世界遺産NEWS 19/11/23:ブラジル・パンタナールとオーストラリア南東部、大火災で非常事態宣言
8月下旬にブラジルのアマゾンで史上最大規模の火事が発生しているとのニュースをお伝えしました。
今度はブラジルのパンタナール湿原と、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の山地で大規模な火災が発生し、非常事態宣言が発令されました。
■Fires Are Ravaging Brazil's Pantanal, the World's Largest Tropical Wetlands(TIME。英語)
■Australia fires: Sydney blanketed by smoke from NSW bushfires(BBC。英語)
前者には世界遺産「パンタナール保全地域」、後者には世界遺産「グレーター・ブルー・マウンテンズ地域」や「オーストラリアのゴンドワナ雨林」があり、被害が懸念されています。
今回はこのふたつのニュースをお伝えします。
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パンタナールはブラジル、ボリビア、パラグアイ国境にまたがる世界最大級の熱帯湿原で、その景観が並外れて美しいだけでなく、生物多様性に富み、絶滅危惧種が多いことで知られています。
雨季になると平原に水が押し寄せ、80%ほどが水没するきわめて特殊な地形です。
例年、6~10月は乾季なのですが、パンタナールでは今年、乾季に入ってから火事が相次いでいます。
INPE(ブラジル国立宇宙研究所)による衛星画像解析によると、今年1~10月までに発生した火災は8,500件で昨年の5倍、焼失面積は180万ha(東京都の面積が22万ha)に達し、2007年以来最悪を記録しています。
10月については2,430件が発生し、こちらは2002年以来の最多記録です。
特に火災が集中しているのがボリビア、パラグアイ国境に近いマットグロッソ・ド・スル州で、一部では非常事態宣言が出されています。
同州には世界遺産「パンタナール保全地域」があり、延焼が懸念されています。
火災はボリビアやパラグアイでも起きており、ボリビアでは9月までに120万haが焼失し、一時は世界遺産「チキトスのイエズス会伝道施設群」の一部にも接近しました。
ブラジル・ボリビアの数字とも観測された火災に基づくもので、実際はこれらの数字よりもはるかに大きいとする研究者もいます。
火災の原因の90%はアマゾンと同様、野焼きと見られています。
本来、熱帯雨林や湿原は火が着きにくいのですが、焼畑や牧草地を作るために人為的に着けられた火が風に煽られて広がっているようです。
アマゾンの記事でも書きましたが、ブラジルのボルソナロ大統領が森を焼いて牧草地を確保することを奨励したことが一因とされており、国際的な非難を浴びています。
例年、10月下旬は雨季に入っているはずですが、今年は11月に入っても雨が少なく、火災が続いています。
世界遺産を縦断するパラグアイ川の水位はここ20年で最低で、生態系への影響が心配です。
なお、アマゾンは雨季に入りつつあり、火災は沈静化しています。
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11月11日、オーストラリア南東部ニューサウスウェールズ州で大規模な森林火災が起こり、人口500万余を誇るシドニーにも及ぶ危険があるとして州政府は非常事態を宣言しました。
火災警戒レベルは史上はじめて「壊滅的」という最高レベルに引き上げられ、3,000人以上の消防士と60機の航空機が出動し、一部の道路が閉鎖され、575校以上の学校が休校するといった警戒態勢が敷かれました。
9月以降、同州の森林の焼失面積は165万haに及び、過去3年の被害を上回っています。
シドニー周辺には世界遺産「グレーター・ブルー・マウンテンズ地域」の構成資産であるウォレミ国立公園やブルー・マウンテンズ国立公園があり、これらの国立公園でも火災が確認されています。
もともとこれらの地域は火災が多いことで知られているのですが、そのひとつの理由がユーカリです。
世界遺産名の「ブルー」は山が青く見えることから来ているのですが、これはユーカリの発する「テルペン」という物質が原因です。
テルペンは植物から採取される精油の主成分で高い引火性を持ち、火災が起こると一気に広がることになります。
ユーカリはこうした火事をも織り込んで進化しており、種は山火事によって森が一掃されたあと、雨を受けて発芽するといわれています。
こうした地域的な特性に加え、40度に達する熱波と日照りによる干ばつ、そして強風のため、これまでになかったような規模の火災が発生しています。
非常事態宣言は7日間で終了しましたが、火災は終息しておらず、天気予報でも高温や乾燥・強風が予想されているため州知事は警報に注意するよう呼びかけています。
州全体で毎日100件近い火災が起きており、22日の午後にも緊急警報が発令されています。
※2019/12/03追伸
その後も火災は収まらず、ブルー・マウンテンズ国立公園では20%もの範囲で被害が出ているようです。
また、UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)はさらに北東に位置する世界遺産「オーストラリアのゴンドワナ雨林」の被害について懸念を表明し、支援の準備があることを発表しています。
■Bushfires in the Gondwana Rainforests of Australia(UNESCO)
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アマゾン、パンタナール、オーストラリア・ニューサウスウェールズの火災を紹介しましたが、実は記事にしていない火災も数多く発生しています。
今年の夏以降だけ見ても、アメリカのカリフォルニア州でも火災で非常事態宣言が出されており、ロシアのシベリアでは記録的な大火災、スペインのカタルーニャでここ20年で最悪の火災、ポルトガル中部の火災はカタルーニャ以上の規模で、カナダやグリーンランド、アラスカなど北極圏の火災は過去1万年で最多という報告もあったりします。
これらの火災の直接的な原因としてもっとも多いのは野焼きや焚き火、キャンプファイア、タバコの不始末、放火といった人為によるものです。
特にヨーロッパの山火事は96%が人間由来であるという報告もあるくらいです。
しかし、山火事を大きくしているのは気候変動だといわれています。
上に挙げた地域はほとんど熱波と干ばつに襲われており、パンタナールやニューサウスウェールズの樹木の水分量が著しく減っていたという調査結果も出ています。
枯れ木や枯れ草が増えると火事はより広がりやすくなりますし、砂漠やサバナ、荒地化した土地は熱せられて強い上昇気流を生み、強風を呼び込みます。
こうして大火災の環境が整っていくわけです。
このため、こうした大火災が定着するのではないかと懸念されています。
実際、オーストラリアやカリフォルニアでは毎年のように大火災が報告されています。
簡単に解決するような問題ではなさそうです。
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