▼これから向かうイスタンブールでテロが起き、バングラデシュではついに一般の日本人が犠牲になった。悲しい。果てしなく悲しい。これまで中央アジア~コーカサスとイスラム教圏を歩き回り、たくさんのイスラム教徒のお世話になっているだけに、本当にやりきれない思いだ。
▼ISの至上命題はまずイスラム圏で主導権を握ることにある。そのためにキリスト教圏VSイスラム教圏、あるいは世界VSイスラム教圏という二極構造を作り出し、自らへの支援を拡大するのがテロの目的だろう。
▼中東の混乱は、米英仏が一部の部族と結託して国家を創り、傀儡の長期独裁政権を仕立てて富を独占したことに起因する。その過程で虐げられてきた各地の民族は、潜在的にこうしたテロ組織を支援しやすい状況にある。
▼一方で、こうした支配構造に気づいたイラン市民は革命を起こして米英を追い払うことに成功した。このため欧米とアラブの独裁政権群はイランを悪と断じて攻撃し、シーア派に対する恐怖を煽って自政権への批判をかわし、民主化の芽を摘もうとした。
▼そしてジャスミン革命以後、民主化の意識がいっそう浸透した現在、欧米やアラブ政権群はISやイランへの恐怖を煽って政権に対する支持を獲得し、民主化を防ごうとしている。結局、ISも欧米もアラブ諸国もイスラエルも、混乱が必要なのだろう。
▼中東の問題について、本質的に宗教はまったく関係がない。庶民レベルにおいてはスンニ派とシーア派という対立構造もなければ、キリスト教圏VSイスラム教圏という対立構造だってほとんど存在しない。ただ、それを利用しようとしている人たちがいる。
▼本当に怖いのはテロそのものではなく、そういう人たちに乗せられて対立構造を生み出してしまうことだ。いつだって他者への恐怖心が戦争を正当化し、虐殺さえ可能にする。実際にそうやって、もっとも人権概念が浸透したはずの20世紀に史上最悪の戦争が勃発し、多くの虐殺が行われた。
▼ただ、現在のぼくたちがこれまでの時代と決定的に異なるのは、ぼくたちが互いに交流する手段を持っているということだ。そして交流することにより、他者は他者でなくなる。イスラム教圏を旅したことがある人なら、彼らがいかに人をもてなすか肌身に染みているだろう。憎むことなんて、とてもじゃないができやしない。
▼恐怖が勝るか、交流が勝るかで、おそらく世界は変わる。そしてそのカギを、ぼくたち庶民が握っている。ぼくが、あなたが握っている。そんな重大な局面に、ぼくたちは遭遇しているのである。
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