グルメ10:革命の味 at バードランド
ある料理を食べることでその料理の概念が変わってしまうという経験を誰しもしたことがあるだろう。
人生の中で最大の衝撃のひとつは青山のイタリアン・レストランで食べた白トリュフのパスタだ。
ある作家さんに招待していただいたのだが、「これ以上のトリュフはありません」とシェフがわざわざケースに厳重に保管された白トリュフをテーブルに見せにきた。
本当にすばらしかった。
でもまぁそれほどの素材なら衝撃を受けたとしても無理はない。
「衝撃」はその料理が一般的なものであればあるほど大きなものとなる。
たとえばそれが焼き鳥だったとしたら?
社会人になればみんなお気に入りの焼き鳥屋だってできるだろうし、たまには1本300円くらいするちょっと高めの焼き鳥屋に入ることだってあるだろう。
それほど食べ慣れた料理で大きな衝撃を受けることなんてめったにあるもんじゃない。
ところがその焼き鳥の概念を変えてしまったのが「バードランド」というお店だ。
「わさび焼き」を味わってほしい。
まず香りがたまらない。
炭火というのは不思議なもので、火を通すだけでなく、素材の臭みを消したうえで香りだけを高める力がある。
その香り高い奥久慈軍鶏はレアに焼かれており、中は生に近いんだけどちゃんと火が通っていてうま味を完全に閉じ込めている。
噛み付く。
脂肪分の少ないリズムの塊みたいな筋肉が口の中で踊る。
歯がカリっとした表面を抜けると、サクっとヌメリと柔らかい赤味がしっかりとした歯ごたえで応える。
そして肉汁がじわり。
「なんじゃこりゃ」
肉だ。
脂肪でも皮でもなく純粋に肉。
脂肪のコクとかタレの甘さなんかに逃げず、ただ肉そのものだけでうまい。
ただ肉だけで、甘い。
肉ってこんなにもおいしかったんだ。
歯ごたえ、味、ともに驚異だ。
そしてまたわさびがうまい。
本当にうまいわさびは甘い。
緑の青々とした香りとカラッとした辛味と和三盆のようなやさしい甘味。
バードランドの真髄はこのわさび焼きだと勝手に思ってる。
なんでもないように見える鶏肉に、ただ焼いただけに思える調理法。
なんの変哲もないたったひと串に、大自然の神秘と人類の叡智をそのまま封じ込めている。
アートの真髄だ。
ふー。
わさび焼きだけでこんなに書いちまった。
まだまだこの店には看板メニューみたいになっているレバーやつくね、親子丼から、手羽先、ボンボチ、皮、正肉などの定番メニュー、椎茸、銀杏などの野菜と、味わいたい串がたくさんある。
レバーにしても椎茸にしても親子丼にしても、やっぱり新しい感覚を呼び覚まされるような衝撃が味わえる。
すばらしいお店だ。
ほんとかどうかは知らないが、ジョエル・ロブションも絶賛したっていうしね。
難点は値段。
ワインを飲んだりなんやかやで1万円近くする。
こんな焼き鳥屋はありえないとよく批判されているが、ありえない焼き鳥なんだから仕方ないだろう。
バードランドには北千住に姉妹店みたいなお店、バードコートがある。
こちらも同様の感動を与えてくれる。
心からオススメしたい二軒のお店。
感動がほしい人。
真理に近づきたい人。
今度一緒に行かないかい?
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