世界遺産NEWS 23/01/26:世界遺産委員会臨時会合でオデーサなど3件を世界遺産リストに緊急登録
1月24~25日にかけてフランス・パリのUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)本部で第18回世界遺産委員会臨時会合が開催され、「オデーサ歴史地区」をはじめ3件が世界遺産リストに緊急登録されました。
今回はそれぞれの新世界遺産の概要とともにこのニュースをお伝えします。
なお、昨年から延期されている第45回世界遺産委員会については2023年9月10~25日にサウジアラビアのリヤドで開催されることが決まっています。
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1月24~25日、フランス・パリのUNESCO本部で第18回世界遺産委員会臨時会合が開催されました。
ここで3件の緊急的登録推薦物件に対する審議が行われ、世界遺産リストへの登載が決定しました。
これにより世界遺産の総数は1,157件になりました。
また、これらの物件は同時に危機遺産リストにも登録されており、危機遺産の総数は55件となっています。
なお、緊急的登録推薦とは、顕著な普遍的価値が明白で、その価値を喪失する危機に直面した物件を緊急的に推薦することを示します。
これにより、推薦から審議まで1年半ほどを必要とするプロセスを短縮し、半年程度で登録することが可能となります。
また、同時に危機遺産リストに登録することで、条約に基づく財政的・技術的援助をすばやく行うことを企図しています。
その3件の概要を紹介しましょう。
<2023年1月に緊急登録された世界遺産リスト:3件>
○オデーサ歴史地区
The Historic Centre of Odesa
ウクライナ、2023年、文化遺産(ii)(iv)、危機遺産
「黒海の真珠」オデーサ(オデッサ)はドニエストル川河口の北約30kmに位置する黒海沿岸の港湾都市で、1794年にロシア皇帝エカチェリーナ2世によってオスマン帝国の要塞跡地に建設された。自由都市としてヨーロッパとアジアの架け橋となり、19世紀にロシア帝国、オスマン帝国、オーストリア帝国(オーストリア=ハンガリー帝国)をはじめ多くの国々と交流しながら国際都市として発展し、多文化・多民族都市として名を馳せた。
今回の緊急的登録推薦はロシアによる攻撃を受けてのもので、歴史的建造物の保護や史資料・美術品の避難・デジタル化などが進められている。
なお、本件は「港湾都市オデーサの歴史地区 "Historic Center of the Port City of Odesa"」の名称で推薦されたが、ICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)の提言を受けてこの登録名となった。
○古代サバ王国のランドマーク、マリブ
Landmarks of the Ancient Kingdom of Saba, Marib
イエメン、2023年、文化遺産(iii)(iv)、危機遺産
マーリブはアラビア半島南西部、ルブアルハリ砂漠の西に位置するオアシス都市で、特にサバ王国(紀元前8世紀~後275年)の統治下で発展し、一時は首都として繁栄した。最盛期にはサバ王国の政治・経済・文化の中心となり、アラビア半島南部から地中海にかけての交易、特に高級香料として取引されていた乳香貿易の要衝となった。ダムをはじめとする高度な灌漑システムを有し、半砂漠地帯にもかかわらず美しい街並みや広大な農場を築き上げた。
なお、本件はマーリブの都市遺跡やダム・寺院といった関連施設に加え、オアシス都市シルワなど7件の構成資産を有している。
また、緊急的登録推薦はイエメン内戦の脅威によるもので、本件を含みイエメン本土に存在する4件の世界遺産はすべて危機遺産となっている。
○ラシード・カラーミー国際見本市-トリポリ
Rachid Karami International Fair-Tripoli
レバノン、2023年、文化遺産(ii)(iv)、危機遺産
トリポリはアラビア語でタラーブルスと呼ばれるレバノン第2の都市で、レバノン北部の主要港湾都市でもある。ラシード・カラーミー国際見本市の展示場は、ブラジルの建築家オスカー・ニーマイヤーが地元の建築家やエンジニアの協力を得て1962 ~67年に設計したもので、レバノンが威信をかけて建設を進めていた。しかし、レバノン内戦(1975~90年)の影響で1975年に建設が中止され、そのまま打ち捨てられた。未完成ながら中東における20世紀モダニズム建築のもっとも代表的な作品群であり、ブラジルの世界遺産「ブラジリア」や「パンプーリャ近代建築群」などに見られるニーマイヤー建築の独自の展開を示すものである。
今回の緊急的登録推薦は鉄筋コンクリートの腐食などによって保存状況が悪化しており、ほぼすべての建造物が懸念される状態であり、それに対する財源も不足している状況を鑑みて行われた。
なお、推薦名称は「トリポリのラシッド・カラメ国際見本市 "The Rachid Karameh International Fair of Tripoli"」だったが、若干の変更が加えられた。
「オデーサ歴史地区」の登録について、21の委員国からなる世界遺産委員会は原則としている全会一致での登録には至らず、表決が行われました。
規定では、投票した国の3分の2以上の賛成で承認されるのですが、AFP通信によると、賛成6・反対1・棄権14となったようです。
ちなみに、21委員国はアルゼンチン、ベルギー、ブルガリア、エジプト、エチオピア、ギリシア、インド、イタリア、日本、マリ、メキシコ、ナイジェリア、オマーン、カタール、ロシア、ルワンダ、セントビンセント及びグレナディーン諸島、サウジアラビア、南アフリカ、タイ、ザンビアです。
反対票はロシアでしょうが、ロシア外務省はこの決定を受けて「あまりに政治的である」と強く非難しています。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、「ロシアの侵略者の攻撃から我々の真珠を保護しようとする仲間たちに感謝の意を表明します」としています。
また、UNESCOのオードレ・アズレ事務局長は、「映画や文学・芸術の中に数々の足跡を残す自由都市・国際都市であり伝説的な港湾都市でもあるオデーサは、この決定により国際社会による強固な保護の下に置かれます。戦争が継続される中で、この登録は数々の世界的危機を乗り越えてきたこの町をさらなる破壊から保護しようというわたしたちの共通する決意を示しています」との声明を出しています。
なお、昨年のロシアによるウクライナ侵攻を受けて延期されている第45回世界遺産委員会ですが、2023年9月10~25日にサウジアラビアのリヤドで開催されることが決まっています。
ここでは2021年推薦分と2022年推薦分の2年分の世界遺産登録をまとめて行う予定です。
推薦されている物件については記事「世界遺産NEWS 23/07/24:2023年の世界遺産候補地と勧告結果」、登録された世界遺産については「世界遺産NEWS 23/09/21:速報! 2023年新登録の世界遺産!!」を参照してください。
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