世界遺産NEWS 15/11/12:古都京都のコンビニ&マンション問題
「古都京都の文化財[京都市、宇治市、大津市]」は京都府と滋賀県の17の構成資産からなる世界遺産です。
構成資産のひとつである仁和寺(にんなじ)二王門近くにガソリンスタンド・出光興産とコンビニ・ローソンの建設計画が持ち上がっていましたが、11月9日、出光とローソンが出店計画の中止を発表しました。
仁和寺は886年に光孝天皇により起工され、888年に宇多天皇によって落成された歴史あるお寺です。
1467年の応仁の乱でほとんど焼失しましたが、17世紀半ば、江戸時代に多くが再建されました。
今回、ガソリンスタンドとコンビニの建設が予定されていたのは二王門から約20mの場所。
世界遺産の登録地ではありませんが、バッファーゾーン(緩衝地帯)とされている一帯です。
これに対して仁和寺と一部周辺住民は、世界遺産としての景観を損ね、住環境が悪化すると同時に火災の危険も増すということで9月に建設計画の撤回を求め、京都簡易裁判所に調停を申し立てていました。
出光とローソンは景観に配慮したデザインを目指していたようですが、仁和寺や住民との話し合いを通じて「理解を得られないと判断した」と表明しました。
場所は定かではありませんが、二王門の南西20mということなので、おそらく門の左下の空き地の部分なのでしょう。
お寺のほぼ正面、一般の住宅街ということで、ここに24時間営業のガソリンスタンドやコンビニができたら特に夜は景観が変わるかもしれませんね。
そしてやはり「古都京都の文化財」に登録されている下鴨神社(賀茂御祖神社。かもみおやじんじゃ)では敷地内にマンションを建設する計画を3月に発表しました。
予定地は境内南に広がる原生林・糺の森(ただすのもり)の南端で、御蔭通の南にある駐車場や駐輪場・倉庫などがある一画です。
周囲にはガソリンスタンドや病院・喫茶店などがある通りの向こうということで、森の一部といえるかどうか微妙なところです。
この地を50年の期限で貸し出して、年間約8千万円の地代収入を得る計画です。
建てられるマンションは鉄筋コンクリート造・3階建て8棟計107戸。
高さを10m以内に抑え、周囲には糺の森と同じニレ科の木々を植えて、屋根を日本瓦で覆って景観に配慮するようです。
仁和寺と同様、マンション計画地も世界遺産のバッファーゾーンとなっています。
にもかかわらず下鴨神社が開発を決めたのは、式年遷宮に伴う深刻な予算不足に原因があるようです。
式年遷宮は一定期間(下鴨神社では本来21年ごと。しかし必ずしもこの通りに行われていない)で社殿を建て替えて神座を遷す行事のこと。
下鴨神社の造営は一説では紀元前に遡りますが、奈良時代前後には式年遷宮が行われていたようです。
しかしながら多くの建物が国宝や重要文化財に登録されたため、いまでは伊勢神宮のように社殿のすべてを新しくするようなことはせず、一部の造替・修理のために神座を遷すにとどめています。
この式年遷宮、30億円ほどかかるとのこと。
2015年4月に第34回式年遷宮が終わったのですが、募金活動が難航し、国の補助金8億を入れても12億円ほどが予定より不足したようです。
マンション建設は安定的な財源確保のための手段ということです。
近年、神社や寺の経営状況は悪化の一途をたどっているといわれます。
原因は、少子高齢化、地方の過疎化、檀家・氏子の減少、冠婚葬祭の簡素化・低価格化、町内会などの結び付きの減少、景気悪化等々です。
特に檀家に比べて氏子はもともと少ないため、神社は祈祷料や賽銭・婚礼・寄付などが主な収入源となっていたわけですが、祭りなどを主催して町内をまとめていた神社の機能は年を追うごとに減退し、景気後退なども伴って一部は非常に厳しい経営状況にあるようです。
一方で、京都の不動産は絶好調といわれています。
京都は開発規制が多いのでもともとパイが少ないことに加え、外国人観光客の急増に伴って特に宿泊施設に関しては東京や大阪でも泊まる場所がないといわれるほどの活況を呈しています。
マンションもその希少性から人気が高く、外国人の購入希望者も多いとのこと。
このためホテルやマンション計画を立案する神社も少なくないようです。
下鴨神社のマンション建設の動きに対し、反対派の住民は神社や市に反対を申し入れ、署名活動や世界文化遺産の調査・評価を行うICOMOS(イコモス。国際記念物遺跡会議)への直訴などを行っています。
世界遺産登録地に新たな倉庫が建設されることも問題視しているようです。
京都市は条例に基づいて建設に対して種々の認定を行いました。
これにより、12月にも着工がはじまる予定です。
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この手の問題は京都では少ないものではありません。
しかしこの2件は世界遺産が関わったことでマスコミの注目を集めました。
下鴨神社のマンション問題についてはICOMOSからUNESCOに報告するとの話もあり、来年初夏の世界遺産委員会でなんらかの動きが見られるかもしれません。
ただ、もともと駐車場や駐輪場でいくつかの建物もあり、周囲にはガソリンスタンドなどもあるということで、それほど問題ないのではないかという意見もあったりします。
経過を見守りたいところです。
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