世界遺産と建築07 ローマ建築
シリーズ「世界遺産で学ぶ世界の建築」では世界遺産を通して世界の建築の基礎知識を紹介します。
なお、本シリーズはほぼ毎年更新している以下の電子書籍の写真や文章を大幅に削ったダイジェスト記事となっています。
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第7回はローマ建築の基礎知識を紹介します。
ローマ建築の特徴の一例は以下です。
- コリント式あるいはコンポジット式のオーダーを持つ
- アーチを多用している
- ヴォールト、ドームの石造天井を持つ
なお、アーチ、ヴォールト、ドームについては「世界遺産と建築05 石造建築の基礎知識」を、オーダーについては「世界遺産と建築06 ギリシア建築」を参照してください。
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<ローマ建築>
■アーチとローマ
ギリシア都市はアクロポリスとアゴラを中心としていましたが、ローマ都市の中心は公共広場フォルムで、ここに神殿や議会・裁判所・民会・市場などが築かれました。
ギリシアでは主に神殿を石で築いていましたが、ローマ都市では神殿のみならずバシリカ(集会場)・闘技場・劇場・公共浴場・水道など、あらゆる大型公共施設が石で建造されました。
ギリシア建築との最大の違いは、ローマ建築では屋根や天井まで石で造られた点です。
卓越した「アーチ」の技術が石造屋根や石造天井を可能にしました(といっても実際に石造の屋根や天井を持つのは主要都市の建物のほんの一部です)。
アーチ自体はメソポタミアで発明されており、橋や地下構造に使われていました。
これをイタリア先住民族エトルリア人がヨーロッパに持ち込み、神殿に転用したといわれます。
やがてローマ人がエトルリア人と同化してイタリア半島を征服すると、アーチはヴォールトやドームに発展し、あらゆる建造物に応用されるようになりました。
■ヴォールト&ドーム建築
左右の壁からアーチを架け、このアーチを前後に平行に重ねていくと、カマボコ形あるいは半筒状の空間が生まれます。
この構造や形を「ヴォールト」といいます。
アーチの頂部の石(キーストーン)を軸に、アーチを回転させた半球形の構造や形が「ドーム」です。
このヴォールトとドームによって、石造の屋根・天井と広い内部空間が実現しました。
最たる例がローマのパンテオン①です。
直径43mを誇る巨大なドームは、ルネサンスの時代にフィレンツェでサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂②のクーポラ(ドーム)が完成するまで1,300年にわたって地上最大のドームでありつづけました(このクーポラの内径が最大45.5m・最小41.5mであるため、パンテオンの方が大きいとする説もあります)。
※①世界遺産「ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フォーリ・レ・ムーラ大聖堂(イタリア/バチカン共通)」
②世界遺産「フィレンツェ歴史地区(イタリア)」
■凱旋門
ローマ建築最大の特徴であるアーチは、ギリシア建築の「オーダー」と組み合わさることで飛躍します。
そのもっともシンプルな形が戦勝記念の「凱旋門(がいせんもん)」です。
凱旋門の典型がローマのコンスタンティヌス凱旋門※です。
副帝だったコンスタンティヌスが正帝マクセンティウスに勝利した312年のミルウィウス橋の戦いでの勝利を記念した門で、幅25.7m・奥行7.4m・高さ21mという巨大なものになっています。
有名なパリのエトワール凱旋門のモデルとしても知られています。
※世界遺産「ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フォーリ・レ・ムーラ大聖堂(イタリア/バチカン共通)」
■円形闘技場/アンフィテアトルム
アーチ建築の最高峰といえるのが「アンフィテアトルム(円形闘技場)」です。
その名の通り円形あるいは楕円形の闘技場で、ここで剣奴(剣闘士/グラディアトル)同士、あるいはゾウやライオン、ヒョウ、オオカミといった猛獣同士、または剣奴VS猛獣の戦いが繰り広げられました。
最大のアンフィテアトルムがローマのコロッセオ※で、長径188m・短径156mの楕円形、高さ48.5mの4階建て、収容人数は5万人を誇ります。
アーチのひとつの弱点が横に広がって倒壊しようとするスラストと呼ばれる水平力ですが、コロッセオではローマン・コンクリートの軽さでこれを軽減しつつ、アーチを連続させて一周させることでアーチ同士が互いに支え合うきわめて堅固な構造を実現しました。
コロッセオの柱の柱頭装飾は1階がドーリア式、2階がイオニア式、3階がコリント式、4階がコンポジット式(イオニア式とコリント式の装飾を合わせた様式)となっています。
※世界遺産「ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フォーリ・レ・ムーラ大聖堂(イタリア/バチカン共通)」
■水道橋
アンフィテアトルムと並んでアーチを多用した構築物が「水道橋」です。
ローマ帝国は各地を征服すると都市をローマ風に改築し、周辺の水源から水道を築いて水を引き入れました。
首都ローマだけで11の水道があり、総延長は350kmに及びます。
ローマ時代の水道は高低差を利用し、重力のみを使って水を流しました。
そのため水源から徐々に高度を下げなければなりませんが、ローマ帝国には1kmあたり34センチ以内という傾斜の基準があり、両端に重りを垂らした木製の水準器で精密な測定を行いました。
こうしたアーチの技術や傾斜を測定・維持する技術は中世の時代に失われてロスト・テクノロジーとなり、水道の再建はおろか修理もままならなかったといいます。
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シリーズ「世界遺産で学ぶ世界の建築」、第8回はビザンツ建築/ビザンチン建築を紹介します。