世界遺産検定攻略法3.試験戦略の一般論 ~1級は難しいか?~
前回紹介した世界遺産検定の概要を踏まえ、攻略法第3回では学習計画のベースとなる試験戦略の概要を世界遺産検定1級を例に挙げて解説します。
こうした戦略はあらゆる試験や検定に応用できるものなので、ぜひ身につけてみてください。
○本記事の章立て
- 世界遺産検定1級は難しい!?
- 試験戦略の概要と目的
- 世界遺産検定1級攻略の戦略例
* * *
■世界遺産検定1級は難しい!?
まずは1級の厳しさ・たいへんさからお伝えしましょう。
あとでフォローするのでご心配なく!
前回の検定概要を参照していただくとわかりますが、世界遺産検定において1級の難易度は突出しています。
3~4級の認定率は7~8割以上、2級とマイスターは4~5割弱ですから、少なくとも受検者の半数程度は認定されていることになります。
これに対し、1級の認定率はたったの2割少々。
1級の受検資格は2級認定者に限られるわけですから、そんな精鋭の5人に1人しか合格できていないことになります。
出題範囲は1,000件を優に超える世界遺産の全件に加えて世界遺産の基礎知識と時事問題で、教材である『すべてがわかる世界遺産1500』上・中・下巻は総計約1,400ページというボリュームです。
さらに厄介なのが教材の中身で、文章量に対して固有名詞が多いため、有名な世界遺産や知っている世界遺産、解説が少ない世界遺産だから学びやすいということはまったくありません。
例を挙げましょう。
世界遺産「白神山地」の名前はほとんどの人が知っていると思います。
その解説には以下のような動植物名が登場します。
- ブナ
- ツガ
- マツ
- チシマザサ
- ミヤマナラ
- シラガミクワガタ
- アオモリマンテマ
- ツガルミセバヤ
- クロベ
- ウチョウラン
- トガクシショウマ
- オニシオガマ
- シコタンソウ
- シロウマアサツキ
- リシリシノブ
- コミヤマハンショウヅル
- イタヤカエデ
- オオバクロモジ
- タムシバ
- ダケカンバ
- ハイマツ
- ゼンテイカ
- トウゲブキ
- チシマフクロ
- タニウツギ
- ヒメヤシャブシ
- オオイタドリ
- オオヨモギ
- シコタンソウ
- ヒトツバヨモギ
- オオヨモギ
- フキユキノシタ
- クマゲラ
- ニホンカモシカ
- ツキノワグマ
- ニホンザル
- クロホオヒゲコウモリ
- モリアブラコウモリ
- コヤマコウモリ
- ヤマネ
- イヌワシ
- クマタカ
- オオタカ
- コノハズク
- ブッポウソウ
- キビタキ
- ゴジュウカラ
- ニホントカゲ
- タカチホヘビ
- シロマダラ
- ハコネサンショウウオ
- クロサンショウウオ
- カジカガエル
- イゾイワナ
- カジカ
- スナヤツメ
- フジミドリシジミ
- ヨコヤマヒゲナガカミキリ
- シラカミメクラチビゴミムシ
また、オーストリアの「シェーンブルン宮殿と庭園」も有名な世界遺産ですが、こちらには以下のような人物名が記載されています。
- マリア・テレジア
- レオポルド1世
- フィッシャー・フォン・エアラッハ
- ニコラウス・フォン・パカッシ
- ヨハン・フェルディナント・ヘッツェンドルフ・フォン・ホーエンベルク
- ナポレオン1世
- ケネディ
- フルシチョフ
- グレゴリオ・グリエルミ
- モーツァルト
- フリードリヒ2世
たったふたつの世界遺産に登場する動植物名・人物名だけでこの数です。
ここに年代や地名・家名・建物名・建築様式等々が加わります。
1級ってなんて難しいんだ――
多くの人がそう感じるゆえんです。
そして1級の難易度は年々上がっているものと思われます。
というのは、年を経るごとに全体のレベルが上がり、さらに受検者数も増えているため2割の枠に入るのが難しくなっているからです。
おまけに2024年3月に発売された1級検定教材『すべてがわかる世界遺産1500』3巻約1,400ページの分量は、私が学んでいた頃の教材2巻計約850ページの1.65倍に及び、固有名詞が恐ろしいほど増えています。
ちょっとページをめくって驚きましたね。
でも。
大丈夫です。
試験戦略を立てればそこまで難しくはないことが証明できます。
* * *
■試験戦略の概要と目的
まず、一般的な試験戦略について簡単に解説しておきましょう。
面倒な方は本章を飛ばしていただいても構いません。
どのような勉強で合格ラインをクリアするか?――
これを明らかにするのが試験戦略の目的です。
そして試験や検定の合格・認定に必要な勉強は次の公式で表現されます。
○試験戦略の公式
- 合格最低点-自分の実力=試験勉強
合格最低点、つまり合格ラインや認定ラインと自分の実力の差を埋めるのが試験勉強の目的です。
当たり前ですね。
そして合格最低点をクリアするために「得点プラン」を立案します。
たとえば大学受験の場合、合格最低点と試験科目を比較して、どの科目からどのくらい得点して合格を目指すのか得点プランを練っていきます。
具体的な例を挙げましょう。
東大(東京大学)の理系の入試は550点満点で、センター試験110点、国語80点、数学120点、理科120点、外国語120点という配点になっています。
そして理科I類の合格最低点はだいたい320点前後、得点率に直すと60%弱ですから、40%の問題は解けなくてもよいことになります。
ですから東大入試の試験戦略は「どうやって40%を捨てるか?」がポイントになるわけです。
たとえば、国語の古文や漢文をまるまる捨ててしまっても合格ラインに十分到達します。
その分、別のところで得点できるのであればそれもひとつの戦略です。
ただ、古文や漢文は基礎的な問題しか出題されないので、少しの勉強で確実な得点源とすることも可能です。
数学が得意ですでに80%はコンスタントに取る力がある一方で、国語はほとんど勉強していないものとしましょう。
試験や検定では受験者・受検者の得点をバラすために簡単な問題から難しい問題までそろっています。
80%も取れる数学でこれ以上の得点をするためには超難問が安定して解けるようになる必要がありますが、そのためには膨大な時間を必要とします。
それに比べて、たとえ苦手であっても国語の簡単な問題、特に古文や漢文の問題を解けるようになることくらい、そう難しいことではありません。
ということで、一般的には少しの勉強で多くの得点アップが見込める国語の勉強を優先した方が効率的であると言えます。
こういったことを考えて、どのような勉強をして合格最低点をクリアするのか見定めていくわけです。
才能も時間も限られているわけですから、やることを徹底的に削って勉強内容を絞るのが試験戦略の目的なのです。
* * *
■世界遺産検定1級攻略の戦略例
こうした試験戦略を世界遺産検定1級に応用してみましょう。
まず1級の合格最低点ですが、これは「認定基準」として表記されています。
具体的には「200点満点中140点以上」です。
得点率に直すと70%以上ということになりますね。
これをクリアするために勉強するわけです。
問題はマークシート方式の90問で、4つの選択肢から1つを選ぶ四者択一問題です。
そして配点比率は、「基礎知識25%、日本の遺産20%、世界の遺産45%、その他10%」となっています。
この時点でぼくは「あれ?」と思いました。
1級って言うほど難しくないんじゃないの?、と。
140点・70%をクリアする得点プランをざっと考えてみましょう。
問題の難易度にはかなりの差があって、簡単な問題も含まれています。
1級受検者はすでに2級までの学習を終えているわけですから、既存の知識で解答できる問題も存在します。
それ以外にも、たまたまTVで見たり本で読んだことがあって解答できる問題や、4つの選択肢を2つや3つに絞れる問題もあるはずです。
これらを総合すると、10問に1問くらいは解答できるのではないでしょうか?
10%ゲットです。
さらに、配点の「その他10%」に注目してみましょう。
これは時事問題を中心とした問題で、教材には出てきません。
ですからあきらめる人が多いのですが、実はもっともおいしい問題で、攻略は難しくありません。
攻略法は「攻略法8.時事問題・世界史・検定講座の攻略」で解説しますが、攻略できたものとして10%ゲットです。
そして、出題形式が四者択一のマークシート方式ということは、デタラメで答えても1/4の正解は期待できるということです。
残り80%の問題に対して25%の正解が期待できるので、80%×25%=20%。
さらに20%ゲットです。
さて。
既存の知識+時事問題+デタラメで40%が確保できました!
認定基準は200点満点中140点以上、つまり70%以上。
このうちの40%・80点分を確保したということは、認定に必要な得点の半分以上はすでにクリアしていることになります。
足りないのはあとたった30%・60点分の勉強なのです(本当はもっと複雑な計算が必要なのですが、目安程度の数字なのでよしとしましょう)。
1級の検定教材はたしかに分厚くて面倒な固有名詞がたくさん出てくるし、用語の解説も少ないので攻略は厄介です。
ですが、その70%は削ってしまって構わないのです!
つまり、1級の受検戦略のポイントは、「教材からいかに70%を削り、30%の勉強に絞るか」ということになります。
ちなみに、2級の場合は認定基準が60%で、既存の知識10%+時事問題10%+デタラメ20%=40%なので、残りはたった20%分となります(2級から受検する人は、時事問題10%+デタラメ90%×25%=22.5%の確保で、残り27.5%分)。
3級は認定基準60%、既存の知識10%+時事問題5%+デタラメ21.25%で36.25%の確保となり、残りは23.75%分です(4級未認定者は31.25%分)。
4級も認定基準60%で、既知の知識と時事問題がほぼないのでデタラメ25%の確保のみとなり、残りは35%分です。
1~4級のいずれもたった20~35%分の勉強をすればよいことがわかりますね。
さらにです。
1級検定教材『すべてがわかる世界遺産1500』3巻約1,400ページの中で、「世界遺産の基礎知識」の配点が95ページで50点、「日本の世界遺産」が197ページで40点です(コラムを除く)。
ということは、両者に関する問題の70%弱を取るだけで、足りない30%・60点分がゲットできてしまいます(こちらも本当はもう少し複雑な計算が必要です)。
つまり、「世界の遺産」=「アジア・アフリカ・アメリカ・ヨーロッパ・オセアニアの世界遺産」の930ページをすべて捨ててしまうという戦略も現実的だということになるわけです。
以上が試験戦略の具体例です。
どんなものか理解していただくために極端な例を出しましたが、こうした戦略の具体的な立案方法は今後の記事で紹介していきます。
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このように、試験戦略は「やることを徹底的に削って勉強内容を絞ること」を目的としています。
もしかしたら「こんなの手抜きの学習法だ!」「卑怯だ!!」なんて思っている人もいるかもしれません。
しかし、こうした試験戦略に基づく学習は手抜きどころか主催者の意向に沿ったものであり、本質理解に近づく学習法なのです。
次回はこうした試験戦略の狙いと、頭がいい人の思考法・学習法について考えてみたいと思います。
[関連サイト]
世界遺産検定(公式サイト)