世界遺産と建築03 建築の種類3:メガリス
シリーズ「世界遺産で学ぶ世界の建築」では世界遺産を通して世界の建築の基礎知識を紹介します。
なお、本シリーズはほぼ毎年更新している以下の電子書籍の写真や文章を大幅に削ったダイジェスト記事となっています。
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1.古代、ギリシア・ローマ、中世編 2.近世、近代、現代編
3.イスラム教、ヒンドゥー教編 4.仏教、中国、日本編
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第3回は建築物の種類、特にメガリスを紹介します。
メガリスは巨石記念物のことで世界中で建設されていますが、特にヨーロッパ巨石文化のものを中心に種類別に紹介していきます。
* * *
<メガリス>
■メンヒル/立石、石碑
独立した石を立てた記念碑的な石を「メンヒル(立石)」といいます。
自然石を立てたものから加工されたものまで意匠は多彩です。
石に文字が刻まれている場合は「石碑」、彫刻の場合は「石彫(せきちょう/いしぼり)」、墓に供えられた石は「墓石」、墓石に文字が刻まれている場合は「墓碑」などと呼ばれることもあります。
マヤ文明の遺跡には「ステラ」と呼ばれる石碑が多数見られます。
もともとステラは碑を意味するラテン語で、スペイン人によって名付けられました。
南欧には「ステチュツィ※」と呼ばれる同じ語源の墓碑群があります。
※世界遺産「中世の墓碑ステチュツィの墓所群(クロアチア/セルビア/ボスニア・ヘルツェゴビナ/モンテネグロ共通)」
■アリニュマン/列石
メンヒルを直線上に並べたものを「アリニュマン(列石)」と呼びます。
列は1列であることも複数列であることもあります。
エーヴベリー※のケネット・アベニューは2列のアリニュマンで知られます。
このように英語ではアリニュマンは「アベニュー」と呼ばれることが多くなっています。
※世界遺産「ストーン・ヘンジ、エーヴベリーと関連する遺跡群(イギリス)」
■ストーン・サークル/環状列石
円形に並べられたメンヒルは「ストーン・サークル(環状列石)」と呼ばれます。
アイルランドやイギリス、フランス北部では多数のストーン・サークルが発見されていますが、なぜこの地域に集中しているのか、どの民族が築いたのかは謎に包まれています。
ストーン・サークルは石を円形に配置した単純な意匠であるため世界各地で見られます。
アフリカ・ガンビア川流域では1,000以上のストーン・サークル①が発見されており、日本でも大湯環状列石②のように縄文時代の遺跡で見られることがあります。
※①世界遺産「セネガンビアのストーン・サークル(ガンビア/セネガル)」
②世界遺産「北海道・北東北の縄文遺跡群」
■ヘンジ、エンクロージャー、カーサス
円形の環状遺跡は「ヘンジ」と呼ばれます。
ストーン・ヘンジ※やエーヴベリー・ヘンジ※が知られますが、両遺跡の周辺には他にもウッド・ヘンジ※、コリーベリー・ヘンジ※などのヘンジが存在します。
ストーン・サークルはヘンジの一種です。
ストーン・ヘンジの最初期の土のヘンジは紀元前3100年前後の建設で、直径110mに達します。
紀元前3000年頃にはその内側に木製のヘンジが築かれ、その後さらに内側に玄武岩や砂岩のストーン・サークルが同心円状に並べられました。
石を積み上げて円形に囲った大型のヘンジは「エンクロージャー」、四角形に並べられた工作物は「カーサス」と呼ばれます。
※世界遺産「ストーン・ヘンジ、エーヴベリーと関連する遺跡群(イギリス)」
■ドルメン/支石墓、トロス/円形神殿、巨石神殿、石室墓
平らな天井石を複数の支石で支えた巨石墓を「ドルメン(支石墓)」といいます。
天井石が浮いているように見える形が特徴で、独特の雰囲気を持っています。
もっとも有名なのはアイルランドのプールナブローン・ドルメン①でしょう。
朝鮮半島では「コインドル」と呼ばれており、半島全域で5万前後のコインドルが存在するといわれます。
このうち高敞、和順、江華のドルメン群②が世界遺産に登録されています。
ドルメンよりさらに複雑な構造を持つ神殿は「巨石神殿」、円形神殿は「トロス」、石室を持つ墳墓は「石室墓」、石室への羨道を持つ墳墓は「羨道墳」と呼ばれます。
※①アイルランドの世界遺産暫定リスト記載
②世界遺産「高敞、和順、江華の支石墓群跡(韓国)」
■オベリスク、ステッレ
古代エジプトで神殿の前などに立てられた記念碑が「オベリスク」です。
神やファラオの名前や謝意がヒエログリフ(象形文字)で刻まれた一種の石碑です。
エジプトのオベリスクの影響を受けてエチオピアのアクスム王国が立てた一枚岩の記念碑が「ステッレ」です。
かつて首都アクスム※には最大33mになるステッレが約130基も立ち並んでいました。
※世界遺産「アクスム(エチオピア)」
■スタンバ
高い山は世界各地で神聖視されており(聖山信仰)、ピラミッドやピラミッド形の宗教建造物も人工的に造り出された聖山といえるでしょう。
同じように、天に近い柱や樹木もしばしば神聖視されました(聖柱信仰、聖樹信仰)。
よく知られた聖柱が古代インドの「スタンバ」です。
スタンバは天と地を結ぶ役割を果たし、宇宙の根本原理であるブラフマンの象徴とされていました。
メソポタミアや古代エジプト、古代ギリシアにおいて、神殿は柱で囲われたり、多くの柱が立ち並ぶ多柱室や列柱廊が設けられました。
石壁の神殿には本来、それほどの石柱は不要ですが、柱を並べることで神聖な空気感を醸し出したのでしょう。
日本では神や魂の数を「柱」で数えますが、これも一種の聖柱信仰でしょう。
伊勢神宮の正殿床下に立てられた心御柱(しんのみはしら)や、塔の中心に立てられた心柱(しんばしら)はその表れともいわれます。
『鬼滅の刃』の鬼殺隊剣士の「柱」もここから来ているのでしょうね。
シリーズ「世界遺産で学ぶ世界の建築」、第4回は木造建築の基礎知識を紹介します。