エッセイ1:昔昔の彼女の物語
フィクションなのか、 ノンフィクションなのか、 さてさて。
誰にも話したことのない物語。
ずっと隠しておきたかった物語。
でも、どうしても書きたかった物語。
どうかどうか、彼女が幸せでありますように。
* * *
ぼくは21歳ではじめて彼女ができた。
性格も、ルックスも、とてもとてもかわいらしい17歳の女の子。
彼女にとってもぼくがはじめての彼氏だった。
彼女には夢があった。
23歳で結婚すること。
「6年後、必ず迎えに行くよ」
そう言って、誓い合って、貯金まで積み立てて、お互いの家を行き来して、あげくにぼくは彼女の家から出勤するようになったりして、6年がすぎた。
1998年の冬、6年目の正月。
ぼくは彼女のことが大好きで、彼女もぼくのことが大好きで、ずっとくっついて新年を迎えた。
毎年恒例の誓いを立てて。
でも。
その年の春、ぼくらは別れた。
形のうえではぼくが振られたことになる。
でも、そう仕向けたのはぼくだ。
ぼくは一度だって結婚の話をしようとせず、ごまかし続けた。
彼女は別れを告げて、こう言った。
「好きだけじゃダメなんだね」
そして呟いた。
「人生でいちばん大事な6年が無駄だった」
1998年内に、1度か2度電話で話をしたことがある。
「もう死んでもいいって思う」
ぼくは何も言うことができなかった。
ぼくはというと、本当にしたいことをしようと考えた。
そして会社を辞め、約3年にわたる世界一周の旅に出た。
2007年6月、知らないアドレスから一通のメールが入った。
姓は違ったけれど彼女の名前だった。
彼女はまだ生きているかどうかわからないアドレスに、メールをくれた。
引っ越しで荷物をまとめていたらぼくの写真がたくさん出てきたという。
結婚して二児の母をやってると。
二通目のメールで4歳の女の子と生後4か月の赤ちゃんの写真を送ってくれた。
笑顔に満たされたとても幸せそうな写真。
特に、女の子の目は彼女の目だった。
おめでとう。
よくがんばったね。
よく幸せになったね。
心の底から「おめでとう」を贈った。
心の底から彼女の幸福を祝い、永遠に続く幸福を祈った。
10年経ってもぼくは心の中の彼女にずっと謝りつづけていた。
本当にごめん。
あなたを不幸にしてしまった。
その写真を見て、ぼくは思った。
でもいまが幸福なら、あんな時代もよかったと思ってもらえるだろうか?
しばらくして三通目のメールが届いた。
彼女はこう書いていた。
「一緒にいた頃の私はワガママばかりでした。でも、そんな私とたくさん一緒にいてくれて本当にありがとう……ずっとずっとそれが言いたかった」
ぼくにとってあの6年間は、それだけで生まれてきてよかったと思える時間です。
こちらこそ、そんな時間をありがとう。
本当にありがとう。
もう会うことはないと思います。
でも、もっともっと幸せになってください。
* * *
どうかどうか、彼女がずっと幸せでありますように。
彼女の家族が幸せでありますように。
別れてから10年、出会ってから16年かけてようやく終わった物語。
これだけで生きていけると思える大切な物語。
Dai@日本、横浜