絵&写真1:美と人間の尊厳 ~有元利夫展~
有元利夫展に行った。
とても感動した。
もともとああいう具象画はあまり好きじゃない。
具体的な物を描くと、物に与えられた意味や、物と物との間に与えられた意味が前面に出てきてしまうために、絵本来の魅力が失われることが多いからだ。
だから具象画って抽象画より難しいと思う。
絵の本質は絵の「意味」にない。
何か意味を主張したいなら文章で書けばいい。
意味=論理だから、意味は文章化できるはずだ。
ところが、絵には文章化できない神秘が封じ込められている。
梅干を食べたことのない人にその味を伝達するのが不可能なように、絵の魅力は伝達できない。
絵は絵でなければ表現できない。
だから画家はいつだってひたすら絵にこだわる。
それが、絵の本質だ。
それは論理外のものだから、当然「この絵の魅力は……」などと語れるものではなく、絵の真髄を知りたければそこに行って見るしかない、ということになる。
有元利夫の絵はそんな魅力に満ちていた。
彼の絵を見ているとキューッと引き込まれて自分と絵の境が消えていく。
空間が消え、時間が消え、思考が消え、やがて感覚さえも消え失せる。
自分がどれだけの時間そこにいたのか、何を感じていたのか理解できない。
でも、何よりも大切なものと触れ合ったことだけは直観する。
短時間でこうも引き付けられる絵は多くない。
とても力強かった。
絵もすごいのだが、この展覧会自体がすばらしかった。
意味性を消すために、絵にはタイトルも解説もいっさいない。
絵の真髄を発揮するために、額にはガラスさえもはめられていない。
それで絵の寿命が短くなったとしても、絵の真髄を伝えたい。
そういうことなのだろうと思う。
有元利夫に対する、絵に対する、アートに対する、そして人に対する敬意を感じる。
ありがとう。
本当にすばらしい展覧会でした。