世界遺産ランキング集1.登録基準に見るランキング
千件を超える世界遺産ですが、どなたにも「好きな世界遺産」「行ってみたい世界遺産」「行ってよかった世界遺産」等々、心の中にランキングがあるでしょう。
たとえば私の場合、小さな頃「絶対行ってみたい!」と思っていたのは死海(世界遺産ではありませんね)でしたし、衝撃を受けたのはティカルやアンコール、アート的な意味で好きなのはローマのパンテオンやアテネのパルテノン神殿、フィレンツェのサント・スピリト教会、物語に震えたのはイースター島やアブ・シンベルあたりでしょうか。
比べても意味がないといえばないのですが、新しい世界遺産を知ったり、目的地選びの参考にはなるかもしれません。
というわけで、ここでは世界遺産に関するさまざまなランキングを集めてみようと思います。
NHKやスミソニアン、ナショナルジオグラフィックのランキングも掲載します!
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<登録基準とは何か?>
■世界遺産の登録基準
まずは「登録基準」というものから世界遺産を眺めてみましょう。
世界遺産に登録されるためには(i)~(x)まで10項目ある登録基準を1項目以上満たさなければなりません。
その中で、(i)~(vi)の1項目以上を満たすと「文化遺産」、(vii)~(x)の1項目以上を満たすと「自然遺産」、双方を1項目以上満たすと「複合遺産」と呼ばれます。
○世界遺産の登録基準
(i) 人類の創造的な才能を表現する傑作であるもの
(ii) 一定の期間、または世界のある文化圏において、建築・技術・記念碑・街並み・景観デザインの発展において、人類の価値の重要な交流を示しているもの
(iii) 現存する、またはすでに消滅した文化的伝統や文明に関する唯一の、あるいはまれな証拠を示しているもの
(iv) 人類の歴史の重要な段階を示す建築物、建築様式、技術集合体、または景観の顕著な例といえるもの
(v) ある文化(ある複数の文化)や人類の環境的相互作用を特徴づける人類の伝統的集落や土地や海洋利用の顕著な例であるもの。特に、回復が困難で、存続が危うい状態にあるもの
(vi) 顕著で普遍的な価値を有する出来事や現在存続する伝統で、思想・信仰・芸術作品・あるいは文学作品と直接に、または実質的に関連があるもの(本基準は他の基準と関連して適用されるべき基準と考えられている)
(vii) 類まれな自然の美や美的要素を有した自然現象、または地域を含むもの
(viii) 生命の記録、進行中の地形発達の重要な地質学的過程、または重要な地形学的・自然地理学的特徴を含む、地球の歴史の主要な段階を示す顕著な例であるもの
(ix) 陸上・淡水・沿岸・海洋生態系・動植物群集の進化や発展において、進行中の重要な生態学的・生物学的過程を示す顕著な例であるもの
(x) 学術上・保全上の観点から顕著な普遍的価値を有し、絶滅の恐れがある種が生息しているなど、生物の多様性保全の観点からもっとも重要な自然の生息地を含むもの
それぞれの項目を簡単に記すと、(i)人類の傑作、(ii)文化交流の跡、(iii)文化・文明の証拠、(iv) 重要な建築物や景観、(v)伝統集落や環境利用の例、(vi)出来事・伝統関連、(vii)自然の美、(viii)重要な地形、(ix)生態学的・生物学的過程、(x)生物多様性・絶滅危惧種関連、となります。
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<キング・オブ・世界遺産>
■キング・オブ・世界遺産
いまのところ、これらすべてを満たす世界遺産は存在しません。
もっとも多くを満たすもので7項目、2件の世界遺産が該当します。
6項目を満たす世界遺産は4件存在します。
○もっとも多くの登録基準(7項目)を満たす「キング・オブ・世界遺産」
- 泰山(中国、1987年、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(v)(vi)、自然遺産(vii))
- タスマニア原生地域(オーストラリア、1982年、1989年、2010年、2012年、2013年、文化遺産(iii)(iv)(vi)、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
○6項目の登録基準を満たす「準キング・オブ・世界遺産」
- ヴェネツィアとその潟(イタリア、1987年、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(v)(vi))
- アトス山(ギリシア、1988年、文化遺産(i)(ii)(iv)(v)(vi)、自然遺産(vii))
- 莫高窟(中国、1987年、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(v)(vi))
- カンペチェ州カラクムルの古代マヤ都市と熱帯保護林(メキシコ、2002年、2014年、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)、自然遺産(ix)(x))
簡単に解説しましょう。
「泰山」は道教五名山(泰山、衡山、嵩山、華山、恒山)の中でも最高といわれる山で、深い森と切り立った山々が神々しい景色を見せる聖山です。地を治める天子=皇帝が天にいる天帝=神に祈りを捧げる「封禅(ほうぜん)」の儀式が行われる場所で、秦の始皇帝や漢の武帝など多くの皇帝がここを訪れました。そのための宮殿や祠が残っており、文化遺産としての価値も認められました。
「タスマニア原生地域」ですが、オセアニアは早くから他の大陸と分離したためカンガルーやコアラのように動物たちが独自の進化を遂げています。際立っているのがタスマニア島で、森林や草原、氷河による大渓谷など、多様な気候が多くの固有種を育みました。また、1~2万年前に描かれたロック・アートは文化遺産として高く評価されています。
「ヴェネツィアとその潟」のヴェネツィアは118もの島からなるラグーナ(潟)です。6世紀、この湿地に杭を打って家々を築き、それらを400もの橋でつないで街を造り、やがて街は地中海に覇を唱える一大都市国家にまで成長しました。海と陸、東洋と西洋、キリスト教とイスラム教が交わる場所にあり、独特の文化を伝えています。
「アトス山」は海から一気に2,033mまで切り上がる断崖絶壁の岬で、岬全体が東方正教会の聖山として中世より崇められています。修道士たちが昔ながらの修行を行っており、女人禁制で、男性も許可書が必要など入山は厳しく制限されており、当時の文化と手つかずの自然がそのまま残されています。
「莫高窟」は砂漠が広がる鳴沙山の断崖に築かれた石窟群で、計492の石窟が崖のあちらこちらに掘られています。石窟は5世紀以降約1,000年にわたって造られており、中には計2,400以上といわれる仏像が安置され、壁は仏教の神々や説話を描いたカラフルな壁画で覆われています。
「カンペチェ州カラクムルの古代マヤ都市と熱帯保護林」のカラクムルはユカタン半島でも最古級のピラミッドが連なるマヤ古典期前期の古代遺跡。それに加えて周囲の熱帯雨林はメソアメリカ生物多様性ホットスポットの中心をなす地域で、南北アメリカ大陸をつなぐ回廊として多彩な生物種を育んでおり、ケツァールをはじめ固有種も数多いのが特徴です。
■キング・オブ・文化遺産、キング・オブ・自然遺産
(i)~(vi)の文化遺産登録基準のすべてを満たす世界遺産は3件、(vii)~(x)の自然遺産登録基準のすべてを満たす世界遺産は21件存在します。
○すべての文化遺産登録基準を満たす「キング・オブ・文化遺産」
- 泰山(中国、1987年、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(v)(vi)、自然遺産(vii))
- ヴェネツィアとその潟(イタリア、1987年、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(v)(vi))
- 莫高窟(中国、1987年、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(v)(vi))
○すべての自然遺産登録基準を満たす「キング・オブ・自然遺産」
- バイカル湖(ロシア、1996年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
- カムチャツカ火山群(ロシア、1996年、2001年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
- 雲南三江併流の保護地域群(中国、2003年、2010年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
- グヌン・ムル国立公園(マレーシア、2000年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
- グレートバリアリーフ(オーストラリア、1981年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
- タスマニア原生地域(オーストラリア、1982年、1989年、2010年、2012年、2013年、文化遺産(iii)(iv)(vi)、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
- クイーンズランドの湿潤熱帯地域(オーストラリア、1988年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
- 西オーストラリアのシャーク湾(オーストラリア、1991年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
- テ・ワヒポウナム-南西ニュージーランド(ニュージーランド、1990年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
- イエローストーン国立公園(アメリカ、1978年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
- グランドキャニオン国立公園(アメリカ、1979年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
- グレート・スモーキー山脈国立公園(アメリカ、1983年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
- クルアーニー/ランゲル-セント・イライアス/グレーシャー・ベイ/タッチェンシニー-アルセク(アメリカ/カナダ、1979年、1992年、1994年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
- タラマンカ地方-ラ・アミスター保護区群/ラ・アミスター国立公園(コスタリカ/パナマ、1983年、1990年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
- リオ・プラタノ生物圏保存地域(ホンジュラス、1982年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
- ガラパゴス諸島(エクアドル、1978年、2001年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
- サンガイ国立公園(エクアドル、1983年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
- カナイマ国立公園(ベネズエラ、1994年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))※ギアナ高地
- メイ渓谷自然保護区(セーシェル、1983年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
- ンゴロンゴロ保全地域(タンザニア、1978年、2010年、文化遺産(iv)、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
- ナミブ砂海(ナミビア、2013年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
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<複合遺産>
■複合遺産リスト
複合遺産は40件存在します。
ちなみに、自然と人間との共同作品を示す「文化的景観」との違いですが、文化的景観は自然そのものに桁外れの景観や類を見ない地形や生態系といった顕著な普遍的価値が不要なので、自然遺産登録基準を満たす必要がありません。
それに対して複合遺産は、文化遺産・自然遺産双方の登録基準を満たし、両方の顕著な普遍的価値を備えていなくてはなりません。
○複合遺産全リスト
- セント・キルダ(イギリス、1986年、2004年、2005年、文化遺産(iii)(v)、自然遺産(vii)(ix)(x))
- アトス山(ギリシア、1988年、文化遺産(i)(ii)(iv)(v)(vi)、自然遺産(vii))
- メテオラ(ギリシア、1988年、文化遺産(i)(ii)(iv)(v)、自然遺産(vii))
- ラポニアン・エリア(スウェーデン、1996年、文化遺産(iii)(v)、自然遺産(vii)(viii)(ix))
- ピレネー山脈-ペルデュ山(スペイン/フランス、1997年、1999年、文化遺産(iii)(iv)(v)、自然遺産(vii)(viii))
- イビサ、生物多様性と文化(スペイン、1999年、文化遺産(ii)(iii)(iv)、自然遺産(ix)(x))
- ギョレメ国立公園とカッパドキアの岩窟群(トルコ、1985年、文化遺産(i)(iii)(v)、自然遺産(vii))
- ヒエラポリス-パムッカレ(トルコ、1988年、文化遺産(iii)(iv)、自然遺産(vii))
- オフリド地域の文化的・歴史的景観とその自然環境(アルバニア/北マケドニア、1979年、1980年、2019年、文化遺産(i)(iii)(iv)、自然遺産(vii))
- 泰山(中国、1987年、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(v)(vi)、自然遺産(vii))
- 黄山(中国、1990年、2012年、文化遺産(ii)、自然遺産(vii)(x))
- 峨眉山と楽山大仏(中国、1996年、文化遺産(iv)(vi)、自然遺産(x))
- 武夷山(中国、1999年、2017年、文化遺産(iii)(vi)、自然遺産(vii)(x))
- ワディ・ラム保護区(ヨルダン、2011年、文化遺産(iii)(v)、自然遺産(vii))
- カカドゥ国立公園(オーストラリア、1981年、1987年、1992年、2011年、文化遺産(i)(vi)、自然遺産(vii)(ix)(x))
- ウィランドラ湖群地域(オーストラリア、1981年、文化遺産(iii)、自然遺産(viii))
- タスマニア原生地域(オーストラリア、1982年、1989年、文化遺産(iii)(iv)(vi)、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
- ウルル=カタ・ジュタ国立公園(オーストラリア、1987年、1994年、文化遺産(v)(vi)、自然遺産(vii)(viii))
- トンガリロ国立公園(ニュージーランド、1990年、1993年、文化遺産(vi)、自然遺産(vii)(viii))
- ロックアイランドの南部ラグーン(パラオ、2012年、文化遺産(iii)(v)、自然遺産(vii)(ix)(x))
- パパハナウモクアケア(アメリカ、2010年、文化遺産(iii)(vi)、自然遺産(viii)(ix)(x))
- ティカル国立公園(グアテマラ、1979年、文化遺産(i)(iii)(iv)、自然遺産(ix)(x))
- マチュピチュの歴史保護区(ペルー、1983年、文化遺産(i)(iii)、自然遺産(vii)(ix))
- リオ・アビセオ国立公園(ペルー、1990年、1992年、文化遺産(iii)、自然遺産(vii)(ix)(x))
- タッシリ・ナジェール(アルジェリア、1982年、文化遺産(i)(iii)、自然遺産(vii)(viii))
- ロペ-オカンダの生態系と残存する文化的景観(ガボン、2007年、文化遺産(iii)(iv)、自然遺産(ix)(x))
- バンディアガラの断崖[ドゴン人の地](マリ、1989年、文化遺産(v)、自然遺産(vii))
- マロティ=ドラケンスバーグ公園(南アフリカ/レソト、2000年、2013年、文化遺産(i)(iii)、自然遺産(vii)(x))
- ンゴロンゴロ保全地域(タンザニア、1978年、2010年、文化遺産(iv)、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x))
- チャンアン複合景観(ベトナム、2014年、2016年、文化遺産(v)、自然遺産(vii)(viii))
- カンペチェ州カラクムルの古代マヤ都市と熱帯保護林(メキシコ、2002年、2014年、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)、自然遺産(ix)(x))
- ブルーマウンテン山脈とジョン・クロウ山地(ジャマイカ、2015年、文化遺産(iii)(vi)、自然遺産(x))
- 南イラクのアフワール:生物の避難所と古代メソポタミア都市景観の残影(イラク、2016年、文化遺産(iii)(v)、自然遺産(ix)(x))
- カンチェンゾンガ国立公園(インド、2016年、文化遺産(iii)(vi)、自然遺産(vii)(x))
- エネディ山塊:自然及び文化景観(チャド、2016年、文化遺産(iii)、自然遺産(vii)(ix))
- ピマチオウィン・アキ(カナダ、2018年、文化遺産(iii)(vi)、自然遺産(ix))
- テワカン=クイカトラン渓谷:メソアメリカの固有生息地(メキシコ、2018年、文化遺産(iv)、自然遺産(x))
- チリビケテ国立公園-ジャガーの生息地(コロンビア、2018年、文化遺産(iii)、自然遺産(ix)(x))
- パラチーとグランジ島-文化と生物多様性(ブラジル、2019年、文化遺産(v)、自然遺産(x))
- テ・ヘヌア・エナタ-マルキーズ諸島(フランス、2024年、文化遺産(iii)(vi)、自然遺産(vii)(ix)(x))
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もちろんたくさんの登録基準をクリアしているから「良い」というものではありません。
でも、たとえば目の前の自然が世界レベルの美(vii)を誇り、とても珍しい地形(viii)で、進化論的に重要な生物がいて(ix)、ホットスポットのような生物にとっての最重要な生息地である(x)ということを知っていたら、世界遺産の見方・楽しみ方が少し変わってくるのではないでしょうか。
そういう意味もあってこのようなランキング(というかカテゴライズ)をしてみたわけです。
次回は「世界の七不思議」を見ていきましょう。