世界遺産NEWS 20/09/03:世界最大級の熱帯湿原パンタナールで記録的な大火災
世界最大級の熱帯湿原とされるブラジルのパンタナールがかつてない規模の火災に見舞われています。
昨年も史上まれに見る規模といわれましたが、今年は1~8月について昨年の倍、7月については観測史上最多、8月については史上2番目を記録しています。
■Fires in the Brazilian Pantanal break a record(WWF)
今回はこのニュースをお伝えします。
なお、パンタナールの一部は世界遺産「パンタナール保全地域」に登録されています。
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9月1日、人工衛星によって撮影された画像を解析したINPE(ブラジル国立宇宙研究所)はパンタナールにおいて8月としては史上2番目に多い5,935件(史上最多は2005年の5,993件)の火災が発生したことを発表しました。
パンタナールは7~10月に乾季を迎えますが、7月は昨年比34%増となる史上最多の1,684件を記録し、1月1日~8月20日の火災件数についても8,058件と昨年同時期の205%を記録しました。
過半数の火災が8月のひと月に集中しているのですが、これは昨年および今年の降水量が少なく、川の水位や氾濫が極端に減ったことに起因しています。
パンタナールはもともとパラグアイ川の氾濫原で、10月から半年ほど続く雨季の氾濫によって湿原を保っています。
ところが昨年の水位はここ20年で最低で、加えて現在、ここ47年で最悪という干ばつに見舞われており、森林は非常に乾燥した状態です。
このため雨季直後で火が着きにくいはずの7~8月に火災が頻発する結果となっています。
また、昨年や今年の火災はこれまでと異なる特徴を持っているそうです。
パンタナールでは氾濫した水が土砂を運び、草原や湿原の上に土の層を作り出すのですが、草木が枯れたその地下層に火が着くケースが増えています。
火災に対して消防隊は木々を伐採して防火帯を作って延焼を食い止めていますが、地下から防火帯を突破して燃え広がったり、鎮火したように見えても地下に火が残っていてふたたび燃え上がったりしています。
これに対して大地を掘って塹壕のような防火帯を造る対策がありますが、そのような時間も人員もなく対処できていない状況です。
火災の原因となる火ですが、99%は人為的なものと考えられています。
本来、熱帯雨林や湿原は火が着きにくいものですが、これらの土地では人工的に森を焼いた跡に種をまく焼畑(やきはた)が行われています。
畑として使用された土地は痩せて使えなくなるため、その後はウシの放牧を行う牧草地となり、代わりに近隣の森を焼いて新しい畑を作ります。
また、牧草地でも草木が焼き払われるためこちらも種火となりえます。
こうした焼畑のほとんどは違法なものですが、これらに加えて焚火など日常生活で使用された火が原因となっています。
9月は土地がさらに乾燥するうえに、環境省が取り締まりを中断したことでいっそうの悪化が懸念されています。
実は、ブラジル政府は乾季のはじまる7月から120日間、森林での火の使用を禁じ、環境省はアマゾンとパンタナールで森林破壊と火災の取り締まりの強化を宣言していました。
これらは昨年の大火災を受けた対策でしたが、環境省は予算削減のため8月31日をもって取り締まりを中断することを発表しました。
これらはボルソナロ大統領の意向であるともいわれています。
森林火災が急増したのは2019年1月の大統領着任以降で、アマゾンでの農業・鉱山開発の公約がひとつの原因とされています。
大統領は「森を燃やして農場や牧草地を確保すればいい」とさえ発言しており、自然保護区や先住民の土地を一部開放する行政命令を出しています。
INPEの火災の報告に対しても「大げさ」「捏造」と一蹴し、2019年7月には所長を更迭してしまいました。
今年に入っても火災は「ウソ」であると述べており、過激な発言を続けています。
これに対してWWF(世界自然保護基金)や国際環境NGOグリーンピースなどが激しく非難しています。
なお、アマゾンとパンタナールの火災については過去記事も参照してみてください。
[過去記事]
※各記事にさらに過去の関連記事へリンクあり
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