世界遺産NEWS 13/06/11:日本の世界遺産、2015年推薦枠争い
いよいよ6月下旬、「富士山と信仰・芸術の関連遺産群」の世界遺産登録の可否が決まります。
そして2014年の同時期には、「富岡製糸場と絹産業遺産群」も世界遺産登録に挑戦します。
今回はこれ以降、2015年に世界遺産登録を目指す候補物件を紹介しましょう(続報です。2015年の世界遺産候補地はこちらの記事で→2015年の世界遺産候補地)。
その前に。
世界遺産に登録されるためには、登録を目指す年の前年2月1日までに推薦書をUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)世界遺産センターに提出しなければなりません。
2015年に世界遺産登録を目指す場合、2014年2月1日が〆切です。
しかしながら実はその半年前、9月末を〆切にUNESCOは暫定版推薦書の受付を行っており、これに間に合えばアドバイスが受けられることになっています。
富岡製糸場も昨年9月30日までに暫定版を送っています。
これに間に合うようにするとなると、余すところあと3か月しかありません。
しかもです。
次回から、推薦は各国年2件まで、そのうち1件は自然遺産でなければならない、という条件に変更されるようです(以前もそうだったんですが、この辺り、結構コロコロ変わります。なお、文化的景観なら文化遺産2件でもOKで、複数国で推薦するトランスナショナル・サイトやトランスバウンダリー・サイトについては主導国の推薦枠を使います)。
今年は富士山と鎌倉の2件の文化遺産を推薦していたわけですが、複数の文化遺産の同時推薦というのは今後難しくなりそうですね。
2015年の世界遺産登録に向けて準備しているのは暫定リスト記載の下記4件で、いずれもすでに推薦書の原案を政府に提出済みです。
- 長崎の教会群とキリスト教関連遺産(長崎、熊本)
- 北海道・北東北の縄文遺跡群(北海道、青森、秋田、岩手)
- 九州・山口の近代化産業遺産群(岩手、静岡、山口、福岡、熊本、佐賀、長崎、鹿児島)
- 百舌鳥・古市古墳群(大阪)
このうち、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」については昨年も原案を提出しており、今年4月には文化庁から唯一「推薦可能」という評価を得ました。
奇しくも2015年はプティジャン神父が大浦天主堂で隠れキリシタンを発見した「信徒発見」150周年の節目にあたりますから、関係者も譲れない心境でしょう。
ずばり、本命です。
しかしながら長崎・熊本両県は「九州・山口の近代化産業遺産群」にも名を連ねています。
というか、当初は九州5県と山口県の産業遺産での登録を目指していましたが、次第に増えていまや8県11市にまたがっています。
名称も「日本の近代化産業遺産群-九州・山口及び関連地域」とするようですね。
たしかに八幡製鐵所、三池炭鉱、長崎造船所、集成館、松下村塾、グラバー邸、軍艦島、韮山反射鏡と有名所が多く、その意義も理解できます。
実はこの物件、これまでの日本の世界遺産にはなかった問題を抱えています。
それが「稼働中の工場の扱い」で、橋野高炉跡及び関連施設、長崎造船所の一部、三池炭鉱の三池港、旧官営八幡製鐵所が該当します。
稼働している工場は経済活動を目的としているわけで、普通工場主は工場の半永久的な保存など期待していませんし、保護を目的とする文化財保護法の対象でもありません。
世界遺産は各国の国内法の保護を受けていなければなりませんが、文化遺産について、日本では文化財保護法がこの役割を担っています。
このままでは世界遺産の対象外、ということになってしまいます。
しかしながら世界には鉄道や運河、橋、農園のような稼働中の多くの世界遺産が存在し、そうした国々では文化財保護法以外の法体系でこうした産業遺産を守っています。
日本でもこれを実現するために、この物件に関しては文化庁よりも内閣官房が積極的に活動を行っており、新たな枠組みでの保護活動を進めています。
そうした意味で非常に意義深い物件で、個人的にとても注目しています。
「百舌鳥・古市古墳群」は、この中ではもっともわかりやすい物件でしょうか。
大仙陵古墳(仁徳天皇陵)の前方後円墳の墳丘は長さ486m、高さ35m。
すでに世界遺産に登録されているクフ王のピラミッド、秦始皇陵に並んで世界三大陵墓のひとつに数えられています。
現存する90の古墳のうち、百舌鳥(もず)28基、古市(ふるいち)32基の登録を目指すようで、その規模の大きさがうかがえます。
この物件は「稼働中の工場」に少し似ていて、文化庁ではなく宮内庁が管理する陵墓が多いという問題を抱えています。
「古都奈良の文化財」の世界遺産登録にあたって、宮内庁管理の正倉院を例外的に国宝指定して文化財保護法の下に置くという措置がとられたことがありました。
しかし今回はこの方法をとらず、宮内庁管轄のまま保存体制を整えるようです。
「これで陵墓が研究できるかも!」と期待する人も多かったようですが、宮内庁は「ICOMOSの調査員でも墳丘はダメ」と回答しているようですね。
「北海道・北東北の縄文遺跡群」は個人的にとても好きな物件です。
この地の縄文文化は、狩猟採取生活ながら定住生活を勝ち取っただけでなく、土器や土偶、ストーンサークル、日時計型組石、高床式住居等々、芸術性の非常に高い文化。
出土する土器も世界最古級で、1万年をはるかに超えるという話です。
世界遺産でも有史以前の遺跡はまだまだ少ないものですから、仮に今回選ばれなかったとしても、いずれは登録を期待しています。
なお2016年について、自然遺産の「奄美・琉球」が登録を目指しています。
2014年に暫定リストに掲載して、2015年に推薦書提出というスケジュールになりそうです。
* * *
これら4件とは関係ありませんが、「四国八十八箇所霊場と遍路道」の世界遺産登録に向けた活動が本格化するようですね。
道をフィーチャーした「道の世界遺産」には以下のような例があります。
- 紀伊山地の霊場と参詣道(日本)
- サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路(スペイン)
- フランスのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路(フランス)
- ティエラアデントロの王の道(メキシコ)
- 香料の道-ネゲヴ砂漠都市(イスラエル)
- フランキンセンス(乳香)の国土(オマーン)
- イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路(パレスチナ)
加えて2014年には以下4件が世界遺産登録に挑戦する予定です。
- シルクロード:ペンジケント-サマルカンド-パイケンドの回廊(ウズベキスタン/タジキスタン)
- シルクロード:シルクロードの始点、天山回廊の道路網(カザフスタン/キルギス/中国)
- アンデス道路網、カパック・ニャン[インカ道](アルゼンチン/エクアドル/コロンビア/チリ/ペルー/ボリビア)
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京杭大運河(中国)
いよいよシルクロードとインカ道(みち)、「水の道」といえる大運河の登場ですか!
いやー、「道の世界遺産」、来てるじゃないですか!!
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