グルメ1:カクテルの真実 at bar *****
赤坂の裏通り。
外国人女性にしばしば声をかけられるさらに奥。
「会員制」と書かれた重々しいドアの向こう側は懐かしい書斎の香り。
バーテンダーは「伝説」と言われるおじいさんだ。
たとえばカンパリのカクテル。
カンパリは、オレンジやらコリアンダーやら60種以上とも言われる果実や香草を混ぜてスピリッツ(蒸留酒)に漬け込んだリキュール(混成酒)だ。
香りと酸味のパンチが強烈で、草や胡椒のような土の香りと熱帯を思わせるフルーツの酸味がとても鮮やか。
でも、スピリッツみたいに蒸留していない分、溶け込んだ成分がそのまま残り、雑味も多くて質の悪いラムを飲んだ後みたいなコールタールくさい甘みが後を引くし、チクチク舌を刺激するエゴ味や渋味が舌を刺す。
空き地の雑草ってイメージ。
個々の野花の色彩は鮮烈でも、全体として雑多で汚れているというか。
ところがそのカクテルだ。
熱帯のビーチに実る完熟した果実。
そんな絵が浮かぶ。
海、ビーチ、青空、果実、カモメ、人……
雑多な要素を持ちながら、それぞれが干渉しあって強烈なコントラストを引き出し、1個の果実を浮かび上がらせる。
でも1枚の絵。
土の香りやフルーツの酸味はそのままに、変な甘みもエゴ味もいっさいない。
カンパリに混ぜられた何かしらのリキュールが、フワッと広がったイメージをキュッと引き締めスパッと切る。
そのキレはスピリッツのように鋭く、後には何も残らない。
そして次の印象を求めてまたひと口。
カンパリを単独で飲むよりはるかにうまい。
画家が自然から色を抽出して美の成分だけを濾過してキャンパスを埋めていく。
そうじゃなきゃダメという、それ。
カクテルじゃなきゃ出せない。
だからカクテルにする。
じいさん、あんたアーティストだよ。
※バーの名前は秘密