世界遺産NEWS 18/04/09:アフリカ分裂!?ケニアの地割れは大地溝帯の影響か
3月中旬、ケニアの首都ナイロビで地盤沈下が起きて高速道路が一部崩落し、近郊の街で地割れが起きて道路が陥没。
さらに同月下旬には数kmに及ぶ地割れが確認され、なお成長中ということです。
当初は豪雨による被害と発表されていましたが、地質学者らはアフリカを東西に裂こうとするグレート・リフト・バレー(大地溝帯)に関連したプレート活動の活発化が原因と見ているようです。
■A huge crack provides evidence that Africa is slowly splitting into two(The Washington Post。英語)
今回はグレート・リフト・バレーと関連の世界遺産とともにこちらのニュースをお伝えします。
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まずはグレート・リフト・バレーを解説しておきましょう。
大陸が移動しているという大陸移動説はご存知だと思います。
その大陸移動を基礎づけている仮説が「プルーム・テクトニクス理論」と「プレート・テクトニクス理論」です。
地球は中心から「内核-外核-マントル-地殻」で形成されており、このうち外核が液体で他はおおよそ固体です。
個体ではあってもマントルと地殻の間で対流が起きており、マントルで熱された熱いプルーム(ホット・プルーム)が地殻へと上昇し、地殻で冷やされた冷たいプルーム(コールド・プルーム)がマントルへと沈み込んでいます。
これがプルーム・テクトニクス理論です。
ホット・プルームが上昇する場所では下からの圧力によって陸地が左右に裂け、コールド・プルームが下降する場所へと平行に移動を行います。
この岩盤=プレートの移動がプレート・テクトニクス理論の大陸移動説です。
上昇したプルームの上にできるのがホットスポットで、ここでマグマが地表に噴出して火山となります。
また、沈み込みが起こる場所ではプレート同士の摩擦熱や海水による融点降下によってマグマが生まれて火山となり、沈み込みが元に戻る反発力で大地震が起こります。
こうした理論のイメージは下の動画でつかめると思います。
さて、グレート・リフト・バレーです。
東アフリカの地下、エチオピア北部からジプチ、アラビア半島辺りを中心にホット・プルームが上昇しています。
上昇部分では大地が隆起すると同時に、下から突き上げてくるホット・プルームの圧力で左右に引き裂かれています。
こうして誕生したアフリカ南部から西アジアに至る南北約7,000kmの裂け目がグレート・リフト・バレーです。
グレート・リフト・バレーの活動に関係した世界遺産は少なくありません。
エチオピア高原やケニア、ウガンダ、コンゴ周辺の山地はこうした隆起によって誕生したもので、アフリカ最高峰のキリマンジャロ山①、第2峰のケニア山②、第3峰のスタンリー山③、第4峰のラスタジャン山④が含まれています。
これらの山が形成されたおかげでケニアやタンザニアに半砂漠の草原地帯であるサバナ(サバンナ)が誕生し、草原を歩く必要から二足歩行を行う人類が誕生したという仮説もあったりします(サバナ進化説)。
このサバナ説はグレート・リフト・バレーに猿人や旧人の化石地帯⑤⑥⑦⑧が多数発見されていることの根拠にもなっています。
※①世界遺産「キリマンジャロ国立公園(タンザニア)」
②世界遺産「ケニア山国立公園/自然林(ケニア)」
③世界遺産「ルウェンゾリ山地国立公園(ウガンダ)」
④世界遺産「シミエン国立公園(エチオピア))」
⑤世界遺産「ンゴロンゴロ保全地域(タンザニア)」
⑥世界遺産「アワッシュ川下流域(エチオピア)」
⑦世界遺産「オモ川下流域(エチオピア)」
⑧世界遺産「グレート・リフト・バレーにあるケニアの湖水システム(ケニア)」
逆に、切り裂かれた裂け目は渓谷となるのですが、そうした低地・盆地にできた湖や海がトゥルカナ湖①やマラウイ湖②、エレメンタイタ湖③やナクル湖③、死海、紅海です。
たとえばマラウイ湖は300万~200万年前にできた湖ですが、一般的な湖は川から流れ込む土砂のため数千~数万年で消滅してしまいます。
ところがマラウイ湖は裂け目が少しずつ広がっているため何百万年もあり続けることができました。
ヴィクトリア湖やタンガニーカ湖も同様で、こうした湖を「古代湖」と呼びます。
※①世界遺産「トゥルカナ湖国立公園群(エチオピア)」
②世界遺産「マラウイ湖国立公園(マラウイ)」
③世界遺産「グレート・リフト・バレーにあるケニアの湖水システム(ケニア)」
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さて、今回のニュースです。
3月14日、ケニアの首都ナイロビで幅約6m・深さ約15mの地盤沈下が起きて高速道路が一部崩落しました。
続いて16日にはケニアの北西約50kmに位置するマーイ・マヒウで幅約20m・深さ約15mの地割れが現れて道路が陥没しました。
さらに同月下旬には数kmに及ぶ地割れが確認され、成長中ということです。
当初は雨季の集中豪雨による地滑りと発表されたようですが、これに多くの地質学者が異を唱えました。
地元の地質学者デビッド・アデデ氏は「北のロンゴノット山や南のススワ山の活動が活発化しており、その一環と見られる」とし、ロンドン大学の地質学グループは「アフリカを引き裂く活動の一部」としています。
地割れが発見されたマーイ・マヒウはリフトバレー州の町で、地元のキクユ語で「熱湯」を意味します。
北60~150kmほどには世界遺産「グレート・リフト・バレーにあるケニアの湖水システム」のエレメンタイタ湖、ナクル湖、ボゴリア湖が点在しており、まさにグレート・リフト・バレー中の町と言えるでしょう。
この町の地下深くにはグレート・リフト・バレーを構成する東リフト・バレーが走っています。
アフリカ大陸はこの東リフト・バレーから西のヌビア・プレートと東のソマリア・プレートに引き裂かれており、年間2.5~5.0cmほどの速さで裂け目が広がっているといいます。
今回の地割れは雨による土砂崩れや地滑りで地下の裂け目が露わになったものと考えられているようです。
この裂け目は将来的にアフリカを東西に分割すると見られています。
5,000万年以上をかけてグレート・リフト・バレーは海に没し、モザンビークからタンザニア、ケニアの沿岸部からエチオピア、ジプチにかけての土地が新大陸を形成するようです。
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↑はグレート・リフト・バレーに位置する「人類の故郷」オルドヴァイ峡谷の写真です(世界遺産「ンゴロンゴロ保全地域」構成資産 (C) Noel Feans)。
ここで巨大な脳を持つ最初のヒト属の化石が発見され、大量の打製石器も出土したことから「器用な人」を表すホモ・ハビリスと名付けられました。
グレート・リフト・バレーの造山活動がサバナを生み、サバナが人類や数多くの野生動物を育んできました。
そしてその活動によって将来、この周辺は海となり、気候はいまとまったく違うものになるのでしょう。
地球も生きているのだということを感ぜずにはいられません。
そのとき人類はいったいどんな進化を遂げているのでしょうか。
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