世界遺産NEWS 18/05/17:2018年、世界遺産候補地の勧告結果
今年も世界遺産委員会の季節が近づいてまいりました。
第42回世界遺産委員会の開催地はバーレーンのマナマで、期間は6月24日~7月4日の予定です。
マナマは世界遺産「カルアト・アル-バフレーン-古代の港とディルムンの首都」と「島の経済を表す真珠産業遺産」を擁することでも知られます。
この委員会で今年も新たな世界遺産が誕生するわけですが、候補地の勧告結果が発表されているので紹介しましょう。
※2018/07/03追記
新登録の世界遺産が決まりました。
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最初に「勧告」についての解説です。
世界遺産を目指す物件は、登録を目指す年の前年2月1日までにUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)世界遺産センターに登録推薦書を提出しなければなりません。
そして推薦書を提出した物件について、文化遺産はICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)、自然遺産はIUCN(国際自然保護連合)、複合遺産の場合は両組織が現地調査を含む専門調査を行います。
ICOMOSとIUCNは下記4段階の勧告と提言で構成される評価報告書を作成し、世界遺産委員会の6週間前までに世界遺産センターに提出します。
この報告書を参考に、世界遺産委員会が正式に4段階の決議を行います。
○4段階の勧告&決議
- 登録:世界遺産リストへの登録にふさわしい
- 情報照会:追加情報の提供を要請。世界遺産委員会で決議された場合3年以内の提出で再審査が可能
- 登録延期:物件の構成やコンセプトを再考して登録推薦書の提出からやり直し
- 不登録:登録には不適で、世界遺産委員会で確定した場合は再推薦も不可
例年、情報照会や登録延期勧告からの逆転登録は起こっています。
しかしながら登録勧告からの逆転不登録はほとんど例がありません。
つまり、登録勧告は事実上の内定ということができるでしょう。
日本の推薦物件について、文化遺産の「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」はICOMOSから登録勧告を得ています。
自然遺産である「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」は登録延期勧告で、非常に厳しい指摘を受けています。
後者については今後、推薦を取り下げる可能性もあります。
この2件の構成資産や勧告内容の詳細については下の記事を参照ください。
■世界遺産NEWS 18/05/04:潜伏キリシタン関連遺産に登録勧告、琉球奄美に延期勧告
近年、世界遺産保有数No.1を争ってデッドヒートを繰り広げているイタリア(53件)と中国(52件)ですが、今回は両国とも2件ずつを推薦しており、いずれも情報照会勧告1件と不登録勧告1件となっています。
不登録勧告を受けて登録決議を勝ち得るのは難しいので、情報照会勧告を得た物件を登録できるか否かが勝負所となりそうです。
中国が1位タイに躍り出るか否か注目されます。
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それでは2018年の世界遺産候補地の勧告結果です。
37件を掲載しますが、推薦取り下げあるいは審議延期の3件、名称変更の4件を含んでいます。
したがって世界遺産委員会で審議予定の物件は現状30件(文化遺産21件、自然遺産6件、複合遺産3件。範囲変更1件含む)ということになります。
ただし、不登録勧告や登録延期勧告を受けた物件の中には今後推薦を取り下げる物件も出てくるものと思われます。
順番は、文化遺産→自然遺産→複合遺産で、それぞれはヨーロッパ→アジア→オセアニア→北米→南米→アフリカ、さらに国別五十音順です。
日本語名は私が適当に訳したものです。
正式な推薦名称は英語の表記になります。
名称や登録基準は今後変わる可能性があります。
★2018年に世界遺産登録を目指す物件一覧表
<文化遺産>
■イヴレーア、20世紀の産業都市 →情報照会勧告
Ivrea, industrial city of the 20th century
イタリア、文化遺産(ii)(iv)(vi)
■コネリアーノとヴァルドッビアーデネのプロセッコの丘 →不登録勧告
Le Colline del Prosecco di Conegliano a Valdobbiadene
イタリア、文化遺産(iv)(v)
■ベネヴォレンス入植地群 →登録延期勧告
Colonies of Benevolence
オランダ/ベルギー共通、文化遺産(iii)(v)(vi)
■ザフラー旧市街のカリフの都 →登録勧告
Caliphate City of Medina Azahara
スペイン、文化遺産(iii)(iv)
■ジャテツ-ホップの町 →登録延期勧告
Žatec - the Town of Hops
チェコ、文化遺産(ii)(iii)(iv)
■アシヴィスイット-ニピサット、氷と海に覆われたイヌイットの狩猟場 →登録勧告
Aasivissuit – Nipisat. Inuit Hunting Ground between Ice and Sea
デンマーク、文化遺産(iii)(v)
■ヘーゼビューとダーネヴィアケの考古学的景観 →登録勧告
The Archaeological Border Landscape of Hedeby and the Danevirke
ドイツ、文化遺産(iii)(iv)
■ナウムブルク大聖堂 →第41回世界遺産委員会で情報照会決議→不登録勧告(不勧告)
Naumburg Cathedral
ドイツ、文化遺産(i)(ii)(iv)
■ハンブルク-アルトナのユダヤ人墓地 →推薦取り下げ
The Jewish Cemetery Hamburg - Altona
ドイツ、文化遺産(ii)(iii)(iv)
■ギョベクリ・テペ →登録勧告
Göbekli Tepe
トルコ、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)
■ニームの歴史的都市建造物群 →登録延期勧告
Historic Urban Ensemble of Nîmes
フランス、文化遺産(ii)(iv)
■第一次世界大戦の葬祭・追悼場[西部戦線] →審議延期
Funeral and memorial sites of the First World War (Western Front)
フランス/ベルギー共通、文化遺産(iii)(iv)(vi)
■ロシア・モンタナ鉱業景観 →登録勧告
Roșia Montană Mining Landscape
ルーマニア、文化遺産(ii)(iii)(iv)(vi)
■伝統的商業港ホール・ドバイ →第41回世界遺産委員会で情報照会決議→不登録勧告
Khor Dubai, a Traditional Merchants’ Harbour
アラブ首長国連邦、文化遺産(ii)(iii)(vi)
■ファールス地方のササン朝の考古学的景観 →登録延期勧告
Sassanid Archaeological Landscape of Fars Region
イラン、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(v)
■ムンバイのヴィクトリア様式とアール・デコ様式の建造物群 →登録勧告
Victorian and Art Deco Ensemble of Mumbai
インド、文化遺産(ii)(iv)
■交易の時代:ジャカルタ旧市街[旧名バタヴィア]と4つの島嶼部[オンルス、ケロル、シピル、ビダダリ] →不登録勧告
Age of Trade: Old Town of Jakarta (formerly Old Batavia) and 4 Outlying Islands (Onrust, Kelor, Cipir and Bidadari)
インドネシア、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)
■古代都市カルハット →情報照会勧告
Ancient City of Qalhat
オマーン、文化遺産(iii)(v)(vi)
■山寺[サンサ]、韓国の仏教山岳僧院 →登録勧告
Sansa, Buddhist Mountain Monasteries in Korea
韓国、文化遺産(iii)(iv)
■アハサー・オアシス、進化する文化的景観 →不登録勧告
Al-Ahsa Oasis, an evolving Cultural Landscape
サウジアラビア、文化遺産(iii)(iv)(v)
■古代泉州の歴史的建造物と遺跡 →不登録勧告
Historic Monuments and Sites of Ancient Quanzhou (Zayton)
中国、文化遺産(ii)(iii)(vi)
■長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産 →登録勧告
Hidden Christian Sites in the Nagasaki Region
日本、文化遺産(iii)
■トロンデック-クロンダイク →推薦取り下げ
Tr’ondëk - Klondike
カナダ、文化遺産(iv)(vi)
■ティムリカ・オヒンガ考古遺跡 →第39回世界遺産委員会で情報照会決議→登録勧告
Thimlich Ohinga Archaeological Site
ケニア、文化遺産(iii)(iv)(v)
<自然遺産>
■ピュイ火山群-リマーニュ盆地の地殻変動地帯 →第40回世界遺産委員会で情報照会決議→登録勧告
Chaine des Puys - Limagne fault tectonic arena
フランス、自然遺産(viii)
■ビキン川渓谷 →情報照会勧告
Bikin River Valley
※「中央シホテ・アリン(2001年、自然遺産(x))」の範囲変更
ロシア、自然遺産(x)
■アラスバーラン保護区 →不登録勧告
Arasbaran Protected Area
イラン、自然遺産(ix)(x)
■梵浄山 →情報照会勧告
Fanjingshan
中国、自然遺産(vii)(ix)(x)
■奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島 →登録延期勧告
Amami-Oshima Island, Tokunoshima Island, the northern part of Okinawa Island, and Iriomote Island
日本、自然遺産(ix)(x)
■バーバートン=マコンジュワ山脈 →情報照会勧告
Barberton Makhonjwa Mountains
南アフリカ、自然遺産(viii)
<複合遺産>
■ピマチオウィン・アキ →第40回世界遺産委員会で情報照会決議。文化遺産:登録勧告、自然遺産:登録勧告
Pimachiowin Aki
カナダ、文化遺産(iii)(vi)、自然遺産(ix)
■テワカン=クイカトラン渓谷:メソアメリカの固有生息地 →文化遺産:登録延期勧告、自然遺産:登録勧告
Tehuacán-Cuicatlán Valley: originary habitat of Mesoamerica
メキシコ、文化遺産(iii)(iv)(vi)、自然遺産(x)
■チリビケテ国立公園-ジャガーの生息地 →文化遺産:登録勧告、自然遺産:登録勧告
Chiribiquete National Park - “The Maloca of the Jaguar”
コロンビア、文化遺産(iii)、自然遺産(viii)(ix)(x)
<名称変更が求められている世界遺産>
■イェリング墳墓群、ルーン文字石碑群と教会 →変更不承認
Jelling Mounds, Runic Stones and Church
変更希望:イェリング-ヴァイキング時代の記念碑
Jelling – Viking Age Monuments
デンマーク、1994年、文化遺産(iii)
■シェラン島北部のパル・フォルス狩猟景観 →変更承認
The par force hunting landscape in North Zealand,
フランス語名 ”Le paysage de chasse par force de Zélande du Nord” の変更希望(英語は変更なし)
変更希望:Paysage de chasse à courre de Zélande du Nord
デンマーク、2015年、文化遺産(ii)(iv)
■ビハール州ナーランダのナーランダ・マハーヴィハーラ[ナーランダ大学]の考古遺跡 →変更承認
Archaeological Site of Nalanda Mahavihara (Nalanda University) at Nalanda, Bihar
変更希望:ビハール州ナーランダのナーランダ・マハーヴィハーラの遺跡
Archaeological Site of Nalanda Mahavihara at Nalanda, Bihar
インド、2016年、文化遺産(iv)(vi)
■アフリカの近代都市アスマラ →変更承認
Asmara: a Modernist City of Africa
変更希望:アスマラ:近代アフリカ都市
Asmara: A Modernist African City
エリトリア、2017年、文化遺産(ii)(iv)
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6~7月に新世界遺産が出揃ったら速報します。
また、まもなく2019年に新登録を目指す世界遺産候補地の記事もアップします!
お楽しみに!!
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