世界遺産NEWS 24/05/20:イスタンブールのカーリエ博物館がモスクとしてオープン

5月6日、トルコの世界遺産「イスタンブール歴史地域」の構成資産であり、ビザンツ美術の最高峰とされるモザイク画(石やガラス・貝殻・磁器・陶器などの小片を貼り合わせて描いた絵や模様)やフレスコ画(生乾きの漆喰に顔料で描いた絵や模様)で知られるカーリエ博物館が「カーリエ・ジャーミィ(ジャーミィは大モスクを意味します)」という名のモスクとしてオープンしました。

2020年7月24日にはアヤソフィアが「アヤソフィア・ジャーミィ」としてモスク化されていますが、これに続くものとなります。

 

Turkey: Chora church, turned mosque then museum, is a mosque again(Middle East Eye)

 

今回はこのニュースをお伝えします。

 

* * *

2019~20年にかけて、トルコのエルドアン大統領の強い支援もあってイスタンブールのアヤソフィアとカーリエ博物館のモスク化が決定しました。

 

アヤソフィアは4世紀にハギア・ソフィア大聖堂として創建され、6世紀にビザンツ皇帝(東ローマ皇帝)ユスティニアヌス1世によって現在の建物に建て替えられました。

それまで壁で覆われていたドームを「ペンデンティブ」と呼ばれる構造を使って柱で持ち上げた画期的なドーム建築で、神の施設としてふさわしい広く明るい空間を確保することに成功しました。

16世紀にセリミエ・モスク(世界遺産)が完成するまで1,000年以上もこれを超えるペンデンティブ・ドームが築かれることはありませんでした(ペンデンティブやビザンツ建築については「世界遺産と建築08 ビザンツ建築/ビザンチン建築」を参照)。

 

オスマン帝国が1453年にビザンツ帝国を滅ぼすと、コンスタンティノープルをイスタンブールに改称して首都として整備し、ハギア・ソフィア大聖堂をアヤソフィア・ジャーミィという名のモスクに改修しました。

1922年にオスマン帝国が滅びてトルコ共和国が成立すると、初代大統領ムスタファ・ケマル・アタテュルクは1934年に無宗教の博物館に転換する閣議決定を行い、翌年一般公開がはじまりました。

トルコの世界遺産「イスタンブール歴史地域」、カーリエ博物館のエソナルテックスのモザイク画
カーリエ博物館のエソナルテックスの黄金のモザイク画。主に聖母マリアの生涯が描かれています。世界遺産「イスタンブール歴史地域(トルコ)」構成資産 (C) Dai Hasegawa

一方、カーリエ博物館は4世紀創設のコーラ修道院だった場所に立っており、修道院教会である聖救世主聖堂として建設されたものと見られます。

現在の建物は12世紀の再建で、14世紀までに内部は250点以上のモザイク画やフレスコ画で覆われました。

特にエソナルテックス(内部拝廊)とエクソナルテックス(外部拝廊)の黄金のモザイク画や、ナオス(内陣)の権威あるフレスコ画、パレクレシオン(私設礼拝堂)の華やかなフレスコ画はビザンツ美術の最高峰と評価されています。

 

オスマン帝国の時代にやはりモスクに改修されてカーリエ・ジャーミィとなり、トルコ共和国時代の1945年に無宗教の博物館への転換が決まり、1958年に博物館として公開がはじまりました。

 

2020年、エルドアン大統領はこれらふたつの偉大な建築物に対し、「博物館への転換は大きな誤りだった」としてモスクへ戻す計画を発表し、大統領令に署名しました。

これに対してギリシアや一部の正教徒が反発し、 UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)のオードレ・アズレ事務局長も遺憾の意を表明しています。

 

そのまま改装作業が進められ、2020年7月24日にアヤソフィアでイスラム教の礼拝が行われてアヤソフィア・ジャーミィとして復活しました。

礼拝の日時や礼拝所を除いて博物館としての公開は続けられており、イスラム教徒以外の観光客も以前と変わらず見学することができます。

トルコの世界遺産「イスタンブール歴史地域」、カーリエ博物館のパレクレシオンのフレスコ画
カーリエ博物館のパレクレシオンの見事なフレスコ画。イエスの復活や最後の審判、使徒らが描かれています。世界遺産「イスタンブール歴史地域(トルコ)」構成資産 (C) Dai Hasegawa

そしてカーリエ博物館についても改装が完了し、この5月6日にカーリエ・ジャーミィとしての開館式が催され、荘厳な空気の中で79年ぶりにイスラム教の礼拝が行われました。

祝賀会にはエルドアン大統領も参加しています。

こちらも博物館としての公開は続いており、礼拝のない日や時間・場所であれば以前と変わらず見学が可能です。

 

アヤソフィアもカーリエ博物館もキリスト教の教会堂として1,000年以上、イスラム教のモスクとして500年以上の歴史を誇ります。

宗教施設としての歴史が1,500年もあるわけで、本来の用途に戻されたと言えなくもありません。

 

一方、元は正教会の施設であり、特にアヤソフィアは正教会の頂点であるコンスタンティノープル総主教座が置かれていた聖地でもあります(現在、同座はイスタンブールの聖ゲオルギオス大聖堂に置かれています)。

正教会にとって両施設は非常に重要な意味を持っており、返還運動も起きています。

政教分離原則に反してトルコ政府が介入する事態に反発の声が上がっています。

 

懸念されていた両施設のモザイク画やフレスコ画ですが、礼拝の際はカーテンなどで隠されることになりました。

イスラム教は偶像崇拝の禁止を謳っているため人物画をよしとせず、オスマン帝国がコンスタンティノープルを征服した際にも多くの作品を破壊しています。

両施設の作品群は漆喰で塗り固められたため破壊されずに残り、おかげで現代まで伝えられることになりました。

 

エルドアン大統領はこれらの作品群を保存することを表明しており、トルコの文化遺産保護のレベルの高さを誇示しています。

一方、ギリシアのミツォタキス首相はモスク化することに不快感を表明し、アメリカも文化財の保全と多様な歴史の尊重、一般への公開の継続を求めています。

 

 

[関連記事]

世界遺産と建築08 ビザンツ建築/ビザンチン建築

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世界遺産NEWS 20/07/15:トルコ政府、イスタンブール・アヤソフィアのモスク化を発表

 


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