バオリ。
チャンド・バオリはジャイプールから東へ80kmほどに位置するアーバネリ村にある。
交通の便は悪いが、アグラへ行く途中にあるのでぜひ立ち寄ってみてほしい。
ジャイプールから西へ230kmでアグラに出る。
アグラを拠点に4件の世界遺産を訪問できる。
同時に訪れたいのが「タージ・マハル」と「アグラ城塞」だ。
タージ・マハルはAll About世界遺産ランキング第8位の物件。
左右対称、上から見ると点対称、中央の水路を眺めれば天地対称にもなっている。
シャー・ジャハーンが亡き妻ムムターズ・マハルに贈った愛の霊廟で、白大理石がとんでもなく美しいだけでなく、無数の宝石がはめ込まれた内部のアラベスクがまた圧巻だ。
アグラ城は第3代皇帝アクバルが建てた城塞で、それをシャー・ジャハーンと第6代皇帝アウラングゼーブが改修を行った。
大理石や金銀をふんだん使ったモスクや謁見の間をはじめ見所は無数にあるが、悲しい伝説が残るのがムサンマン・ブルジュと呼ばれる八角塔。
息子アウラングゼーブに捕らえられたシャー・ジャハーンはこの塔に幽閉され、ヤムナ川のほとりに小さく見えるタージ・マハルを眺めながら息を引き取ったという。
アウラングゼーブは父の死を看取ることはなかったが、その棺をタージ・マハルに運び、ムムターズ・マハルに寄り添うように並べた。
「ファテープル・シークリー」と「ケオラデオ国立公園」はアグラからツアーが出ているので、それに参加するのが楽だろう。
「ファテープル・シークリー」はアクバルがデリーからアグラに遷都した1571年に築いた都市遺跡。
パンチ・マハルのように土着のインド建築を石造で再現したような建物から、イスラム建築の影響が強いジャマー・マスジド(金曜モスク)や白大理石のサリーム・チシュティー廟など、さまざまな建築様式が混在している。
壮大な都市遺跡ながら水不足と干ばつのためわずか14年で放棄され、廃墟となった。
「ケオラデオ国立公園」はそのほとんどが湿地と湖沼で、ラムサール条約登録地でもある。
絶滅危惧種であるソデグロヅルをはじめ、さまざまな種類のツル、トキ、カモ、サギが越冬に訪れる。
ここでするのはもちろんバード・ウォッチング。
越冬地なので、ハイシーズンはもちろん冬だ。
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ゴールデン・トライアングルの旅はインド芸術の頂点を極める旅。
はじめてのインド旅行にはオススメのルートだ。
時間がある人は、このルートにぜひベナレス(バラナシ)を入れてほしい。
ルート的には「デリー→ジャイプール→アグラ→ベナレス→デリー」だろうか。
世界遺産ではないが、ベナレスはインドでもっとも、いや、世界でもっとも衝撃を受ける街。
詳細は「関連サイト」の「生死の境・聖地ベナレス」を参照してほしい。
[関連サイト]