世界遺産NEWS 13/11/23:アメリカ&イスラエル、UNESCO投票権喪失

11月8日、アメリカとイスラエルのUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)総会における投票権が停止されました。

UNESCOのシンボル
ギリシアの世界遺産「アテネのアクロポリス」のパルテノン神殿を象ったUNESCOのシンボル

その主因は2011年に実現したパレスチナのUNESCO加盟にあります。

同年10月、パレスチナはUNESCOへの加盟を申請し、賛成107・反対14・棄権52、2/3以上の賛成票をもって承認されました。

 

しかし、国家承認を認めないアメリカとイスラエルはこれに反発して分担金の拠出を凍結。

特にアメリカの拠出金は加盟国中最大で、UNESCOの全予算の22%を占めています。

これによりUNESCOは予算削減・人員整理を余儀なくされました。

 

パレスチナはさらに「イエスの生誕地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路」の世界遺産リストへの緊急的登録推薦を申請。

イスラエルが反対動議を提出し、アメリカがその政治的プロセスを非難したものの、2012年7月の第36回世界遺産委員会で世界遺産に登録されました。

 

2年間にわたって拠出金が支払われない場合、規定により当該国の投票権は停止されることになっています。

この期限が11月8日で、これをもって両国の投票権は自動的に失効しました。

 

アメリカとUNESCOはこれまでもしばしば対立してきました。

1984年には政治的介入を嫌ってUNESCOを脱退しているし(復帰は2003年)、イエローストーン国立公園に対する介入を嫌って世界遺産登録にも消極的になってしまいました。

以前は世界3位の登録数を誇っていましたが、1996年以降は2010年の「パパハナウモクアケア」しか登録がありません。

 

そもそもUNESCOは二度の世界大戦の反省を踏まえ、平和と安全を実現するために組織された国際組織です。

UNESCO憲章からその目的を抜粋してみましょう(文化庁資料より)。

 

■UNESCO憲章第1条より

この機関の目的は、国際連合憲章が世界の諸人民に対して人種・性・言語又は宗教の差別なく確認している正義、法の支配、人権及び基本的自由に対する普遍的な尊重を助長するために教育、科学及び文化を通じて諸国民の間の協力を促進することによつて、平和及び安全に貢献することである。

 

ところが国と国の間には対立があり、戦争も起こり続けています。

国家はそれぞれの国益を追うものですから、そのような状況で平和をもたらすためには多少なりとも政治的な動きが必要となります。

政治性を抜きにしてUNESCOの活動はありえないのです。

 

実際UNESCOは世界遺産の保護に関しても国家の枠組みを超えた介入を行っています。

たとえばシリア内戦における世界遺産の破壊に対して懸念を表明し、国際法の立場から圧力をかけています。

ドイツの「ドレスデン・エルベ渓谷」では周囲の開発計画の撤回を求め、拒否されて橋が架けられると世界遺産リストから抹消してしまいました。

これらを内政干渉と捉えることも可能ですし、実際こうした活動が世界遺産活動に対する温度差につながっているのも事実です。

 

UNESCOは国連(国際連合)の一専門機関にすぎません。

しかしながら専門機関であるからこそ、国連とまた異なる役割・性格を持っています。

 

パレスチナはUNESCOへ加盟を申請する前に国連へ加盟申請を行いました。

アメリカが国連の実質的な最高機関である安全保障理事会で拒否権を持っているため、この申請が認められる可能性はありません。

しかし純粋な多数決で議決を行うUNESCOでは、パレスチナは圧倒的多数の賛成をもって加盟が認められました。

どちらがより民主的なプロセスであるかは言うまでもありません。

 

拠出金の停止というアメリカとイスラエルの動きによってUNESCOは大きな痛手を負いました。

しかし同時に多くの加盟国はパレスチナを承認することで両国に大きなメッセージを投げかけ、独自の機能を発揮しました。

 

UNESCOがどこに向かうのか?

世界が試されています。

 

■UNESCO憲章前文より

戦争は人の心の中で生れるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。

相互の風習と生活を知らないことは、人類の歴史を通じて世界の諸人民の間に疑惑と不信をおこした共通の原因であり、この疑惑と不信のために、諸人民の不一致があまりにもしばしば戦争となった。

ここに終りを告げた恐るべき大戦争は、人間の尊厳・平等・相互の尊重という民主主義の原理を否認し、これらの原理の代わりに、無知と偏見を通じて人間と人種の不平等という教義をひろめることによって可能にされた戦争であった。

文化の広い普及と正義・自由・平和のための人類の教育とは、人間の尊厳に欠くことのできないものであり、且つすべての国民が相互の援助及び相互の関心の精神をもって果さなければならない神聖な義務である。

政府の政治的及び経済的取極のみに基く平和は、世界の諸人民の、一致した、しかも永続する誠実な支持を確保できる平和ではない。よって平和は、失われないためには、人類の知的及び精神的連帯の上に築かなければならない。

 

 

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