世界遺産検定攻略法4.試験戦略の理念、頭がいい人の学習法
前回紹介したように、試験戦略の目的は「やることを削って勉強内容を絞ること」にあります。
これを「手抜きの学習法」と誤解する人がいるかもしれませんが、その狙いはむしろ「本質理解」であって「手抜き」なんかではありません。
実は、「頭がいい人」「切れる人」の多くはこうした合理的な考え方を身につけていますし、合理的な学習をしています。
今回は試験戦略とこうした合理的な思考法・学習法について考えてみたいと思います。
○本記事の章立て
- 東大生は満点を目指さない!
- 試験戦略で勉強の仕方を勉強する
- 頭がいい人の思考法=要点を押さえた学習法
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■東大生は満点を目指さない!
ぼくは教育系出版社で働いていた時代に100人を超える東大生に取材をしてきました。
彼らに共通していたのは「勉強の削り方がとにかくうまい」ということです。
特に開成や灘といった超進学校では「こうすれば受かる」という効率的な試験戦略が先輩から後輩へと伝えられています。
その中で「何をすればいいのか」「何を削ればいいのか」といったノウハウを学ぶことができるのです。
東大進学率の高さの秘密の一端はこうした情報力にあります。
彼らの勉強の合理性は「満点を目指さない」ことにはじまります。
前回紹介したように、合格ラインをクリアするための最低限の勉強方法を割り出して、それに特化した効率的な学習を行うのです。
勉強は満遍なく行うべきだ――
こういうマジメな考え方をする人も少なくないと思います。
でも、残念ながらこういうタイプの人はどのような試験・検定でもそれほどよい成績を残せないのではないでしょうか?
実際にぼくが会った東大生の中にはこういう人はほとんどいませんでした。
さまざまな理由が考えられますが、主な理由は以下2つです。
- 時間を効率的に使うことができない
- 要点を押さえた学習ができない
1の「時間」については簡単にイメージできると思います。
勉強内容を絞った方が効率的な勉強ができるに決まっています。
そして効率的な勉強ができれば成果も出るし、モチベーションが上がって集中力も増し、好循環に入ります。
2の「要点」については次章以降で解説していきましょう。
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■試験戦略で勉強の仕方を勉強する
そもそも入試は「このような能力の持ち主がほしい」ということで実施するものだし、検定は「このような能力を持つ人を認定する」というものです。
ですから試験や検定の問題はその能力が的確に判断できるように作られているはずです。
たとえば世界遺産検定1級の「基礎知識25%、日本の遺産20%、世界の遺産45%、その他10%」という配点比率。
検定教材の対応ページの1ページあたりの配点を出してみると、「日本の遺産」は「世界の遺産」の2.10倍、「基礎知識」は5.44倍にもなっています。
これは何より「基礎知識を知っておいてもらいたい」というアピールであり、海外の世界遺産よりも日本の世界遺産を優先して学んでほしいという意図に他なりません。
出題者は試験や検定を通して受験者・受検者と対話を行い、その能力を見定めます。
同時に、受験者・受検者も試験や検定を通して出題者と対話することができるのです。
ですから試験戦略はけっして「手抜きの学習法」などではありません。
むしろ「出題者の意図をくむ」ことであり、「求められた能力を的確に身につける」ことであるはずです。
そしてこうした学習法は社会において間違いなく役に立つものです。
社会に出てから直面する問題の多くは正解のない問題です。
売れる商品を開発する、お客様が満足するサービスを提供する、迅速にトラブルを解決する、人と円満な関係を築く――
ぼくたちはこうした正解のない問題に自分なりに答えを出して生きていかなければなりません。
問題や状況に応じて相手の意図をくみ、必要とされる能力を身につけ、効率的かつ合理的に答えを導き出していく――
試験戦略を応用すれば、正解にたどり着けなかったとしても、よりよい解答を導くことはできるのです。
試験や検定は学ぶ内容も大切ですが、こうして「勉強の仕方を勉強する」ことに大きな意味があるのです(いわゆるメタ学習ですね)。
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■頭がいい人の思考法=要点を押さえた学習法
個別の学習法についてもマジメな勉強があまりよろしくない理由があります。
マジメな人は教科書や教材に書かれていることを1から順番にすべてを暗記しようとします。
具体例を挙げましょう。
世界遺産検定1級教材『すべてがわかる世界遺産1500』下巻の「ヴェルサイユ宮殿と庭園」の解説には、ルイ14世がルイ・ル・ヴォー、シャルル・ル・ブラン、アンドレ・ル・ノートルという三大芸術家に設計させたことが書かれています。
このようなとき、マジメな人は一つひとつの固有名詞から覚えていこうとします。
でも、単語の暗記はもっとも苦痛で、もっとも時間がかかり、もっとも役に立たない勉強です。
上の三人の名前を一瞬で覚えるなんてことは東大生にだってできません。
これに対し、効率的な勉強をする人は、まず全体の流れや物語を把握しようとします。
文系科目はもちろん理系科目でも同様で、公式ならそれを暗記するのではなく、公式がなぜ必要になったのか、なぜ正しいのか、その原因・理由を探るのです。
ヴェルサイユ宮殿で特筆すべきは「ルイ14世が建てた」「ルイ・ル・ヴォーが設計した」などということではありません。
重要なのは、「王様が過去にないほど大きな力を持っていて、それを見せつけるためにとんでもなく豪華な宮殿が必要だった」という点です。
そして宮殿をより豪華に見せるために、建築のプロ、装飾のプロ、庭のプロが呼び出されました。
これが三大芸術家です。
必要なのは彼らの名前を暗記することではなく、こうした流れ・物語を理解することです。
ぼくたちが歴史を勉強するのは、人類の過去の振る舞いを知って、現在を生き、未来を築く糧(かて)とするためです。
ですから「なぜそのような出来事が起こったのか?」を示す全体の流れや物語を理解して、現在や未来の問題に応用するために、自分自身の意見を述べられることが大切なのです。
固有名詞を覚えることなんて重要でもなんでもありません。
実際に世界遺産検定でも最後の試験であるマイスター試験ではここに焦点を当てています。
そして、ある程度流れや物語を把握すると前後関係も理解できるようになって、いろいろな疑問が湧いてきます。
なぜ王様がそれほどの力を持つようになったのか?――
それほどの力を持っていたのにルイ16世は処刑されてしまいます。それはなぜなのか?――
これらの疑問に答えていくと大航海時代・重商主義・主権国家・絶対王政・フランス革命等々の用語の意味が理解できるようになるのですが、こうして勉強を進めるほどに深い知識が身について、勉強そのものが楽しくなっていきます。
固有名詞はこうした流れや物語を理解した後でポコポコと当てはめていけばよいのです。
理系科目でも同じです。
三角形の面積を求める場合、「底辺×高さ÷2」という公式を丸暗記するのはとても非効率的で非合理的な方法です。
丸暗記した人はその公式を忘れてしまったらおしまいだし、公式の意味を理解していないので「公式をいつどのように使えばよいのか」がわからないのです。
三角形の面積であれば、「四角形を作って半分にする」という具合に「公式の意味」を学ぶべきです。
そうすれば「底辺×高さ」が四角形の面積を表すこと、それを2で割ることで三角形の面積が出せることが理解できます(上の「面積の公式のイメージ」の左の図を参照)。
高校の数学で習う三角形の公式も同じことです。
三角関数を使った「S=1/2bc sinA」という公式は、底辺をb、高さをc sinAで表しているだけで「底辺×高さ÷2」と同じものです。
つまり、「四角形を作って半分にする」ことになんら変わりはありません。
こうした意味を理解していれば公式を忘れてしまっても自分で導き出せますし、台形やひし形の面積に応用することだってできるのです。
台形の面積の公式は「(上辺+下辺)×高さ÷2」、ひし形は「対角線×対角線÷2」ですが、どちらも三角形と同じように「四角形を作って半分にする」のですから(上の図「面積の公式のイメージ」の中央が台形、右がひし形のイメージです。公式が何を意味しているか考えてみてください)。
式の形は違っても、これらは本質的に同じコンセプトの公式なのです。
三角形の公式の意味を理解している子供は、教わらなくても台形やひし形の面積の公式を導き出すことができるかもしれません。
みなさんの周りにも勉強しなくてもできる「頭がいい子」がいたと思います。
彼らは何もないところから魔法のように答えを生み出しているわけではありません。
全体の流れや物語、意味や理由を理解して、それを敷衍・応用しているのです。
彼らは天才でもなんでもありません。
意識すれば誰にでもできることなのです。
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上に書いたような「物語」「理由」の探究って本当に大切なことだと思います。
普段の生活でもまったく同じです。
一例です。
山手線や名城線、大阪環状線などの外回り・内回り、どちらが時計回りでどちらが反時計回りなのか?
全然覚えられない人もいるようですが、このような問いも理由を探れば答えは自然と出てきます。
電車に乗るときのことを思い出せば、電車が車と同じ左側通行であることがわかるでしょう。
左側通行で電車に乗ってそのまま左右に曲がることを想像してみてください。
そうすれば右に回るとき、つまり時計回りに回ると外回りになることがわかると思います。
環状線は道路も線路も外回りが時計回りです(右側通行の国では逆になります)。
星の動きはどうでしょうか?
地球はどちらの方角からどちらの方角へ自転しているのでしょうか?
また、古代遺跡は東西南北を強く意識して建てられていますが、どうやって東西南北を定めたのでしょうか?
これらも、知識がなくても解答できるはずの問題なのです。
ぼくは攻略法第1回の記事で検定攻略の理念を以下のように掲げました。
- 受検戦略を通して勉強の仕方を学ぶ
- 受検戦略を通して歴史の本質を学ぶ
- 受検戦略を通して世界遺産の理念を学ぶ
正直かなり大げさですが、その一端は理解していただけたのではないかと思います。
次回は試験戦略を世界遺産検定に応用して、具体的な受検戦略の立て方を解説します。
[関連サイト]
世界遺産検定(公式サイト)
世界遺産と建築 特別編:星と大地と古代遺跡(古代遺跡と方角について)