グルメ7:命の水 at 画亭瑠屋 & ル・パラン
まだ大学出たての20代。
ほぼ毎週、水曜日には日吉のバーに出かけていた。
行くのはたいてい格闘技の友人と、練習後。
バーの名前は画亭瑠屋。
それまでビールだのカクテルだのバーボンだのを特に考えることなく飲んでいた。
それでもこのお店のビール(当時はレーベンブロイだった気がする)と、作ってくれるカクテル、おつまみのオイルサーディンの黄金焼は特別おいしかった。
そんなとき、友人にすすめられるままに何気なく頼んだシングル・モルトを口に含んで衝撃を受けた。
そのときのお酒がこれ、アードベグ10年だ。
ヨード臭とか正露丸の香りとか言われてしまうアイラ島のシングル・モルトに特徴的な強烈な香り。
最初は「なんじゃこりゃ」と思ったけれど、その次に画亭瑠屋に行ったときから、ボウモアやラフロイグなど、アイラ島のシングル・モルトばかりをやっつけていったのを覚えている。
それからというもの、画亭瑠屋にはさらにさらにお世話になった。
おいしいラムやテキーラを教わったのも、この店だ。
画亭瑠屋との出会いがなければ、いまこんなに「のみすけべ」になってることもなく、ただの「すけべ」おやじですんでいただろうに。
そのうち自分の家でもシングル・モルトを飲むようになった。
もっともよく買ったお酒は、アードベグとザ・グレンリベットだろう。
ザ・グレンリベットは、よくシングル・モルトの基礎酒と言われるお酒で、安いのにとてもおいしくて、コスト・パフォーマンスにすぐれたウイスキーだ。
月日は経って、あるときザ・グレンリベット12年が飲めなくなった。
なんだか香水臭くて突然嫌いになり、ザ・グレンリベットを買うこともなくなった。
それを新宿のバー le Parrain(ル・パラン)のバーテンに言った。
バーテンはこう返す。
「では、あえてこのザ・グレンリベット18年を」
バーテンは、それを「嫌いだ」という客に、あえてそれを出す。
こっちは飲みたくもないし安くもないその酒を、バーテンの自信を信じて注文する。
そして。
この日から、ザ・グレンリベット18年を家に常備するようになった。
といっても、どうもle Parrainにあったザ・グレンリベット18年とは違うんだけれどね。
英語で蒸留酒を「スピリッツ」という。
スピリッツ、つまり魂だ。
ゲール語で、ウイスキーを「ウシュクベーハー」という。
訳すと、命の水。
フランス語のブランデーは「オー・ド・ヴィー」とも呼ばれ、これもやはり「命の水」。
ロシア語のウォッカ、北欧のアクアビットも語源は「命の水」だそうだ。
何が言いたいかって?
うーん、なんていうか……いい感じだろ?
いま、ちょうどそのアードベグを飲んでいる。
10年前の会話が蘇る。
そうだ、久しぶりにアイツに電話して画亭瑠屋に行こう。
le Parrainも紹介したい。
こんだけ雰囲気のある店もないだろうし。
シガーだけは理解できないけれど。
お酒がまわってきた。
いー気持ちだ。
さて、命のザ・グレンリベット18年を飲むとしよう。
<関連サイト>
新宿『ル・パラン』の芳しい色香(All About「ウイスキー&バー」)
画亭瑠屋