iPod touchを買ったのでアプリをいろいろ物色中。
ってなときに、いまさらながら村上春樹『1Q84』を読了した。
この十数年、ぼくは本を読むと印象的な場面をメモしてデータに残すようにしている。
文学作品は部分を引き抜いても仕方ないという思いもあるのでそんなに多くはないけれど、哲学の本なんかになると1冊の1/5近くをPCに打ち込んだこともある。
ものによっては読むのに数週間。
それからまた打ち込みに1週間以上。
1冊で1か月以上を要することもあった。
もちろん。
打ち込みには苦労の反面、効用もある。
その著者・訳者の文体に浸れること。
そして数週間その著者の世界に身を置くことで、他者の世界に侵入し、思索をどこまでも深めることができるところ。
これを繰り返しているとね、自分と他者の境界が消えていく。
ぼくと著者の差異が消失する。
ぼくの魂が著者の魂と一致する。
ぼくという空間を、ぼくがまったく知らないはるか彼方の人々の心が埋めていく。
* * *
青豆は泣く。ずっとこらえていた涙が両方の目からこぼれる。彼女はそれを止めることができない。大粒の涙が、雨降りのような音を立ててシーツの上に落ちる。天吾を深く中に収めたまま、彼女は身体を細かく震わせて泣き続ける。天吾は両手を彼女の背中に回して、その身体をしっかりと支える。それはこれから彼がずっと支え続けていくはずのものだ。そして天吾はそのことを何よりも嬉しく思う。
彼は言う、「僕らがどれくらい孤独だったかを知るには、それぞれこれくらいの時間が必要だったんだ」
「動かして」と青豆は彼の耳元で言う。「ゆっくりと時間をかけて」
(村上春樹『1Q84 BOOK3』新潮社より)
* * *
といってもやっぱりタイピングは時間がかかるし疲れる。
だから本をスキャンしたり撮影してテキストに落とすOCRには興味があった。
で、使ってみたさ、"e.Typist Mobile"。
いや、スゲーわ。
正しく範囲設定すれば認識率は9割5分をはるかに超えるんじゃないか?
『1Q84』も一瞬で作業が終わってしまった。
いや、よい道具を見つけたものです。
まぁそりゃね、著者の時間に浸る時間が減るのは残念ではあるのですが。