世界遺産NEWS 22/08/20:ヴィルンガ国立公園周辺の資源開発許可を競売へ
7月下旬、コンゴ民主共和国は石油や天然ガスの採掘が見込めまれる熱帯雨林や泥炭地をブロックに細分化して販売する競売を開始しました。
競売されるのは30ブロックで、一部は世界遺産「ヴィルンガ国立公園」に掛かっています。
■Oil permits up for auction in Congo's Virunga park, putting endangered gorillas at risk(CNN)
これに対してグリーンピース・アフリカをはじめさまざまな自然保護団体や学者が反対の立場を表明しています。
今回はこのニュースをお伝えします。
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1971~97年のあいだ「ザイール」と呼ばれていた国がありました。
第1次コンゴ戦争(1996~97年)でこの国が倒れてコンゴ民主共和国が成立。
さらにウガンダ、ルワンダ、ブルンジ、アンゴラといった周辺国を巻き込んで第2次コンゴ戦争(1998~2003年)が勃発しました。
こうした混乱はいまだ収束しておらず、国境付近では各国政府や反政府勢力、さまざまな民族・企業・難民・国内避難民などが争いに巻き込まれています。
そんな中にあって、コンゴ民主共和国、ウガンダ、ルワンダの国境付近に位置する世界遺産がヴィルンガ国立公園です。
コンゴ民主共和国の世界遺産5件は政情不安からすべて危機遺産リストに登載されています。
ヴィルンガ国立公園では難民や軍の流入、燃料や食料となる動植物の不法伐採・密猟、レンジャーの殺害や観光客の誘拐といった事件と保護体制の不備、そして資源開発が懸念されての登録となりました。
特に資源開発について、反対する者は死の危険を伴うといわれており、レオナルド・ディカプリオが製作総指揮を担当したドキュメンタリー映画『ヴィルンガ』では「自然保護は戦争だ "Conservation is War"」というコピーが話題になりました。
この辺りについては最後にリンクを張った過去記事「世界遺産NEWS 16/01/29:石油開発に揺れるヴィルンガ国立公園」「世界遺産NEWS 21/01/26:ヴィルンガ国立公園でレンジャー6人が殺害される」で触れているので参照してみてください。
そして今回のニュースです。
コンゴ民主共和国は石油や天然ガスの採掘が見込める熱帯雨林や泥炭地について、ブロックに細分化して競売に掛ける計画を進めていました。
炭化水素省は5月に16ブロックの競売に言及しましたが、7月には27の石油ブロックと3のガスブロックを競売に掛けると発表しました。
その中には世界遺産「ヴィルンガ国立公園」に掛かるブロックが含まれています。
ブディンブ炭化水素相は開発の理由として貧困を挙げており、経済発展が結果として自然保護を促すと主張しています。
世界銀行によると、コンゴ民主共和国は世界最貧国のひとつで、2018年時点で6,000万人の人口の3/4近くが1日1.90ドル未満(260円未満)で過ごしているとしています。
また、ノルウェー難民評議会の推定では、人口の1/3が十分な食料を得られておらず、500万人以上が国内避難民となっていると報告しています。
国内避難民とは、紛争に巻き込まれたり、宗教や人種・政治的意見といったさまざまな理由で迫害を受けるなど、生命の安全を脅かされて逃れなければならなかった国境を越えていない人々のことをいいます(UNHCR=国連難民高等弁務官事務所公式サイトより。国境を越えると難民と呼ばれます)。
たしかに難民や国内避難民が熱帯雨林に逃げ込んで畑を切り拓いたり、不法伐採や密猟をすることは問題となっています。
ゾウやサイの牙のように数十年分の所得に匹敵する資源も眠っており、動植物の売買も行われているようです。
ブディンブ炭化水素相はグリーンピース・アフリカなどの主張を一蹴し、「NGOの主張に従うつもりはない。……国民にとって正しい選択をするつもりだ」と述べています。
石油開発ですが、2009年からトタル、エニ、ソコといった国際石油資本によるヴィルンガ国立公園の地中探査が進められました。
2014年には事業停止が発表されましたが、その後も調査は続けられ、2015年には油田の存在が確認されました。
UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)やWWF(世界自然保護基金)、グリーンピース、AWF(アフリカ野生動物保護財団)など60以上の団体が石油掘削プロジェクトの中止を要請していますが、実現するには至っていません。
中止要求をしている人々は、世界遺産はもちろん、その他のブロックの開発にも反対しています。
コンゴ盆地は300億tの炭素が固着されている世界最大規模の熱帯雨林で、資源開発を行う場所としては世界最悪であるとしています。
しかも政府は昨年10~11月に開催されたCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)で5億ドル(約684億円)の森林保護協定に署名しており、それに対する矛盾も指摘されています。
そして7月28日、ついに競売が開始されました。
フェリックス・チセケディ大統領は220億バレルの石油と660億立方mの天然ガスの埋蔵可能性に言及し、世界中の企業や投資家に入札を呼び掛けました。
現在の石油生産量は1日当たり25,000バレルですが、これを20万バレルまで引き上げようとしているようです。
ロシア-ウクライナ間の戦争がはじまって以来、資源の綱引きが激化していますが、これも拍車を掛けているようです。
ただ、政府は経済開発・貧困対策といいますが、コンゴ民主共和国はすでに資源国です。
金や銅、コバルト、ダイヤモンドを生産し、コルタン(コロンバイト・タンタライト)と呼ばれるレア・メタルについては世界の埋蔵量の60〜80%を占めるといわれています。
ところが貧困問題は一向に解決せず、むしろ奴隷制に近い過酷な労働や少年・少女の労働が問題となっています。
問題は非常に深刻です。
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