世界遺産と建築04 木造建築の基礎知識
シリーズ「世界遺産で学ぶ世界の建築」では世界遺産を通して世界の建築の基礎知識を紹介します。
なお、本シリーズはほぼ毎年更新している以下の電子書籍の写真や文章を大幅に削ったダイジェスト記事となっています。
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第4回は木造建築の基礎知識を紹介します。
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<木造建築の基礎知識>
■横穴式住居、竪穴式住居
天然の洞窟を利用した住居や人工的に洞窟を掘った住居を「横穴式住居」あるいは「洞窟住居」「洞穴住居」「岩窟住居」などと呼びます。
旧石器時代の後半から、人々はそうした岩場を抜け出し、大地に穴を掘って屋根を架ける「竪穴(たてあな)式住居」の建設をはじめます。
竪穴ならどこにでも建設できますし、半地下とすることで屋根を架けるだけで部屋ができ、また地下は比較的気温が安定しており、風や地震に強いといったメリットもありました。
竪穴式住居は土間(どま。地面のままの場所)と土壁というベースに、穴を掘って柱を立てていました。
このように地面に直接埋め込む柱を「掘立柱(ほったてばしら)」といいます。
中央に掘立柱を立て、その頂部から放射状に「垂木(たるき)」を架けていくと傘の骨組みのような構造ができます。
結果的にお椀を伏せたような形になりますが、これを「伏屋式(ふせやしき)」といいます。
■壁立式住居、平地式住居、小屋組
石や土・レンガを積み上げて壁を造り、その上に屋根を架けた住居を「壁立式住居」といいます。
竪穴式住居が発達すると、穴の周囲に壁を築いてより広い室内空間を確保しましたが、やがて平地にそのまま壁を建てる様式が誕生しました。
このように平地に築く住居を「平地式住居」、壁で上部を支える構造を「壁構造」、材料を積み上げて壁を築く構法を「組積造(そせきぞう)」といいます。
大きな住居では1本の掘立柱で屋根を支えるのではなく、柱を2本に増やして柱と柱の間に「棟木(むなぎ)」という横架材を架け、棟木から地面に向けて垂木を延ばして屋根を架けました。
上の写真のふたつの住居の頂部は水平ですが、この水平部分を「棟(むね)」といいます。
屋根を支えるために三角形の骨組構造を持つことになりますが、これを「小屋組」といいます。
小屋組は木造建築の屋根だけでなく、石造建築の屋根にもしばしば使用されます。
ロマネスク建築やゴシック建築などでも天井は石造であっても、 雨よけのために傾斜をつける必要から小屋組の屋根が載せられています。
■高床建築、軸組
やがて木材の加工技術が発達し、同じ形の板を生産できるようになりました。
板は壁や床・天井・屋根とあらゆる場所に使用されました。
これに伴って発達したのが「高床(たかゆか)建築」で、地面に複数の掘立柱や杭を立て、その上に板で壁や床を張って住居としました(高床式住居、杭上住居)。
地面の状態に左右されることがないため傾斜地や水辺などにも建てることができるうえに、地面と床を離すことで水や害虫・害獣の侵入を手軽に防ぐことができるようになりました。
このため特に穀物などを貯蔵する倉として利用されました(高床式倉庫)。
高床建築では柱と梁で直方体のフレームを作って壁や床に板を張るのが一般的です。
このような四角形の骨組構造を「軸組」といいます。
■柱梁構造、架構式構造、木造軸組構法
上部の屋根を三角形の小屋組で造り、下部の部屋を四角形の軸組で支える――
これが木造建築の基本的な構造です。
軸組について、地面に垂直に立てた柱と、柱の上に水平に寝かせた梁(はり)、下部の土台によって直方体のフレームが作られます。
このように細長い素材をつないでフレームを作る骨組構造を「架構式構造」、柱と梁を軸とする場合は「柱梁構造」、特に木材で軸組を組む構法を「木造軸組構法」といいます。
柱梁構造では上部の重さを柱や梁といったフレームに伝えるため、壁には重さが掛かりません。
このような壁を「カーテン・ウォール」あるいは「帳壁(ちょうへき)」といい、逆に重さを受ける場合は耐力壁と呼ばれます。
なお、日本では屋根の重さを受ける横架材を梁、重さが掛からず垂木を支えるための横架材を桁(けた)といって区別しています。
梁は四角形の短辺、桁は長辺に配されるのが一般的です。
■ハーフティンバー/コロンバージュ/半木骨造
木の柱と梁でフレームを作りつつ、柱と柱の間に石やレンガを積み上げて壁を築く柱梁構造・壁構造の中間的な構造を「半木骨造」といいます
柱や梁が外から見えるため英語では「ハーフティンバー」、フランス語では「コロンバージュ」、ドイツ語で「ファッハヴェルクハウス」といわれます。
中国では宮殿や城塞で使用され、日本では天守閣や倉にしばしば採用されています。
■ログハウス、校倉造、板倉造
木造建築では柱と梁のフレームをベースとする柱梁構造が一般的ですが、なかには木材を積み上げて壁を造る組積造の壁構造を採るものもあります。
丸太(ログ)を寝かせて積み上げた建物を「ログハウス」といいます。
その中で、細長い三角柱の木材を組み上げたものを「校倉造(あぜくらづくり)」、四角柱の木材を組み上げたものを「板倉造(いたくらづくり)」と呼びます(まとめて校倉造と呼ばれることもあります)。
ログハウスは壁が屋根の重さを支えるのでカーテン・ウォールではなく耐力壁となっています。
■屋根の種類
屋根の頂部に一本の棟木を置き、棟木から地面に向けて垂木を架けてできる「∧」形の屋根構造を「切妻造(きりづまづくり)」といいます。
日本の神社建築、特にご神体を祀る本殿では切妻屋根が一般的です。
切妻屋根は2方向にのみ傾斜を持ちますが、四方に傾斜を持つ屋根構造を「寄棟造(よせむねづくり)」といいます。
寄棟屋根では中央の棟(大棟)の両端から斜め下方向に2本ずつ隅棟(すみむね)を延ばし、隅棟と隅棟の間に垂木を並べて屋根を形成しています。
中国ではもっとも格式が高い屋根とされており、宮殿や寺院で好んで用いられています。
寄棟屋根の上に切妻屋根を載せたような形の屋根構造を「入母屋造(いりもやづくり)」といいます。
日本では入母屋屋根が尊重され、しばしば寺院や神社の屋根に使用されています。
棟木が存在せず、頂点となる1点から隅棟を放射状に延ばした正方形や正六角形・正八角形・円形の屋根構造を「宝形造(ほうぎょうづくり)」といいます。
上から見て屋根が正方形なら方形造、正六角形なら六注造、正八角形なら八注造ともいい、このような堂宇は「円堂」と呼ばれます。
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シリーズ「世界遺産で学ぶ世界の建築」、第5回は石造建築を紹介します。