世界遺産NEWS 19/04/18:パリのノートル=ダム大聖堂で大火災が発生

大きなニュースになったのでもうご存知の方がほとんどだと思います。

 

日本時間4月16日午前2時頃(現地時間15日19時頃)、フランスの世界遺産「パリのセーヌ河岸」の構成資産のひとつであるノートル=ダム大聖堂で大規模な火災が発生しました。

パリ市民の目の前で高さ96mを誇るフレッシュ(屋根に設置されたゴシック様式の尖塔。スパイアの一種)が焼け落ち、フランス社会に大きな衝撃を与えています。

 

今回はこのニュースをお伝えします。

 

* * * 

パリのノートル=ダム大聖堂は世界を代表するゴシック建築のひとつで、ナポレオン1世の戴冠式が行われるなどヨーロッパ史においても重要な役割を果たしてきました。

フランス王国の時代には王の戴冠式が行われたランス大聖堂(ランスのノートル=ダム大聖堂)や王家の墓所があるパリのサン=ドニ大聖堂など、他にも由緒ある大聖堂がありました。

しかし、王政が廃止されてフランス共和国になってからは、戦勝の記念式典や大統領の国葬が行われるなどパリのノートル=ダム大聖堂がフランスを代表する大聖堂となっていました。

 

火災が発生したのは日本時間4月16日午前2時前で、現地時間だと15日19時前にあたります。

炎は一気に広がって、午前2時45分(現地時間19時45分)には中央のゴシック様式の尖塔=フレッシュがパリ市民の目の前で崩れ落ちました。

高さ96mを誇るフレッシュはフランスの象徴のひとつであり、これが倒壊したことでフランス全土に衝撃が走りました。

 

いったいどこが燃えたのか、確認してみましょう。

下の写真が火事の前の姿です。

中央の細くて黒い尖塔がフレッシュです。

その奥のふたつの塔が西側のナルテックス(拝廊)部でメイン・エントランスとなる西ファサード(正面)、左に少しバラ窓が見えますがこちらが南ファサードです。

全体は「†」形のラテン十字形で、頭が手前の東を向いています。

 

よく見ると、屋根が三角形であるのがわかります。

ノートル=ダム大聖堂は基本的に石造ですが、アーチを架けて築いた石造の天井の上に雨よけとして三角形の屋根枠(小屋組)で蓋をするような形になっています。

この屋根枠に使用されている木材は500tに及び、その上に250tの鉛板が葺かれています。

 

今回炎上したのはこの木造の屋根とフレッシュです。

下の図の赤くなっている部分が燃えた場所で、その下の火災の写真を見ると屋根がなくなっているのがわかります。

パリのノートル・ダム大聖堂
赤い部分が燃えた木造部分 (C) Umbricht
パリのノートル=ダム大聖堂
燃え上がるノートル=ダム大聖堂 (C) GodefroyParis

大聖堂を崩さないように慎重な消火活動を強いられた結果、8時間を経てようやく鎮火しました。

見学時間が終わっていたこともあって観光客や参拝者の被害は確認されておらず、消防隊に若干のケガ人が出ているようです。

 

建物の被害ですが、フレッシュは崩壊し、屋根の三分の二が焼失しました。

石造の天井も一部が倒壊しており、身廊や内陣の彫刻やレリーフ・絵画などもダメージを受けているものと思われます。

 

ただ、アプスや宝物庫まで炎は至っていないようで、特に重要な聖遺物(イエスやマリア、使徒や聖人の関連品)、イエスが処刑される際に被っていたという「荊冠(イバラの冠)」やルイ9世が着ていた「聖ルイのチュニック」は消防隊の活躍で救出されており、至聖所のピエタ像(聖母マリアがイエスの遺体を抱いている像)やパイプオルガンは無事であるようです。

他にも30%ほどの宝物は避難させることができたようですが、大きな絵画などは持ち出せず、熱と水のダメージが懸念されています。

また、西・南・北ファサードのバラ窓は崩れてはいないようですが、ダメージは確認されていません。

 

出火原因は現状、不明です。

実は火事が起こった15日からフレッシュの修復がはじまったばかりで、写真を見てわかるように周囲には9か月かけて大規模な足場が組まれていました。

このため溶接の残り火や回線のショートなど修復作業に伴うなんらかの過失の可能性が指摘されています。

 

フランスのマクロン大統領は2024年のパリ・オリンピックを睨んでか、「より美しい大聖堂を5年以内に再建する」と発表しています。

UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)のオードレ・アズレ事務局長は世界的な遺産を失いつつあることに「私たちも心を痛めています」と語り、専門家を手配するなどすでに修復支援に動いていることを明らかにしています。

現地報道によると寄付金はすでに1,000億円を超えており、さまざまな人的支援の申し出も受けているそうです。

 

今後は被害を確認したのち修復に入ると思われますが、幸いなことにアメリカの建築家が2015年からレーザーを使って計測を行った精密なデータがあり、細部まで確認できるようです。

外壁等に使用されている石灰岩ブロックが熱で割れたりしていなければそのまま利用することもできるため、1からの再建は避けられるかもしれません。

 

火災はもちろん残念な出来事ですが、これがパリの新たな歴史となり、国際協力や復興・文化振興等々の象徴にできたらいいですね。

 

 

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