世界遺産NEWS 24/08/20:750km以上離れたスコットランドから運ばれたストーンヘンジの祭壇石
イギリスのアベリストウィス大学をはじめとする研究チームは8月中旬、ストーンヘンジ中央に横たわる祭壇石の産地を750km以上離れたスコットランドのオルカディアン盆地に特定したことを学術誌『ネイチャー』で発表しました。
ストーンヘンジでは、サーセン・ストーンは25kmほど離れたイングランドのウェスト・ウッズから、ブルー・ストーンは220kmほどに位置するウェールズのプレセリ山地から運ばれていたことがわかっています。
しかし、重量約6tの祭壇石がさらに遠いスコットランドから運ばれていたことについて驚きをもって受け止められています。
■Famous Stonehenge stone came from Scotland not Wales(BBC)
今回はこのニュースをお伝えします。
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ストーンヘンジのある一帯は紀元前3700~前1600年ほどにかけて約2,000年にわたって聖地としてありつづけました。
その間に土のヘンジ(ヘンジは円形の工作物)、木のヘンジ(ウッド・ヘンジ)、ブルー・ストーン(玄武岩)のストーン・サークル、サーセン・ストーン(砂岩)のストーン・サークル、トリリトンと呼ばれるΠ字形組石による馬蹄形のストーン・サークルなど、幾重にも連なる同心円状のヘンジが発達しました。
明確かつ代表的なストーン・サークルは以下4つです。
- 30個のサーセン・ストーンを円形に並べ、上に30個の横石を載せたストーン・サークル
- その内側に80個のブルー・ストーンを円形に配したストーン・サークル
- さらに内側に3つのサーセン・ストーンを使って「Π」形のトリリトンと呼ばれる3つ石を形成し、トリリトン5つを「Ω」の馬蹄形に並べたストーン・サークル
- そのまた内側に馬蹄形の同心形にブルー・ストーンを並べたストーン・サークル
この中で、写真などでよく目にする巨大な石はほとんどがサーセン・ストーンで、最大50tにもなるサルセン石と呼ばれる砂岩でできています。
近年特定された採石場はストーンヘンジの北25kmほどに位置するイングランド・ウィルトシャーのウェスト・ウッズの丘です。
一方、ブルー・ストーンはひとつ2~4tほどながら80個(現存は43個)ほどあったとされ、硬い玄武岩でできています。
採石場は直線距離で西へ220kmほども離れたウェールズのプレセリ山地です。
これらの採石場の発見については記事にしているので下記を参照ください。
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そして今回の祭壇石です。
祭壇石は "Stone80" と呼ばれるストーンヘンジのほぼ中央に置かれた4.9×1.0×0.5mほどで重量約6tの板状の石です。
その形状から祭壇石 "altar stone" と呼ばれてはいるものの、実際の用途はわかっておらず、もともと立っていたのか横たえられていたのかも不明です。
現在は崩れたトリリトンのふたつの巨石の下にほとんど埋もれるように横たわっています。
この石も砂岩なのですが、サーセン・ストーンのサルセン石とは異なる赤い色をした砂岩で、産地もウェールズが候補として挙げられていましたが、詳細は不明とされてきました。
イギリスのアベリストウィス大学のリチャード・ベビンズ氏やニック・ピアース氏、オーストラリアのカーティン大学のアンソニー・クラーク氏をはじめとする研究チームは8月14日付けの『ネイチャー』でその産地を特定したとのレポートを発表しました。
チームはまず1844年に祭壇石から採取された試料を分析し、ジルコン、アパタイト、ルチルといった成分を解析して4億6千万年前以降の造山活動によって造られた旧赤色砂岩であることを明らかにしました。
そしてグレートブリテン島北東端からオークニー諸島、シェトランド諸島に至るオルカディアン盆地と呼ばれる地域の旧赤色砂岩のみがこれと一致することを突き止めました。
オルカディアン盆地は古生代のデボン紀(約4億1000万~3億6000万年前)に巨大な湖だった土地で、砂が堆積して砂岩層を形成した後、中生代から新生代にかけて隆起したと考えられています。
採石場が広大なオルカディアン盆地のどこであったかはわかっていませんが、ストーンヘンジから少なくとも750km以上離れた場所から運ばれてきたことになります。
世界遺産マークが世界遺産のストーンヘンジ遺跡群とエーヴベリー遺跡群、青いピンがウェスト・ウッズ、赤いピンがプレセリ山地、黄色い範囲がオルカディアン盆地のおおよその位置
同チームはスコットランドに山や森林が多いことから陸路での運搬は困難と考え、当時の人々が祭壇石を川から海へ船で運び、どこかの港から陸揚げしたものと推測しています。
6tもの石を運んだ巨大な船は出土していませんが、新石器時代のオークニー諸島の石がグレートブリテン島で発見されたりはしています。
また、今回の研究ではありませんが、ストーンヘンジやダーリントン・ウォールズといった周辺の遺跡では焼け跡からブタやウシといった家畜の骨が大量に発見されています。
これらの骨のストロンチウム同位体を解析した結果、家畜がグレートブリテン島各地から運ばれていた事実が明らかになっています。
中にはウェールズやスコットランドなど数百km離れた場所で育った家畜もいました。
こうしたことからストーンヘンジには各地から動物が持ち込まれ、儀式や宴会を行っていたようです。
どうやらイングランド、ウェールズ、スコットランドの石や家畜が使われていたのは意図的なものと考えられそうです。
ストーンヘンジ一帯はブリテン諸島全体の聖地であり、各地を結びつける役割があったのかもしれません。
非常におもしろいですね。
ストーンヘンジは「謎の遺跡」とされてきましたが、ここまでわかっているのですね。
そしていまもストーンヘンジと周辺の遺跡群では発見が相次いでいます。
今後の発見に期待です。
[関連サイト&記事]
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